新穂高温泉郷の中でも古めかしい奥飛騨の雰囲気を残す槍見館さん。とにかくリピーターが多いようで、訪れた時も従業員の方とお客さんが親しげに話す方が印象的でした。季節の良い時期での宿泊は、よくある予約サイトではなかなか予約がとれません。公式HPには「近代的でない、快適性も優れない、不便さと非日常から見つけられる癒しと奥飛騨の湯情を」とあります。まさに通りで泊まってみると、おもてなし、料理、温泉などのクオリティはお勧め折り紙付きでした。
旅情
訪れたのは豪雪の時期でしたが、常連のお客さんが多かったようで、お宿前にある駐車場に車を停めてテキパキと勝手を知ったるようにチェックインをしていきます。
この年は雪が少なかったので交通は楽でしたが、例年では積雪がもっと多いのではないかと思われます。もともと奥飛騨は豪雪地帯ですし・・・真冬の往訪は大変かと。それ故に敢えてこの季節に往訪しました。
日本秘湯を守る会の提灯を掲げた玄関は雪国らしい二重玄関となっています。
玄関戸を開けると雪除け用の前室です。
前室を後にするとロビーが見えてきます。床は土を固めたように土間となっているので、館内は外履き移動です。
フロント前にあるロビーにはランプが吊るされてなんとも古風な情景です。囲炉裏間の上がり框傍らには杵と臼が置いてあり、流行り病がなければ毎日餅つきをしているそうです。
真ん中には木をくり貫いた水槽があり、ビールやソフトドリンクが天然水によって冷やされています。この冷やしている天然水はそのまま飲むこともできるそうです。その横には温泉によって茹でられた温泉卵と甘酒もあります。
館内に自販機はないので、この場で買い食いができるようになっています。お金を持たなくてもお部屋付けにできるのも有難い仕様です。
中央にある囲炉裏間を右に、かなり長い廊下がついています。かつては濡縁だったんじゃないんだろうかという雰囲気があります。このまままっすぐ進むと大浴場があります。
槍見館さんのシンボルのような、奥飛騨らしい吹き抜けの囲炉裏間にお邪魔します。正月の飾り付けも残してあり神棚にも詫び寂びを感じます。
玄関を入って右手、天然水の販売所前には土塀の蔵のような入口があります。こちらは6部屋程ある客室棟への入口です。
土間の隣には露天風呂への階段がありますが冬季は閉鎖中。手前には喫煙室がありました。
蔵造りの扉を入ると長い廊下。
角を曲がると階段が見えてきました。
この棟は1階に3部屋、2階に3部屋の客室があります。槍見館さんのお部屋はモダンタイプと民芸調タイプがあり、本館自体が奥飛騨の古民家建築なので、こちらはモダンな方でしょうか。
本館に戻って本館の客室を探険です。天然水の販売所前、及び、フロント隣には地物郷土特産のお土産処があります。飛騨牛乳のアイスクリームの販売していました。お風呂上りに食べたくなりますが、夕食が食べれなくなると困るので我慢。
囲炉裏間には長い靴脱ぎ石があります。画像左の引き戸の奥は大広間のお食事処があります。
お食事処入り口には一杯200円のセルフコーヒーが置いてありました。
お土産処手前には本館客室に上がる階段があります。
階段を上がると囲炉裏間を見下ろします。新しく建造された物のようですが、郷土の雰囲気を残してある建物は旅情を誘います。
階段を上り左を向くと天井には豪快な梁がある2階。
途中に書庫があります。奥には明るい客室が続いています。縁のある書籍を置いてあるのが一般的ですが、槍見館さんの書庫はランダムで関連性もあまりないという珍しさ。
階段を上がってきたところに戻って、反対側にも客室が並んでいます。
廊下を奥まで進むと階段があり地下1階まで階段が付いています。
途中1階に寄り道です。踊り場には製氷機が置いてあるので自由に使用できます。踊り場奥にある細い廊下を行くとロビーに戻ることができます。
玄関の囲炉裏間から眺めていた反対側にやってきました。雪見障子が並ぶ内側は食事処の大広間です。
障子を開けて中を見させてもらうと、館内で最も古めかしく見受けられます。欄間に富士山が描かれてあります。夕食はここではなく別室の囲炉裏のある個室でいただきました。囲炉裏個室は完全に座敷なので、椅子席希望の方はこちらになるのかと思います。
木の襖は鶴と松が描かれているめでたい物。えらく鮮やかな色彩だが創建当時の物なのか。ここの建物だけは当時のままなのかも。
とにかく大広間にある欄間の装飾は、同じ物が全くないほどで天井を見上げて口が開いてしまいます。画像は何の花でしょう?内からと廊下側から撮ったものですがイメージが全く異なるように見えます。
大広間の一画には囲炉裏が設けられていました。初見した時は職人さんが一本一本丁寧にイワナを焼いておられました。お風呂から上がってみると焼き終わって炭で保温された魚が配膳待ちとなっていました。ん~いい匂い。夕食でいただけるのかな?
