旅情
出湯温泉は温泉街というよりは、田舎の自然豊かな街並みに、のどかな田舎の風景が印象的です。現代では重厚な木造建築は、そこに存在するだけで異質な光景があります。清廣館さんの建物も歴史のある木造建築ですが、出湯温泉の風景にとても溶け込んでいます。お隣に共同浴場がある華報寺があり、朝早くから地元の方が訪れ昔ながらの情景がそこにあるからでしょうか。建物は昭和3年に建てられたそうで、90年近く経っており国の有形文化財に指定されています。
外観は当時のままで館内は所々リフォームされていました。玄関やお食事処は現代的な旅館の造りですが、館内には竣工当時のままかなと思わしき所も見られます。
文化財に指定されている建造物はその趣を失わないように、傷んだ箇所は少しずつ補修しているのだとか。他のお宿で聞いたところによると、文化財の補修にも厳しい基準があるそうです。階段、部屋の入り口、窓などに(建築は昭和ですが)大正時代を想わせるような細工もしてあります。
公式HPをみると建造するにあたり、材質などにこだわって選定したとあります。館内は内廊下の部分が多いので、やや暗くノスタルジックな雰囲気がありました。いつもの館内探検をしていると3階には、古い建物に必ずある大広間があり、ここには欄間などに装飾が施され豪華な造りとなっていました。館内探検好きな方は一見の価値ありです。館内設備に無駄なものはなく、自動販売機や売店はないので、いるものは事前に買い求めての来館がいいかと思います。
お部屋
案内して頂いたのは28番のお部屋です。間取りは本間6畳+踏み込み1畳+洗面台+床の間です。入ってすぐ左に洗面台があります。
本間はこじんまりとした6畳間で、壁や窓枠などは新しくとても綺麗にしてあります。凝った造りはないですけど、床の間には昔のままの飾りと趣が残っており天井が高いです。
窓は温泉街に面した角部屋だったので光がよく入ります。窓からは広がるまったり風景。ウェルカム茶はお部屋で入れて頂きました。茶菓子は黒糖の温泉饅頭でした。アメニティは歯ブラシ、髭剃り、お茶セット、浴衣、ハンドタオル、バスタオル。金庫あり。お部屋から15歩ほどにあるトイレは共同で新しいシャワートイレが付いていました。冷蔵庫も共同で館内に2カ所設置されています。中には冷水が用意してありました。相方は名前を書いて所有の物を冷蔵庫へinしていました。湯治宿的な仕様です。
お風呂
桧風呂とタイル風呂の2種類の趣向が違う浴槽があります。どちらも足元湧出で小さな吹き出し口が浴槽の真ん中についています。吹き出し量は多くなく手を当てると、じんわりと暖かいお湯が出ているのがわかります。泉質は単純弱放射能泉(ラジウム泉)の無味無臭です。源泉の温度が低いため加温はしているようで、夜は温度が下がるので水面にバスマットを浮かべてありました。公式HPの説明では源泉100%かけ流し、循環無し、消毒なしとなっています。当日は5組ほどのお客さんが泊まっており、人数に対して投入量が少ないと感じましたが、お湯は弱ることなく入浴することができました。また、浴室は時間帯によって入れ替えがありました。
檜風呂
壁も湯船も木造りになっています。知らないもの同士が3人入ると窮屈になるほどの大きさです。恐らく、源泉の投入量はこちらもタイル風呂もあまり変わらないようなので、お湯の入れ替わりはこちらの方がいいかもしれません。
シャワーとカランは3基。宿泊者数を考えると湯船は小さめですが設備は十分です。脱衣所にはドライヤーと綿棒がありました。吹き出し口は直径1cm程度のパイプからじんわりと出ています。この湯口の傍でまったりと、新鮮なぬる湯を楽しみました。
タイル風呂
檜の湯船に比べると大きく4人ぐらいなら余裕で入れそうです。夜と朝に行った時は縁から僅かなオーバーフローがありました。
こちらはシャワーが2基となっています。脱衣所にある備品は同じです。こちらの浴室は光りが反射するので開放感がありました。
