旅情
白布温泉にはかつては茅葺屋根のお宿が3軒あり、歴史的な風景が現存していたそうです。しかし、2000年の大火事で2軒が消失してしまい、茅葺屋根を有するのは西屋さんだけとなりました。最近では芦原温泉の「べにや」さんも火事で失われています。貴重な泊まれる歴史的建造物が無くなってしまうのは悲しいことです。
西屋さんの起源は五百数十年前には白布の地にあったそうです。そして、少しずつ姿かたちを変えながら現在の建物となり、現在は有形文化財に登録されています。ロビーと廊下は磨きあげられていてピカピカです。ロビーにはちょっとした売店があり、看板ネコのにゃんこ小物が売っていたりします。
建物は木造建築部分の本館と、離れと宴会場があるコンクリート造と思われる部分から成ります。館内全体は湯治宿としての雰囲気と設備がそのまま残っており、トイレ、洗面所、冷蔵庫は共同使用となっています。離れのお部屋は現代風にトイレ付きのようです。右画像階段下にはソフトドリンクの自動販売機もあります。
トイレと洗面所は1階と2階にそれぞれあります。蛇口から出るのは温泉。既出物がびっしりと付いています。浴衣のサイズが合わなければ、交換できるように廊下に準備してくれています。過ごしやすい時期に訪れたので気にはなりませんでしたが、本館にはお部屋にエアコンの設備がありません。離れと宴会場には空調が付いているとあります。
お部屋
案内して頂いたのは「べにばな」というお部屋です。
西屋さんの中では最も小さいお部屋の1つです。間取りは本間6畳+踏み込み+広縁です。年季が入っているのにとても綺麗にされておられます。派手な装飾などはありませんが、縁側からの光がとても明るく、踏み込み1畳と床の間が2畳ぐらいあるので6畳とは思えない広さを感じます。
お部屋には古い暖房器具はありますが、エアコンはないため扇風機を置いてくれています。訪れた9月は暑くも寒くもなかったので快適でした。備品はドライヤー、シャワーキャップ、ひげそり、歯ブラシ、フェイスタオル、バスタオル、浴衣、丹前、冷水、お湯とお茶セット、虫よけスプレー、カメムシ取りのテープと完璧な装備です。夕食の間にお布団敷きがあります。トイレと洗面は共同の物を使用します。
お風呂
西屋さんには浴室が3つあります。男女別の「湯滝風呂」と貸し切り風呂の「家族風呂」があります。湯滝風呂の女湯へは画像右の渡り廊下を行きます。すべての浴室では24時間入浴可能かけ流しとなっています。泉質はカルシウム硫酸塩泉で、お湯自体に特徴はあまりなく無味無臭です。肌にはサラりとした感触と湯上がりのしっとり感は僅かにある程度です。だが・・・・・。泉質にパンチがなくても、西屋さんのお風呂はそこではなく圧倒的な湯量が特徴といえましょう。
湯滝風呂
西屋さんの代名詞的なお風呂です。3本の樋(とい)から掛け下ろされる、とんでもない量の温泉。その隣にある「激あつ湯」の源泉槽。チャレンジしましたが足入れたら真っ赤に。死ぬ温度です。源泉の温度が高いため、滝湯は程良く加水しているそうです。加水していても白い湯の花が多量に浮遊しています。打たせ湯としての威力も素晴らしく湯量が多いので重みがあり、疲れた筋肉にバシバシ当てました。
オーバーフローがとんでもないという前情報は知っていました。画像でお伝えするには難しいほどに、湯船全体から想像をはるかに凌ぐ量が溢れ出ていきます。洗い場という概念はありませんが、湯船から出て洗髪洗体をしていても、説明書き通り泡は溢れ出すお湯に追い返されて湯舟には入らないようになっています。湯船に体を沈めると常に新しいお湯が体にまとわりつくのは大変気持ちが良い。捨て湯はお風呂紹介の冒頭の画像にある女性風呂に行く渡り廊下の下を豪快に流れていきます。それなりに宿泊客がいたのにいついっても貸切状態でゆっくりできました。こちらの浴場には髭そり、綿棒、ウォーターサーバーが置いてありました。