さて、階段まで戻り地下1階まで降りると男女別の大浴場と女性側には露天風呂の浴場があります。浴場入り口にある「かけひ」は天然水で、飲む事ができるウォーターサーバーとなっています。
内湯の上り框右手には露天風呂への扉。
扉を開けると完全に外でございます。冬場はむっちゃ寒いです。
冬季は凍結があるため足元にはムシロが敷かれてありました。この奥には4ヶ所の貸切風呂と混浴露天風呂が待っています。続きはお風呂の項目で。
お部屋
案内して頂いたのは「こまぐさ」というお部屋です。
間取りは本間8畳+広縁3畳程+踏み込み廊下と洗面2畳+トイレです。
お部屋に通してもらってから、柚子茶の原液が入った茶碗を配膳して頂く。お茶請けはエゴマの煎餅。
玄関戸を開けると小さな踏み込みに右手には正月飾りの餅花が活けてありました。
玄関上がってところにある洗面には、化粧水等はなく必要最低限のアメニティがあります。
洗面横にある吊り戸を開けるとアイスペール、栓抜き、グラスが備えてありました。
洗面前のトイレは安心のシャワートイレです。
感染症対策で御馴染である、あらかじめのお布団敷。暖房はがんがん効くので寒い時期でもお部屋はあったかく過ごせました。奥には少し変わった形の縁があります。
天井を見上げると民芸調というだけあり、飛騨古民家の様相が見て取れます。広縁に囲炉裏はありますが、かつては囲炉裏端が普通だったでしょうから、煙が抜けるように天井を高くとってあります。それをイメージしての物でしょう。
ウェルカム茶をいただいた広縁は妙に落ち着きます。
囲炉裏傍らには炭と固形燃料が置いてあり、囲炉裏端でのプチ暖取り体験ができます。
冷蔵庫は空にしてくれてあります。
囲炉裏で炭を焚いていると緩やかに煙臭い芳香が漂います。よい炭を使っているのか煙は立たず「パチ、プチ・・」という弾ける音だけが響きます。炭の追加をお願いすると快く持ってきてくれました。
広縁ビューは西穂高とかでしょうか。
見下ろすと各貸切風呂の湯屋が見えています。新緑、深緑もいいが奥飛騨にはやはり雪が最も似合います。秘湯の宿らしく?アメニティ類は必要最低限といった具合で、部屋には化粧水などの備えがないのでご持参を。
車で行くなら近隣には酒屋、スーパー、上高地平湯バスターミナルにはお土産屋があります。ただ、欲しい物が手に入るかというと都会のコンビニのそれではありません。なので不便がないように事前の用意での往訪をお勧めします。
お風呂
槍見館さんの醍醐味はやはり温泉。混浴露天風呂2ヵ所、貸切風呂4ヵ所、大浴場2ヵ所、女性専用露天風呂1ヵ所の計9ヵ所の湯屋を有しながらも、全て源泉かけ流しができるという湯量に驚きです。自家源泉は単純温泉、共同源泉は炭酸水素塩泉の2本の源泉を使用していますが、いずれも無味無臭でツルツルとしており癖はなく誰もが楽しめる角のない温泉です。ただし!館内湯巡りをすると、アルカリ成分に皮脂がもっていかれるので、湯上がりはカサカサになります。女性側の内湯には化粧水と乳液があったそうで、お肌のケアには内湯を利用するのがよいかもしれません。洗い場は内湯にしかなく、露天風呂や貸切風呂は石鹸類は使えない入浴専用となっています。
内風呂大浴場
