川を挟むように建物が並び、春は桜、夏はホタル、冬は雪景色を温泉街で楽しむことができます。近代化されたお宿と、文化財に登録されるような古めかしいお宿が混在していおり、高級旅館もあればお手頃な旅館もあります。どちらかというと「やまとや」さんは昔ながらの雰囲気が残す旅館で、お風呂好きにはお財布事情に優しいお宿でもあります。
旅情
大和屋さんは温泉街の中心にあって、コンビニにも近く、周辺にはお土産屋や酒屋もあり、外湯巡りをするにも好立地な場所にあります。お宿のご主人が駐車場間の送迎をしてくるようでしたが、ご主人さんはどこへやら。勝手知る温泉街なので、玄関に車を付けて荷物を降ろし、徒歩5分程離れた駐車場へセルフ駐車です。
城崎温泉にあるお宿の多くは間口が狭くウナギの寝床のようになっています。大和屋さんの玄関は、お宿の規模からすると間口は大きい。玄関はリフォームされたのか新しくなっていました。
※これは現在の姿で大幅リフォームされたようです。玄関周りなどは別のお宿のようになっていました。
玄関戸を開けると、土間の上がり框があり右手には上階への階段があります。階段脇の小さなスペースがフロントとなっています。暖簾が掛かっているところが帳場のようです。
フロントはタバコ屋さんのようなカウンターです。裏メニューで「おやじ、例の物を」と言うと「へいへい、これですね」とか、映画で例の物をゲットできそうな雰囲気があり味わい深い。
玄関の階段を少し上って振り返ってみると、向かって右手にお部屋が見えます。
かつては応接間、ロビー、お土産なども置いてあったのでしょうか。今はずらりとレトロ展示物の宝物庫のようになっています。
ロビーにはパンフレット類と色浴衣が置いてあります。
階段で2階の客室へ向かいます。木造建築ならでは木の軋みがたまらない。
城崎温泉にある他のお宿と同じくやはりウナギの寝床のように奥へ廊下が伸びています。調度品の展示物もそこらにたくさんありました。
階段を上がった所に外湯巡り用の籠バックが用意されていました。
階段を上がって振り返ると、さらに階段が上へ伸びています。螺旋階段のようになっていて、木造建築では珍しい構造のように思います。今回は右にあるお部屋でお世話になりました。
導かれるように3階への階段を進んでいきます。木造建築の軋みがさらに身体に響きます。
3階に着くと・・・あら?暗い?
訪れた時は流行り病で閉散期だったので、お客さんの足も少なく部屋を休めておられたように見受けられます。奥まで伸びた廊下を進みます。
廊下の先に着くと下に伸びた階段と、階段欄干に沿った廊下には広間があるようですが現在は使われておらず。
階段を降りてくると小さなお部屋が並んでいました。通常は客室として使っているかは不明ですが、訪れた時には個室食処のようになっていました。
階段の反対側を振り返るとさらに部屋があります。タペストリーや暖簾は特徴的で縁のある方の物でしょうか。
タペストリーの処まで進むと、玄関から上がってきた廊下へ周回してきました。
廊下途中には書庫のようなお部屋もあり、文人の書斎のようなあつらえです。
同じ温泉街にある三木屋さんでも見た志賀直哉さんの原稿のようです。直筆の物っぽい?書や陶器の展示があり、お好きな方からするとその価値が分かるのかな。
部屋
案内して頂いたのは「弐」のお部屋です。
お部屋の間取りは本間8畳+次の間2畳+控えの間?3畳+踏み込み+洗面+トイレです。
部屋戸を開ける板間の踏み込みがあり、正面左に2畳の次の間と、右に控えの間3畳があります。小部屋の多い間取りで付き人用?宿泊人数によって分けたという感じではなく、かつては芸妓さんなどを呼んで、お座敷遊びなどで使われていたのかもしれません。
板の間に足を踏み入れると吊り棚には壺が飾ってあり左側には水屋です。
水回りには固定タイプのドライヤーもあります。トイレは安心のシャワータイプです。
控えの間から本間側を降り返ります。付き人用のお部屋と思えなくもない。
本間から次の間と控えの間が一本に見えます。
本間のお部屋は温泉街に面しているので、城崎温泉街を歩く人々のカランコロンという下駄の音が響いています。建造は古くとも内装は今風にリフォームをされているので快適に過ごせました。
窓からは温泉街のメイン通りを見下ろします。夏であれば湯治客の行き交う様を見ながら一杯といきたい。訪れたのは冬、早々に窓を閉めて部屋に篭ることになりました。
部屋の備品にお高い空気清浄機の備え付けもありました。
他には空の冷蔵庫、お茶セット、訪れた時には豊岡市内で使えるクーポン券が付いていました。化粧水などの備品はなく、アメニティ類は歯ブラシと浴衣、丹前ぐらいでシンプルです。加えるなら浴場にヘアーバンドがあるぐらいです。