家族風呂
家族風呂は極力加水せず源泉が楽しめるようになっているようです。到着直後に入ったら、「あつ湯」のはずの源泉は湯口では何故かぬるい。でも、翌朝に入ったら湯船の中のお湯は熱く、湯口のお湯もかなりの熱さがありました。若女将の手作業や気候による裁量なので時間帯によって変化するのか。掛け流し量は溢れ出た分をすぐに補填する量はあり、浴槽内には白い大量の湯の花が沈殿していました。こちらにも石鹸類はありますが、その他の備品は一切ありません。滝湯の湯量は多いですが忙しい感じ。家族風呂はしっぽり源泉を楽しみたい人にふさわしい。
お料理
朝夕ともに離れがある大広間のお食事処で頂きます。
夕食
夕食は山の物と郷土料理を雅に昇華させたような懐石料理です。白米、漬物、スープはバイキング形式でお変わり自由です。生ビールなどはスタッフさんに注文し、瓶・缶類の飲み物はセルフサービスで冷蔵庫から出していただきます。グラスバイキングもあって色々なグラスと器が置かれてあり好みの器で楽しめるようになっていました。記事の内容は献立に書かれているものを表記しています。味や献立に載っていないものに関しては、実際に口にした感想を交えて記載しています。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
【食前酒】:地酒
【前菜】:①もって菊のおひたし
②長芋とそば実のなめこ
③あけび肉みそ
④枝豆つみれ揚げ、葛もみじ
果実酒とかはよくあるのですが本物の日本酒です。下戸の人は事前に申し出をした方がいいぐらい普通に日本酒がでてきます。だれでも飲みやすいようにか飲み口はあっさり。 ①もって菊とは「もってのほか」という語源からくるようで、天皇家の家紋をたべるなんてもってのほかという意味から来ているそう。やや酸味がかった薄味は酢を入れることで色落ちを防いでいるのだとか。紫と黄のコントラストが映えます。 ②そばの実となめこを甘く炊いて刻み長芋にかけてあります。 ③あけびと肉みその組み合わせはいかにも珍妙です。あけびのほんのりとした甘さと肉みその辛味は珍味といったところ。これに落ち葉をもした紅葉麩を添えてあります。 ④つみれといっても肉類ではなく魚のすり身です。そろそろ枝豆の旬も最後で夏の緑と秋の葛もみじの紅色との演出が季節を感じます。
【小鉢】:さつまいもの卯の花和え、きのこおろし
卯の花和えはとても滑らかな甘口になっています。また、サツマイモがさらに甘さを足し和製ムースのようです。この小鉢がとにかく旨い。最後までお酒と一緒にじっくりと頂きました。 きのこおろしには、なめこ、ひらたけ、しめじ、椎茸と、キノコが盛りだくさん入っています。キノコの風味をしっかり残し甘口におろしと和えてあります。
【米沢郷土料理】:冷汁
とても具沢山な汁物です。椎茸、筍、水菜、キャベツ、凍みこんにゃく、人参、ホタテ貝柱、薬味にワサビです。お出汁は薄い麺つゆのような味がしていました。椎茸とホタテのお出汁が香ります。ごった煮のような混在した雑さはなく上品に仕上がっています。これに蕎麦の実を揚げたものを入れると、サクサク触感とお焦げの香りがお出汁に程良く絡みとても旨い和製そばフレークお出汁割り。調べてみると家庭によって具材は異なるようです。そばの実を入れるのは西屋さんのオリジナルなのかな。
【カレイのうまタレ焼】
カラスカレイのみりん醤油焼きです。みりんと醤油を合わせたタレに付けおいてから、遠火で炙り旨味をじっくりと閉じ込めているようでした。冷めていても脂が逃げずに味は濃く十分においしいかったです。紅ショウガ付添えはカレイの脂を穏やかにしてくれます。