館内最奥にある内湯は男女の入れ替えはなく、1階が男湯、2階は女湯です。
浴場に入ると大小の2つの湯舟が目に入ります。リフォームしたのかヒノキの香りがとても清く薫っていました。晴れてはいませんでしたが、日の光が反射した雪からの明かりがとても眩しい。
往訪した時には槍ヶ岳は見えませんでしたが、温かい湯舟から絶景の雪景色が堪能できました。
小さな湯舟は「穂高の湯」と称されていました。掛け流し口は入浴の際に利用する掛け湯の溜め湯となっていました。適温で入れる1人用の湯舟です。
大きな湯舟は「槍見の湯」と銘打ってあり、こちらはやや熱く感じる程です。
館内にある湯舟の中で最もツルツル感が強く感じたのは気のせいかな。湯舟も大きいが投入量も抜群の多さです。
溢れ出しは見た目のままにザブザブと切り口から排出され勿体なさすら覚えます。
後の貸切風呂や露天風呂には洗い場はないので、この内湯で洗髪洗体をすることになります。お部屋の数からすると少ないシャワー数ですが、女性側も混雑することなく利用できたようです。
岩見の湯
内湯浴場前から外へ出て雪道を進んで行くと女性専用の露天風呂が現れます。
脱衣所は隔てがなく湯舟と直結した湯治宿らしい昔ながらの湯屋となっています。女性専用ということもあり多めの目隠しを成した半露天風呂のようになっていたようです。
雪が無ければ多少は眺望はありそうですが、人目が気になる女性用で4人も入ると気まずいぐらいの大きさ。相方からは誰も入った形跡がなかったという報告。
湯口からの源泉量も見事だが、その奥の景色も見事で新穂高ロープウェイの支柱が見えます。
捨て湯口の1つには白い温泉成分の析出物が見て取れます。「混浴露天風呂はちょっと・・・」という女性はこちらを利用がいいのかなと思います。
槍見の湯
雑誌などで紹介される際には必ず登場する、槍見館さんの代表的混浴露天風呂です。混浴の露天風呂では、女性は湯あみ着を着用できるので、比較的ハードルは低く入浴できます。脱衣所も男女別々にしてある配慮もいいですね。
湯舟の中心にある浮石は平らで温泉に温められて岩盤浴のようになっていました。明らかに常連らしき女性は、自分が入ってきても全く気にせず、この岩の上で横たわって涼んでおられました。完全なる温泉猛者ですわ。長野県松代にある極上炭酸泉の加賀井温泉一陽館でも、温泉猛者の女性が人目を気にせず「ぬる湯」を楽しんでおられたのを朧げに思い出しました。
雪景色ではありますが源泉の温度は高く、源泉の注ぎ口付近は熱いぐらいで、雪模様であっても寒さは感じず長湯をするとのぼせるほどです。のぼせると中心にある岩で休むw ただ注ぎ口から離れると、ぬるく感じる程にはお湯は冷めやすい。
ここの湯量もすばらしく高原川にせり出した岩の間からお湯が溢れ出ていきます。湯量とツルツル感の湯感も共に凄まじい。
槍見の湯というだけあって天気が良ければ、槍ヶ岳が見えるそうですが常時この様子でした。人気の露天風呂ということもあり、訪れた時は翌朝7時から9時までは女性専用タイムになるので、女性もベストタイムで朝に槍ヶ岳を拝むことが出来るように配慮されてありました。
まんてんの湯
もう1つの混浴の「まんてん湯」。こちらは1回しか利用していませんが、ほとんど人の気配を感じることがなく、入ってきても湯舟だけ見てすぐに出ていく方ばかり。