忘れ物や不足があっても、温泉街にコンビニがあるので物には困らないかと思います。
お風呂
やまとやさんのお風呂は1つしかありません。城崎温泉では高級旅館であっても自家源泉のお宿はなく、温泉街全体で一括管理されているようで、各お宿のキャパシティに対して内湯浴槽の大きさが決められているそうです。大和屋さんは湯舟を1ヵ所に絞って貸切風呂とすることで、小さい湯舟ながらも良泉を楽しめるようにしてあります。城崎温泉にあるお宿は加水している所が多いです。源泉かけ流しではなく厳密には循環放流ですが、源泉がかなり高温なため水を加えない温度管理をしっかりとしておられます。そのため、これまで宿泊したお宿のどこよりも、味も飲泉所の味と同じ中等度の塩ミネラル味が濃ゆい。そして、どこの湯舟よりもツルツルとした触感が強く感じらました。
1つしかない内湯は窓も小さく湯舟は大人2名で一杯、小さなお子さん2人で家族で入るとぎっちりな湯舟です。
木造りの湯口は循環湯のようです。右画像赤矢印の小さな穴から、じわりじわりと源泉が注がれています。溢れ出しを見ていると1分1リットルぐらい? 湯量が豊富な温泉地からするとかなり少ない投入量ですが、限りなく城崎源泉の生源泉に近いのではないかと思われます。男女別に湯舟を分けず、小さな湯舟1つに注力しているからこその湯使いかと。
桶にすくって見ると城崎温泉では珍しい茶黒い湯の花が浮遊しています。
無色透明のお湯が一杯に張られており、溢れ出しは多くはないですがゆるゆるとこぼれ出ています。城崎温泉では珍しく消毒臭は全く感じられない新鮮な湯を楽しめました。
やっぱり大きな湯舟に入りたいという方は、城崎温泉街にある7ヵ所の外湯を巡りましょう。城崎温泉の宿泊客は各お宿から、温泉パスを借りて無料で利用することができます。
お料理
朝夕共に個室食での案内です。プランによりメインとなる料理が異なるようで、この宿泊ではたじん鍋を使ったメインデッシュです。海の物を中心に特産物を盛り込んだ、実に但馬らしい内容となっています。
お品書きはなかったため、予約時のプランの内容にあった献立から抜粋しています。口にして実際に体感したものを記載しているので、内容が異なることもありますので、ご参考程度に見て頂ければ幸いです。
夕食
普段は順番に配膳されるのかもしれませんが、ご時世柄一気出しとなっていました。止椀も一緒に一気出しなので、温かい物が冷めてしまうのはちょいと寂しいところ。
【先付】:蛸のカルパッチョ、烏賊の雲丹味噌和え
湯ダコではなく生タコを使用しており、コリッとした歯応えの後はグモグモとして新鮮な弾力です。茹でたブロッコリーに合せてあるのは、コショウの効いたイタリアンドレッシング。 イカはアオリイカでしょうか。こちらもイカ風味は新鮮で、やんわりとした抵抗感にスルスルと歯が入る。ウニ味噌は自家製か?とても濃厚です。既成の瓶詰だとイカの中にまで味が入り込んでしまっていますが、味がそれぞれあるので「やまとや」さんで合わせているのだと思います。
【玉子料理】:旬の玉子宝楽焼き和風グラタン
予約サイトでは旬の物はカニ爪で和風とありますが、献立名とは裏腹にどうみても洋風グラタンです。こちらは熱々で配膳されていました。
カニ爪はよくある冷凍だと思いますが、普段見る冷凍物に比べるとでかくない!?入れ込んである具材はベーコンとシメジです。このベーコンがいい仕事をしていて、一気にオムレツ感を引き出しています。最初はグラタンというよりは玉子が香るオムレツなのに、食べ進めるとベーコン風味のお出汁が溢れてくる茶碗蒸し風で確かに和風に変化します。不思議で面白い一品です。敢えて「和風蟹爪オムレツの茶碗蒸し」と名付けたい。
【向付】:シーフードマリネ
写真を撮るのを忘れて先に手を付けてしまった一品。海藻クリスタルの上にあしらわれているのは、恐らくヒラメの造りとスモークされた同じくヒラメのエンガワ。エンガワは桜チップのスモークで香り高く。お皿の上下には厚切りアオリイカ?で食感がやはりスルリスルリと微抵抗な噛み心地がたまらなく旨味は甘く黒蜜醤油?で味付け。カイワレ大根と刻みネギを散らし、回し掛けてあるのは和風エゴマドレッシングかな。
【焼物】:寒鰤の照り焼き
日本海で水揚げされる旬物の寒ブリです。事前配膳なので冷めてしまっていたのは仕方なし。身がグッとしまっているのに脂の乗りが良く、添え付けは季節の柚子と変わっていて、レモンや酢橘ではなくユズというワンアクセントが今までにない発想でよく合います。照り焼いたというよりは、煮凝りの様で絡めて食べると深みがある。
【御凌ぎ】;お蕎麦
城崎温泉のお隣には皿蕎麦で有名な出石があり名産でのお品でしょう。さすがにお取り寄せかと思いますが、コシはほどほどに十割なのかボソボソした感じがあり、合わせ出汁の薄口醤油の麺つゆは普通味。
