小林屋さんは城崎温泉街の中心にあり、江戸時代に「せとや」という名前で、お商売人として創業したのが始まりだそう。その後、「小林屋」と改め旅館業として再出発されました。
旅情
城崎温泉の街並みを造る木造3階の建物は、大正14年に再建築され、歴史的価値があるとして2015年に有形文化財に登録されています。城崎温泉のメインストリートに面する正面入り口は、間口が小さく鰻の寝床のように奥へ奥へと建物が伸びています。
※2022年4月に訪れた時にはリニューアル工事をされていました。フルリフォームのようだったので、工事後の内装は全く異なるのでないでしょうか。
玄関には陶作家の安藤雅信さんの作品が展示してあります。ロビーには少し早い5月人形の飾り付けがしてあり、新聞も置いてありました。チェックイン時、女性はここで色浴衣を選ぶことができました。
帳場の雰囲気は昔のままの姿を留め、玄関のある棟は3階建てになっています。階段を上がると2階の宿泊部屋に、さらに上階へ続く階段が付いてあります。階段はリフォームされているのか、建材がやや新しく見えました。昔、大きな家に住んでる友人の家に行くと、こんな階段を目にした記憶があります。
この階段の踊り場には、現代芸術家である永本冬森さんのボールペンドローイングが飾ってありました。後から調べて知ったのですが、なんと小林屋さんの現若旦那なんだそうです。
階段を上がりきると大広間があります。大広間があるこの階には、2部屋の客室があり、宴会場は騒がしくなるのに傍にお部屋があるのは珍しい。
2階に戻り、奥の廊下へ歩みを進めると、1階への階段が付いていて従業員の方が忙しそうに夕食の準備をしておられました。どうやら調理場に繋がっているようです。廊下にはレトロガラスのトイレとタイル張りの洗面があります。所々にあるガラス窓は、他ではあまり見ない模様です。現在でも作れる代物なのでしょうか。
さらに廊下を進むと、建物の最奥に当たる部分に宿泊部屋が並んでいます。何となく懐かしい昭和感の溢れる立体構造です。欄干も低い。凝った装飾はないのですが、こういう階段周りは見ていると楽しくなります。
欄干の低い階段を降りると、2階と同様にロビーへ戻る長い廊下が付いています。その間に浴場があって、さらに進むと宴会場と調理場がありました。
ロビーに戻る途中には、帳場裏側に小物の販売と自動販売機があります。また、周辺施設のパンフレットも置いてありました。館内には余計なものは置いていません。2軒隣にコンビニがあり、手ぶらチェックインできます。温泉街は縁日のようにお店がたくさんあり、外湯巡りをしながらビールを呑んだりスイーツを食べたりブラブラできます。
お部屋
案内して頂いたのは15番のお部屋です。
間取りは本間10畳+次の間5畳+広縁3畳程+洗面化粧室2畳程+踏み込み+トイレです。一番お安く小さな6畳間で予約したのですが、何故かとんでも広々としたお部屋に通されました。普段は会食部屋とかなのでしょうか。
お部屋でウェルカム茶をいただきました。お茶請けは栃と粒餡のお菓子。
踏み込みには増設されたトイレがあり、次の間も4畳と広々余裕のある空間。トイレは安心のシャワートイレです。
小林屋さんのお部屋の特徴は、因幡の国で作られる伝統工芸の手すき和紙の障子です。本間と広縁を隔てる障子戸と、次の間の障子にこだわりがあります。床の間の隣にある「床脇」と言われる部分も、テトリス風の面白い構造です。
広縁からは小林屋さんの裏庭に、かつては旅館であったお隣さんの建物が見えます。眺めとしては今一つかな。旅情を感じるのであれば、少し料金を足して温泉街側のお部屋がいいかと。 お部屋には有料の飲み物が入った冷蔵庫があります。外出用色浴衣、館内着浴衣の計2枚の用意があり、アメニティは歯ブラシ、タオルとシンプルで、無駄がない感じです。お布団敷きの際にお茶の入れ替えがあり、バスタオルも1枚追加してくれます。
お風呂
小林屋さんのお風呂は男女別の内湯が1つずつです。城崎温泉の源泉から旅館への配湯はとても限られたものです。そのため、湯使いは源泉を足し湯しながらの循環、消毒、加水ありとなっています。消毒臭はほとんど感じられませんでした。ツルっとした肌触りに無臭で微塩味があるナトリウム・カルシウム-塩化物泉となっています。湯量を楽しむなら外湯の方がいいですが、消毒臭が気になる方は内湯がお勧めです。フェイスタオルは浴場に用意がありました。
男湯
丸い円形の味がある湯舟は4人はまとめて入れそうな大きさです。
源泉は湯舟の壁からじんわりと湧き出ていました。当日はお客さんが湯舟からお湯をバンバンすくって身体を洗っていたので溢れ出しは確認できず。カランはたくさん付いていましたが、シャワーは3基です。脱衣所には男性用のリキッドと髭剃り、ドライヤーが置いてありました。
女湯
女性の湯舟はほぼ1人用で小さな湯舟です。しかし、狭さと引き換えに?男湯と同じぐらいの源泉の注入量があるのか、常にオーバーフローが見られたようです。大きさを取るか湯質をとるか・・・。入れ替えがないので選べませんが・・・。
洗い場にはシャワーが1基です。フェイスタオルも山積みにしてあります。女性側の脱衣所には化粧水、クレンジング、シャワーキャップとドライヤーが揃えてあります。