脱衣所からしてかなり「さぶい!」そして簀の子も凍っているので、冬季はかなりつらく人が来ないのも頷けます。
男性の脱衣所から湯舟までは試練が続き、雪と氷の中を素足で進みますwww まじでちべたいわ~~~ww 「冷たくて入れません!せめて溶かしておいて下さい!」という口コミをみましたが、せっかくなので敢えて野天の醍醐味である足の冷たさも楽しみます。
辿り着いた湯舟は木がせり出したような、やや閉塞感のある湯舟で景色はないに等しいほどです。脱衣所は画像右にあります。足がじわりじわりと温まり気持ちがいい。
左に見える建物が男性の脱衣所になっていて、建物を巻くように湯舟が瓢箪型に伸びています。
男性脱衣所側の湯舟にある捨て湯口は完全に人工物の小川です。雪を被った笹のトンネルからの捨てられる湯量に見入ってしまいました。
女性の脱衣所側に行くと瓢箪の頭側の湯舟があります。他の御客さんがほとんどこないので完全に貸切状態。
樋からの注ぎと石造りの壁からの注ぎがあります。ちなみにですが、右画像の石造りの注ぎは女性専用の露天風呂「岩見の湯」からのreuseのお湯だと思われます。「槍見の湯」と貸切風呂が人気なので、こちらに来る方はやはり少なくなってしまうのかな。
貸切風呂
露天風呂や貸切風呂は庭に点在しているため、冬季はこのような雪道を行く必要があります。湯屋までの道筋はならされてはいますが、ハイシーズンはパウダースノーで用意された長靴で行くことになります。豪雪期は利用客が少ないのか、大体どこも入浴したい時間に利用できました。
「なごみの湯」足湯は完全に閉鎖されていました。
ほたるの湯
足湯の目の前には貸切風呂の「ほたるの湯」があります。
昔話とかに出てきそうな湯屋はThe 日本家屋の面持ちです。湯屋にあるガラス戸や開き戸は開放できるようですが、外から丸見えになる&冬場は寒く締め切りです。
2人ぐらいで丁度良い大きさの湯舟には、他の浴場に比べるとかなり少な目の湯量です。他が空いているなら敢えてここに入ることはないかもしれません。ただ、締め切り湯屋の利点もあって脱衣所での寒さは抑えられて入り易い浴場でもあります。
幡隆の湯
次に見えてくるのは「幡隆の湯」です。
扉を開けるとこれまた雰囲気が抜群です。梁柱が立派な屋根が目に入ります。この規模の湯屋が貸切というのも贅沢です。
湯舟は余裕を持って4人ぐらいは入れる大きさがあり、家族連れで入るにはぴったりの大きさです。浴槽の中は腰を掛けれるように深い場所と浅い場所を分けてありました。梓川を臨む配置ですが、目隠しがなければ対岸から丸見え?になりそうです。
湯量はたっぷりでやや熱めです。湯口は跳ねた飛沫によってゴテゴテの析出物が岩にこびりついています。
岩の切り口からは遠慮なく高原川に捨てられていきます。皆の煮汁はやがて日本海に流れ着きますw
森の湯
次に現れるのが「森の湯」です。この湯屋は遊び心が満載で子供に受けること間違いなしです。
湯舟の構成がこの景色です。どれから遊ぶか迷いますわ。ブランコがあり槍見館さんも理解を示しておられるのか、大人でも楽しめる耐久性があるようですw