【蒸物】:但馬牛、八鹿豚、鮑盛り たじん鍋
席に着いたときはすでに火が通された状態で配されていました。但馬、八鹿、日本海の幸の贅沢3点盛りです。
蓋を掛けると和牛の黒と豚の白のコントラスト。和牛のルーツである但馬牛は口に入れると和牛の風味が溢れだし文句なしの旨味。八鹿(ようか)では養豚を営んでおられる畜産農家さんは1軒しかありません。これは同じ城崎温泉にある小林屋さんで聞いたのですが、ケーキとかを食べさせたりしているというユニークな畜産農家さんです。やはり、純な豚の旨味はきめ細かく味わいはシルキーで雑がない。牛も豚も部位はロースの切り落としと言った感じです。但馬牛、八鹿豚、アワビを一緒に蒸し焼きにしているのにも関わらず味移りはなく。
アワビは小振りだが歯応えはとても柔く肉厚があります。プツリと身離れもよく口の中で踊らせると旨味はあるが磯は緩く、肝も青臭さはなく食べ易い。海の物は磯の薫りが漂ってなんぼのもんよ!!という人には頼りないかも。相方は「肉は美味い。アワビは海の物食ってるのに磯がない!」というコメント。まぁ・・・好み次第です。
【酢の物】:ズワイガニ
向付のマリネが予約サイトでは酢の物になっていましたが、酢カニを酢の物のさせて頂きました。「定番-日本海のブランド本ずわいがに」とあります。
酸味はマイルドで甘味が強調されたカニ酢で加味。冷凍物なんだろうと思いますが、最近は冷凍技術が凄いようで風味と旨味は熟され、殻には切れ目を入れてあるので小さくても身離れがよく旬カニを十分に味わえます。
【食事】;白米、赤出汁、香の物
甘味が強い白米はコシヒカリのようにもっちりとしています。それともコウノトリ米?硬さ柔さも程よく美味しい。赤出汁は京味噌で酸味は抑えて味噌の甘味には品があります。変わった練り物、丸麩、三つ葉の具材。香の物は柴漬けと沢庵。
【甘味】:コーヒーゼリー
ゼラチンでまとめたスタンダードなお手製のコーヒーゼリーです。ほんのり甘みがありフレッシュではなく、まったりとしているので生クリームかと。
朝食
朝食も夕食と同じ個室でちょうだいしました。派手さはありませんが、品数は多くちゃんと手作りの物を出していただけます。
・サニーレタスと紫玉葱の生野菜、ポテトサラダ、フレンチドレッシング
・茄子の揚げびたし
・冷奴
・玉葱天ぷら、かまぼこ
・茶碗蒸し
・カレイの一夜干し
・コーンポタージュ
・春雨の酢の物
・焼き海苔
・豆腐とワカメの味噌汁
・香の物(桜漬け、沢庵、生姜の佃煮)
・白米
冬茄子は厚皮で身がしっかりとしており素揚げしてから、タマネギドレッシングで和えてあり面白い。冷奴は絹と麻の間ぐらいの柔さがあり甘口のかつお醤油によく絡みます。練り物類もさすが海の傍ということもあり風味が濃い。一番目玉である茶碗蒸しにはカニ、オキアミ、鶏、シメジと具沢山で、味付けは少し強くしてありそれぞれの味が滲み出て豊か過ぎるお出汁が美味いです。一口コーンポタージュなどちょっとした変わり物が居たり、ポテサラや春雨などは業務パックではなくちゃんとお手製です。夕食と同じく品のある味噌汁にツヤツヤに炊かれた白米は絶品。
まとめ
兵庫県の奥神鍋スキー場で遊んでから温泉に寄りたいと思い、じゃらんのクーポンが余っていたので城崎温泉では珍しい源泉かけ流しを謳う「やまとや」さんへ行くことになりました。こじんまりとした木造建築の趣きと、部屋から温泉街を見下ろせるというロケーションは素晴らしい。温泉は厳密には源泉かけ流しではありません。しかし、決して多くはない源泉を大浴場ではなく貸切湯舟1つにすることで、常に新鮮な湯を楽しめるようになっていました。幸いにも自分以外の御客さんは1組だけで、しかもそのお客さんは外湯ばかりの利用で、常に部屋付きのお風呂状態で利用できたのは嬉しい限りです。派手さはないもののどれも新鮮美味で、料理は地産の物をしっかりと抑えた献立となっています。特に朝食は同じ値段帯ならお取り寄せに頼っている所の方が多いのではないでしょうか。
宿泊料金
時期によってお値段がそれなりに変わるお宿の様です。プラン名からあるように平日は1人10000円ぐらいから、休前日だとややお高くなります。ただ、アワビ、但馬牛、八鹿豚、ズワイガニが付いて、このお値段だと十分に納得価格かと思います。
宿泊日:2021/冬
旅行サイト:じゃらん
プラン:外湯巡り温泉街ど真ん中、但馬三大ブランド味比べ。あわび・肉・刺・かに・・【春待ち膳】\9900~
部屋タイプ:和室ウォッシュレットトイレ付:禁煙
合計料金:29998円(2人)
クーポン:3500円(じゃらん冬セール)
支払い料金:26498円
加算ポイント:1047p