タイル風呂の源泉吹き出し口からは、手のひらに感じ取れる源泉が湧き出し、気が向いたように泡がプクプクと吹き出ていました。
お料理
朝夕共にロビー横のお食事処で頂きました。海が近いということもあってか、肉類が夕食の先付にある鴨だけで、あとは野菜と海産物という内容となっています。記事の内容は献立に書かれているものを表記しています。味や献立に載っていないものに関しては、実際に口にした感想を交えて記載しています。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
最初のセッティングからデザートまで5品配膳されてきました。温かく食べておいしいものは暖かい状態で提供して下さいます。内容はスタンダードだけど手作りでひと手間入ったお料理が並びます。丁寧に味付けがされて荒さはなく、素材がどれも新鮮で本来の風味が引き立っています。
【食前酒】:自家製葡萄酒
【席付け】:鴨燻製、胡麻豆腐、バイ貝
甘味強めの食前酒で葡萄独特の酸味は少ない。山桃酒に近い味がしました。 鴨の燻製はとても瑞々しく燻製で旨味は濃縮されている。既製品によくあるパサッとしたものは全く感じられない。胡麻豆腐も黒ゴマの甘味と香ばしさがあり下へのザラつきはなく滑らかでふんわりしてます。鴨と胡麻豆腐は自家製?お取り寄せ品で鴨のジューシーな感じなら良いものではないかと。 バイ貝はうっすらと醤油を利かして優しい。壺焼にあるような醤油辛さはありません。
【山菜小鉢】:こごみお浸し
【小鉢】:天然ナラタケ、ヌノメ、エノキおろし和え
【小鉢】:枝豆
鰹節を散らしてあり味付けも鰹醤油です。山菜独特のエグさはなく、こごみの苦みは若干残しながらも風味もしっかりあります。とても色が鮮やかで、この時期にこごみってとれるの?と思ったのですが、塩漬けにしても青々しい色は残らないような。干物なら色が残るか? キノコのおろし和えは東北での定番料理でしょう。東北の方のキノコ愛を感じます。軽くおしょうで炊いたと思われるお出汁はキノコの香りがいっぱいです。ここで何故か枝豆です。説明にはなかったのですが、阿賀野のブランド枝豆「縁玉」というものでしょうか。いつも食べているものより枝豆の青い風味がありました。
【お凌ぎ】:茶蕎麦
茶蕎麦はさすがに自家製ではないと思いますが、それでもコシがありツルツルとした口当たりは普通においしい。麺つゆは鰹節の粉が沈殿しており、ご自身のところでお出汁を引いておられるよう。やんわりつゆに、薬味はネギとワサビの冷そばで頂きます。
【台物】:茶碗蒸し
具材はシイタケ、三つ葉、海老、貝柱です。お出汁はシイタケに貝柱の香りがほんのり。地の硬さは玉子プリンのような感触で、割れ目をつけるとお出汁がにじみ出てくる好きなタイプの茶碗蒸しでした。
【向付】:鰤、燻り蛸、鮪、サーモン
鰤の切り口には油の照かりがあり、とても新鮮なのが良くわかります。タコは表面に炙りを入れてから切り分けているのだと思います。タコのたたきです。しかし、中心部は火が入らず磯焼きのような焦げた匂いと、新鮮タコのグモグモした触感の対比は不思議な触感と風味。マグロのすり身を焼きのりで巻いた一品はマグロの脂具合と焼のりの香ばしさのコラボレーションがいい。サーモンも霜降りの入ったトロサーモンです。つまは大根けん、大葉、山葵。
【焼物】:岩魚塩焼き
清廣館さんに来るまでに、何件かお宿に寄らせていただいたのですが、季節柄どこも鮎の塩焼きだったので、あらためて岩魚のおいしさに気が付きました。冬は岩魚、夏は鮎のところが多いもんですから。お味ですが産卵前とかで旬なのか?岩魚ってこんなに脂が乗るのかというぐらいジューシーでした。とても暖かい状態で配膳してくださいました。ワタは苦手な方でも大丈夫なように抜いてありました。
【強肴】:ずいき、ワカメ