上湯は打たせ湯ができる座湯となっています。お父さんは日頃の肩こりをこちらで癒します。こちらのお湯は川と成りて下湯へ流れていきます。
子供はウハウハタイム。ツルツルの滑り台は下浴槽へ、ブランコからの下浴槽へのダイブは結構な難度です。画像は何とも楽しそうですが、冬季の奥飛騨は氷点下になり裸で遊ぶには寒すぎます・・・。滑り台への階段等アプローチは凍結してましたw 湯で溶かして楽しみましょう。
稀に温泉雑誌で目にするこの貸切風呂は、お湯を楽しむというよりは小さな子供さんがいる家族連れのエンターテインメントです。と、言いつつも、大人も怪我のない程度に楽しんで童心に帰りたくなる湯屋です。下湯は冬季は湯が冷めきっているので、良い意味でぬる湯好きにはたまらない温度。冬季はやはり寒い・・・。
渓流の湯
渓流の湯は最も雪に阻まれたいたように憶えています。人気がないのか雪だまりになりやすいのか。
8角形の2人入るといっぱいの湯舟は、底から噴出するジャグジー付きのお風呂となっています。ジャグジー機能は壁にあるスイッチで発動し一定時間経つと止まります。必要がなければ押さなければ普通の湯舟として入れます。
湯屋の建屋はあるが完全に外です。湯口からは他の温泉地からすると贅沢な源泉が注がれますが、槍見館さんの湯屋の中では少ない方です。湯舟の大きさに対しては少なくはないかな。
湯屋の名には「渓流」とあるが、雪除けも兼ねてか眺望はなく、季節が変われば渓流らしい景色があるのかも知れません。先人たちの記録や旅行サイトを見ていると開放的な画像もありました。冬季はやはり雪が入り込まないようにしているのかもしれません。
お料理
朝夕共にロビーの囲炉裏間の横にあるお食事処での案内です。
椅子席を希望の方はイワナが焼かれていた大広間での案内かなと思います。
夕食
自分達は有難くも足腰丈夫と若く見て頂いたのか個室での囲炉裏座席でした。確かに足腰が不便な方には難しいお席です。
奥飛騨らしい料理もあれば、創作に趣向を凝らしたお料理もあり、バリエーションに富んだ内容となっています。型にはまらずその時の美味しい物と地物で仕上げた印象です。ちなみに囲炉裏で焼かれていた焼き魚は今回のコースでは出ませんでした。これは残念かどうか・・・私的には川魚の焼きよりも他の焼きを期待したいので有難い。
お品書がなかったので、給仕係の方から聞いた内容と、実際に食べた感触から献立を作っています。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
【食前酒】:白酒
お米の食前酒は白酒とのご説明でした。米粒が底に沈んでおり柔い米の硬さが残るように仕立て、炭水化物と発酵の自然の甘さはしっかりとあります。酒度が少しあると説明を受けました。確かにアルコールの風味は甘酒ではなく、自家発酵させているのか、甘酒:どぶろく=9:1といった味わい。ちょっと癖になる味です。
【先付】:山菜信田巻き
信田巻き(しのだまき)は油揚げで食材を巻き上げて煮る調理法です。具材はフキ、ワラビ?とゼンマイ?です。ふっくらとした揚げに、塩を緩く加味した優しい味。付け添えは、きゃら蕗。山椒の辛味が爽やか。どちらかというと山菜を下ごしらえしてから揚げで巻いた感じです。