【米沢牛陶板焼き】
サシの入った牛肉に、たまねぎ、エリンギ、えのきが入っています。上品なすき焼きの割り下に具材が浸してありました。火が通ると肉汁が滲みだし具材に移ります。お肉はA4ランク以上の味があったように感じました。部位はロースでしょうか。すき焼やしゃぶしゃぶのコース料理もありましたが、お料理の品数が多いのでこれでも十分楽しめます。ただ、芋煮鍋と味が被っていたので、こちらは焼きにしてもらえたら有難かったかもしれません。
【山形名物】:芋煮鍋
具材は牛肉、舞茸、しめじ、ごぼう、里芋、ちぎりこんにゃく、葱、豆腐が入っています。牛肉の灰汁は事前に処理されてお出汁が綺麗。良いお肉からでる甘みのある脂が出ています。丁寧に下ごしらえしたお出汁で具材を煮込むと食材がとても美味。里芋などは事前に火を入れてくれているので炊き上がったらすぐに食べれます。すき焼きのような味付けですが、お酒を呑むと甘醤油のお出汁が癖になります。
【お食事】:山形産つや姫、本日の冷製スープ
【香の物】:青菜しぐれ、お新香
【デザート】:和菓子 祥雲(米沢菓匠 杵屋)
白米はとりあえず旨い。冷製スープはパンプキンスープです。よくある洋風の牛乳とバターで溶いたものではなく、お出汁と豆乳のようなもので作られている和製ポタージュのような感じがしました。舌触りはとても滑らかで自家製なら凄い。青菜しぐれは、きくらげと紫蘇の実の佃煮です。フロントのお土産コーナーに売っていました。 デザートは山形の老舗菓子店の看板商品の1つのようです。公式サイトでは、そぼろと粒あんを2層にして職人が丁寧に巻き上げているとあります。確かに2層で外側はそぼろ状になっていました。小豆と抹茶の2種類あるそうで、抹茶のほうが個人的にはうれしかったかも。選べたるといいかも。白米、スープ、青菜しぐれはお変わり自由でした。
朝食
【大皿】
・玉子焼き ・生たらこ ・塩焼鮭 ・ウィンナー
・大豆とひじきの煮物 ・紅白昆布なます ・梅干し、しそ漬け胡瓜
【珍味入れ】
・ポテトサラダ、胡瓜、みかん ・ごぼう胡麻和え ・ふきとコンニャクのピリ辛炒め
【バイキング】
・温泉卵 ・納豆 ・オレンジジュース ・牛乳 ・コーヒー
【食事と甘味】
・白米 ・豆腐とワカメの味噌汁 ・おしるこ
一部お取り寄せ品らしい物もありますが品数の多い朝食です。西屋さんに宿泊されていたお客さんは登山客が多く、ご飯に合うものばかりで運動する方には朝からカロリー充填できます。温泉卵が食べ放題になっているのはうれしい。そないには食べれませんが・・・。お味噌汁は着席時間直前に火を入れてくれているので熱々です。おしるこの餡子は濃厚で餅は半殺しにしてあって美味い。舌触りはよくココアのようでした。
まとめ
湯治宿の風情を残しつつ、過剰なサービスがないのでのんびりできます。お宿全体の雰囲気はゆったりとしており、贅沢な温泉に入って、おいしいご飯。日常に疲れたら訪れたくなるお宿であることは間違いありません。料理は違うものかはわかりませんが、連泊してひたすらお風呂に入ってダラダラしたくなるお宿です。
宿泊料金
さて、宿泊料金です。平日の宿泊だったということもあり、かなりお安く泊まらせて頂きました。旅行サイトなどを見ていると、「日本秘湯を守る会」のHPからが一番お安くなっていました。また、3か月前に予約すると1人11100円(税込)だったのが、直前になると12130円(税込)になっていました。お部屋によって値段も異なるようで、今回は一番小さい6畳間のお値段です。
宿泊日:2019/9(平日泊)
旅行サイト:日本秘湯を守る会
プラン:【定番】心とカラダにやさしい季節の和食膳プラン(6帖間)
部屋タイプ:本館1階※和室6帖間タイプ(バス・トイレ無)
合計料金:22200円(2名)