赤ずいきは柔くシャクシャクとした感触を残しなら良く火を通してあります。これを弱めの甘酢に漬けて、とても香り高い炒り胡麻がふってあります。胡麻のアクセントで酢を引き立ちます。ワカメは厚みがある根ワカメの様なたくましいやつ。そして、献立には載っていない、歯ごたえがあるシャインマスカットが盛り込まれています。このマスカットは皮が剥いてあって歯ごたえがあり、かなり美味。
【蒸物】:海鮮ホイル焼き
内容は海老、帆立、玉葱、ピーマン、茄子、エリンギ、舞茸に塩コショウとバターで味付けしてあります。配膳していただいてからホイルを開封すると海の香りが豊かに漂ってきます。蒸し焼にするだけで、こんなにもかぐわしい海鮮のお出汁がでるのでしょうか。というぐらいお出汁が魚介の香り。お出汁に浸しなら食べると、魚介出汁のアヒージョのように食べることができます。
【お食事】:笹神産有機米コシヒカリ、七分つきご飯
【留椀】:鳥つみれと茗荷のおすまし
【香の物】:かぶ、小茄子、胡瓜
【水菓子】:ブルーベリームース
清廣館さんの七分つきです。七分つきは精米の仕方の1つで、玄米と白米の間のようなものです。玄米程ではないですが栄養素がよく残るそうです。おすましは鳥のお出汁に塩加減は適量に抑え、ミョウガの清さが鳥出汁の後口を濁しません。つみれはおすましに合うフワッとした触感。献立に「お食事とお椀はいつでもご用意できます」とありました。メインに合わせて食べたい時などにいつでも頼めるようです。 中心にブルーベリーのムースを配し生クリームで飾って頭にブルーベリーの実と赤いラズベリーのソースで味の変化を楽しみます。甘さ控えめで風味を楽しむデザート。
朝食
・銀鮭麹漬け、行者ニンニクとかぐら南蛮味噌
・卵自家製味噌漬け
・ピータン入り豆腐サラダ
・季節野菜の煮物
・ゴーヤ佃煮
・納豆
・笹神産有機米コシヒカリ 七分つきご飯
・自家製味噌のお味噌汁
・手摘み梅の3年熟成天日干し自家製梅干し、紫蘇実入り白菜の浅漬け、奈良漬け
・季節の果物(葡萄、梨、りんご、バナナ)
朝食も手作りのものばかりです。卵の味噌漬けは濃い味がしっかりと中までは入り、黄身は半熟にしてあり茹で卵なのに白米と食べれるという不思議。野菜の煮物は確認しただけでも根野菜、キノコ、鶏肉など10品目近い具材がはいっています。一つのお皿で何種類もの「おでん」を食べたような感じです。ゴーヤの佃煮や細切れにした豆腐サラダも、他では見ない変わったお料理が多くて、朝食を摂っていて楽しかったです。果物は4種も盛ってあり旬の物はありがたい。梅干しは酸っぱいやつですが、深みがあり自家製のものでロビーに売ってありました。
まとめ
文化財というと格式の高い感じがする旅館が多い中、清廣館さんはご家族で経営されていて気楽にお泊まりができるお宿でした。お料理も気取らず、確かな味付けで口にし易いものばかり。何より新鮮さが良く出ていました。お風呂はお客さんはいるのに貸切状態の事が多く、ぬる湯を満喫できました。1つだけ残念だったのはチェックアウト前の9時ぐらいには、源泉の湧出が止まってしまっていました。外湯もあるので再訪したときには、そちらも楽しんでみたいと思います。
宿泊料金
さて、宿泊料金です。清廣館さんは旅行サイトでは検索できませんでした。そのため、直接予約か「日本秘湯を守る会」からの予約が必要でした。料金はお部屋により変わり、値段設定は13110円~14190円となっています。小ぶりなお部屋を選んだので、13110円で泊まっています。秘湯を守る会HPからの予約でスタンプを頂きました。
宿泊日:2019/9(土曜日泊)
旅行サイト:日本秘湯を守る会
プラン:【国登録有形文化財】 長月ぬる湯ラジウム温泉旅
部屋タイプ:昭和三年築の和室(洗面所つき)
合計料金:26220円(2名)
五頭温泉 清廣館 宿泊予約
おまけ
いつもあるかどうかはわかりませんが、チェックアウト時にお土産でゼリーを頂戴しました。こういう気遣いはとてもうれしい。