【前菜】:①菊花蕪 ②鰤大根風 ③金柑甘露煮 ④こも豆腐 ⑤破竹 ⑥なつめ密煮 ⑦茄子ピリ辛味噌和え ⑧丸十檸檬煮 ⑨山葵菜お浸し
①強めの甘酢に漬けたカブを開花させて鷹の爪を彩りに。 ②大根は寒中で干した寒干し大根を炊いた物。郷土の一品は旨味は深く歯ごたえはしっかり。ブリ大根風としたのは青魚の風味が濃く感じられました。 ③キンカンは縦に切れ目を入れて上から押しつぶして種を抜いて花を開かせてあります。金柑の爽やかさにねっとりとした甘味 ④こも豆腐は奥飛騨の名産でふんわり食感は玉子焼きのようでもあります。 ⑤破竹は水煮か塩漬けにしてあったのかコリコリ食感はそのままに。 ⑥ナツメはとても柔く砂糖で炊き上げたような味わい。 ⑦食感は恐らく茄子。唐辛子の辛さが強く感じられるお酒の当てにぴったりです。 ⑧サツマイモのレモン煮です。甘さはサツマイモの自然の物。 ⑨ワサビの風味と辛味が薫る、さっぱりとした甘醤油のお浸しです。
【温物】:岩魚の土瓶蒸し
席に着くとに火が入り湯気が立ち上ってくると香ってくるのはシメジ。
入れ込まれた食材の、イワナと鳥のモモ肉は焼き香ばしさを出すため炙ってあります。お料理の項冒頭でイワナの焼きはないと言いましたが、炭火で焼いたイワナはこの土瓶に入ったのではないかと推測されます。お出汁はなんでしょうか?飲み口は豊かなシメジ。イワナと一緒に飲むとイワナのおすまし。鳥肉と一緒に飲むと鳥のおすまし。昆布かな~・・・醤油は強くなく程よい塩加減でもう一杯とついつい進みます。タップリの三つ葉を散らしてアクセントを付けてあります。
【向付】:川魚3種盛or肉3種盛
魚か肉か1人ずつお好きな物をいただけます。なので、一品ずつお願いしました。魚は大紅マス、イワナ、ナマズです。マスはオレンジ色の川魚のまろみ、とろみ、紅味が濃い。 イワナはコリコリしており新鮮で淡水魚の旨味を感じ脂よりも筋肉質がたくましい。 アルプスからの天然水で飼育されたナマズは想像されるような泥臭いものではありません。奥飛騨では養殖されていて「河フグ」とも称されます。食べ口はとても淡泊ですが、ぐもぐもとした歯応えはたくましく、あっさりとした白身の味の中に脂がひっそりと控えています。これをこってり濃い口たまり醤油で。
一方で肉はお刺身ではなく、しゃぶしゃぶや蒸しといった調理。飛騨牛のしゃぶしゃぶ、地鶏の蒸し焼き?、豚のしゃぶしゃぶというラインナップ。牛は上品な赤身は確かな和牛脂の甘味旨味に大葉を敷き菊花を添えてあります。 地鶏は胸肉のようでしたが、ふわやわ触感で小麦粉などを打ち粉して蒸し焼いてあるのか、ゆっくりと熱をいれた低温調理にしてあるのか。薬味には蓼を添えてあります。 透き通った豚肉特有の脂甘味としっかり歯応えの豚しゃぶ。このタイプの食べ比べは珍しく趣向が素晴らしい。付け添えには紫蘇花を飾り、水菜、ニンジン、パプリカを豚肉に抱かせてあります。特製の浸けダレは、マヨ、練り胡麻、ラー油、ネギ、タマネギをメインに使用したバンバンジーソース風でした。
すだれに巻かれた焼物一品はなんでしょうか。
【焼物】:寒鰤の塩焼き
すだれをハラりと開けた一品はブリの焼物。とても大振りの切り身は、旬物なので脂加減は最高潮なのに身の締まりは緩くない。噛めば噛むほどブリが溢れます。皮はパリパリに焼き上げ熱々での配膳です。塩加減はブリ風味を殺さないように、ブリ味の後からそろりと感じる程度に持たしてあります。見の締まり具合や熟成感もあり、もしかしたら塩麹等で漬けてから焼き上げたのでしょうか。付け合わせは甘味大根おろしと、塩辛味がない爽やかな紅ショウガの天ぷら。
【煮物】:鯛みぞれ餡
椀の木蓋を開けると、柚子香がほんわりと沸き上がります。最初はかぶら蒸しかと思ったのですが、どうやら甘い冬大根の粗おろしです。槍見館さんの大根はどれもこれも辛味よりも甘味が勝つ冬大根を使っておられます。自家農園でしょうか。
タイはギュッと締まるほどに火が入っており、餡は昆布?に赤黄のパプリカと緑のセリの色添え。別々に食するよりも混ぜて食べると、ユズの香りと鯛の旨味で品が満たされた質の良い煮になります。こちらもほっこりと熱く配されました。
【台物】:飛騨牛のすき焼
美しすぎる霜降り肉はロース?肩ロース?でしょうか。A5ランクの別注料理があるぐらいなので、等級はA4ぐらいかな?割下は醤油とお酒を強く持たせ甘味はやや後ろに、炊き上がる前の割下は少し頼りない感じです。
固形燃料は沸き立たないぐらいに調整されてありました。ゆっくりと火が入り始め野菜と和牛の旨出汁が滲み出てくると一変して甘い割り下になりました。
赤身が残るぐらいに熱が入ると、黄身が濃い溶き卵に潜らせると確かな和牛の味わい。霜降りですが見た目以上に赤身も多く、とろけ具合と咀嚼することで旨味が絡む良いとこ取りの肉質。夕食前には飛騨牛と書かれたトラックが駐車場停まっていたので肉屋さん直送なのでしょう。
【酢の物】:紅白なます、干し柿
最初から配膳されていましたが、位置づけとしては酢の物かと思うのでここへ。とても大振りの干し柿は種を抜いて軽く潰して、その上にニンジン、大根、生柿を合わせた「なます」を乗せ菊花で装飾してあります。ひっそりとした酸味と甘味が、甘々に干された柿とよく馴染む何だか懐かしさを覚える自然食材の逸品です。柿の甘味と紅白なますの甘酢がそれぞれを押し上げています。
【食事】:白米、味噌汁、香の物
「ご飯の量はいかがいたしましょう」という給仕の方の問い。お腹は満足していましたので、「少しで結構です」と言うと、お腹一杯にはありがたい、3口ぐらいの量を盛ってくれました。飛騨の米はやはり美味い。渋み塩味を抑えた品のある赤味噌汁には、ニラを浮かべてありニンニク風味の薫りが漂います。具材は凍み豆腐?、アミタケ?。香の物は野沢菜、大根柚子甘酢漬け、山芋醤油漬け。
【甘味】:苺のプリン
プリン地にはほんのりとイチゴが薫る程度で甘味も薄い。粗切りイチゴのソースの味は濃厚だがやはり甘さは緩く、プリン地は杏仁豆腐のような寒天プリンの食感です。しかし、生クリームとソース、地を混ぜて食べると不思議とイチゴも甘味も深く感じられる。これにリンゴのワイン煮?のコンポートを付け添えてあります。
朝食
朝食も夕食と同じ囲炉裏の半個室でいただきました。
最初の配膳は冷たい物を、温かい物は後から配膳されます。
・サラダ(キャベツ、カイワレ、きゅうり、コーン、ミニトマト、山椒ドレッシング)
・野沢菜と昆布の酢和え(赤大根、うど?)
・温泉玉子
・トマトジュース
ドレッシングとトマトジュースは地元企業さんプロデュースの物です。シーサーサラダのようにクリーミーだが原材料を見ると完全に和風の山椒ドレッシング。トマトジュースも絞ったまんまの味。お土産に買って帰りたくなるような、購買意欲を誘う美味しさです。香の物も昆布と野沢菜を合わせるという少し変わっています。
・貝紐と小松菜の味噌和え
・ごまめ
・胡瓜醤油漬け
・地鶏の炭火焼
・川海苔
・こんにゃくと芹の一味マヨネーズ和え
貝ひもに合わせた味噌にはユズと飛び子を混ぜ込み、さらに辛子が効いてお酒が欲しくなる珍味。地鶏は炭の薫りがほろ苦くうまい。珍しい川海苔にはワサビ菜を入れ込んであります。海の物よりも青臭さが強いのが返って好みです。地物のお取り寄せ物も入っていそうです。
・大鱒の塩焼き
・すくなかぼちゃの焼餅
・自家製豆腐
大マスは身だけでなくお皿も熱々配膳です。ほろりと解け脂の融解がたまらない。「すくな」とは飛騨地方で獲れるかぼちゃです。餅生地にかぼちゃが練り込んであり、その生地でカボチャペーストと豚肉を合わせた物を包んで焼き上げてあります。「おやき」よりも「豚まん」に近いかも。見た目は完全に梅干しですがw 自家製豆腐は冷製フワフワ食感を塩で楽しみます。
・朴葉味噌焼き
・味噌汁(大根、人参、揚げ、牛蒡、豆腐)
・白米
奥飛騨定番の朴葉味噌はネギだけでシンプル甘辛い。味噌汁には夕食の前菜に出た「こも豆腐」を崩した物を入れているのかな。他のおかずは味が濃い目なので、やさしい白味噌仕立ては口がリセットされます。アルプスの恩恵である奥飛騨の水で炊き上げた白米はやはり美味い。
・ぜんざい
槍見館さんでは毎朝、餅つきが行われるのですが、流行り病によりイベントは中止。なので、朝食が終わりそうな頃に、ぜんざいの振る舞いがありました。人力で搗い(つい)たであろうムラがある食感の餅と栗の甘露煮が入っていました。地は強い甘味を持たせた温デザートでした。
お料理には地産の物も多く取り入れておられるようで、最近はお取り寄せの物でもかなり美味しく作られているので、旅館・ホテル飯+地物産業は、地域の活性にもなり美味しい物はどんどん取り入れていけばいいのでは?と最近は思います。
まとめ
接客は高級宿の対応そのものですが、かといってお客さんとの距離が遠いわけでもなく、田舎に返ってきたという一面もあります。失礼ながらもお料理も思っていた以上に郷土感は意識しつつも手を入れて創作性は高く、誰にでも口に合うように味付けが成されていました。飛騨の至高の一品である飛騨牛も忘れることはなくデザートまで手抜きはありません。温泉は好みにもよりますが、内湯から始まり冬季には少し難儀する貸切風呂にしても、温泉好きにはたまらない湯巡りが楽しめます。リピーターが多く繁盛期にはお部屋が取れないのは当然だろうなぁと思いました。
宿泊料金
ずっと訪れてみたいお宿だったが、基本的にはお安くお部屋を売らないお宿です。たまたま時期が合い、クーポンが余っていたこともあり5000円引きで予約ができました。気候が良い季節はお休み前は40000円~とお値段も高くなるようですが、訪れた時には厳冬期でお値段が抑えられているようでした。離れの温泉風呂付のお部屋だと20000円ぐらい高くなったりするようですが、プライベート感を求めなければ最高のお湯を各々の浴場で楽しめるので、低価格のお部屋でも十分だと思います。日本秘湯を守る会の会員宿でもあるので、10%引き以上にならないのであればスタンプ帳への押印がお得かもしれません。
宿泊日:2021/厳冬期
旅行サイト:じゃらん
プラン:【スタンダードプラン】秘湯の一軒宿で温泉三昧
部屋タイプ:民芸調和室【貸切露天風呂無料!全館源泉掛け流し温泉】
合計料金:36800円(2人)
春セールがお得になるクーポン:5000円
支払い料金:31800円
加算ポイント:368p