外湯
城崎温泉で宿泊すると「ゆめぱ」という、QRコードが印刷された外湯巡りをするためのパスポートを借して下さいます。計7カ所の湯巡りを温泉街を散策しながら楽しむことができます。
お料理
朝夕ともにお部屋食でした。日本海と但馬の幸を存分に味わえるスタンダードな会席料理となっています。見た目は少し素朴ながらも、素材本来の味を大切にしたお料理が配されます。とにかく食材からしみ出るお出汁が旨い。そして、小林屋さんは器を愛でるプランがあるぐらいで、確かに食器が素晴らしくお料理が映えます。そちらも楽しみながら食すると一層味が深まるかもしれません。
献立は頂いたお品書きをもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
【八寸】:
①神葉の炊いたん
②京鴨ロース
③かに味噌豆腐
④柚子松風
⑤貝柱スモーク
⑥なまこ酢
盛り付けがとても華やかな手作り感満載の八寸です。 ①神葉(シンバ)とは日本海側の名前で、和名はホンダワラと言うそうです。コリッとプチッの間ぐらいの食感で味はややモズクに近いかも。ヒジキを炊くような甘醤油味。 ②口当たりはグモグモとしたしっかりとした鴨です。天然鴨でしょうか。中までしっかりと甘辛く炊いてあり粒マスタードでいただきます。 ③純粋な塩加減のカニ出汁に浸された、カニ味噌を練り込んだ豆腐は意外と磯風味は強くない。だが、あっさりとした口当たりなのに、纏わりつくように味噌が濃ゆい。 ④柚子皮を密煮にようなもの物を混ぜ込んであります。柚子が甘くゆるりと薫り鶏松葉にしっとりと馴染みます。 ⑤桜チップでスモークされた貝柱は干物の如く熟成されているが、ほろりと解けるような触感。口の中で噛めば噛むほど帆立の味が滲み、スモークの香ばしさと合わさりより深みが増しています。 ⑥ナマコは輪切りのままで湯引き?にしっかりとした歯ごたえは、貝類のような独特の味がしっかりとあります。これを強めの甘酢に絞りレモン・刻みレモンでレモンスカッシュの様で、とにかく爽やか。
【温物】:蟹の土びん蒸し
ベースのお出汁は鰹かな。火が入って湯気が上がる頃になると、蟹の薫りがお部屋に広がっていきます。中の具材を見て驚きです。出汁用の蟹ではなく、小ぶりながらも食べるための松葉蟹が半身近く入っています。この小さい土瓶にこれだけよく詰めたものです。少し塩を強く持たせた汁は、カツオは急に裏に隠れてカニの旨味が前面に雪崩れてきます。具材のシメジと三つ葉も良い仕事をしていました。お酒で割ると絶品でした。
【造り】:季節の魚三種
季節の魚は春のサワラ、桜鯛、サーモンです。サワラは叩きにしてあり身と味がギュッと締まっています。口に入れるとほんのりとした甘さに、良い加減に塩を仕込み、さっぱりして醤油要らずで120%のサワラを楽しめます。サーモンはトロリとまろやかな紅身の旨さは昆布締めのようでした。鯛はさすがの日本海味で甘味とタンパク感が特に強く、コリコリとした筋肉質の歯ごたえは最高です。これをこってりとした、たまり醤油で。つまは唐草大根、ラディッシュ、大葉、山葵。飾りはパンジーの花と桜百合根です。
【台物】:八鹿豚の豆乳鍋
八鹿豚はとてもレアなお肉のようで、但馬辺りでは1軒しか養豚場がないそうです。しかも、飼料がショートケーキとかチーズケーキを食べさせているそうです・・・。脂が良く乗るのだとか。そらそうだw ベースのお出汁は昆布?ミルキーではるけども豆乳風味はあまり強くなく。程よい塩加減に温まってくると、黄色い脂のようなものが浮いてきました。バター?バター風味はなく発酵バターの方かな? これに幻の八鹿豚をしゃぶしゃぶで食すると、確かに脂は乗っているけども、臭みやクドさは全くなく、品のある甘味のある豚肉の旨味です。事前に配された「蓋物」のポン酢で溶くと、豚肉の旨味が余剰に感じられます。勝手に味付けを変えてスミマセン。具材は濃厚豆腐、エノキ、水菜、葱。
【蓋物】:久美浜の蛤と桜鯛の酒蒸し ぽん酢で
蓋を開けると、ふわ~と立ち上る湯気はハマグリ一色です。強く蒸してあるので身は硬くなっていますが、旨味はしっかりと凝縮され、お出汁もハマグリしかなく美味。タイは移り香はなく、昆布の上において別に蒸しあげているのかも。それもあってか濃密に鯛味が締まっています。塩加減がベストで加味は不要ですが、小林屋さんの自家製と思われるポン酢は絶品の酸味で、お出汁に溶かすと一層味が際立ちます。付け合わせのワカメは磯風味を強め、彩りに季節の菜の花が添えてあります。
【揚物】:春大根の天ぷら 削り昆布で
お品書きを見て、どんな料理がくるのかと思っていたので配膳されてびっくり。大根を鰹のお出汁で柔く薄味に炊き上げてあります。これに、しっかり打ち粉をして、生卵をくぐらせてたと思われるチキン南蛮風揚げで、大根の水分がしっかりと閉じ込められています。中はジューシーなのに外は衣がサックリ。味付けは削り花昆布を散らして、一緒に口に含むと大根には昆布が合うとよく分かります。
【食事】桜海老の釜飯、赤だし、香物
釜飯は海老甲殻香ばしい濃い目の醤油味です。蓋を開けるとエビ~~と香りが踊り出ます。最初から配膳されているので、早く火をつけて先にいただくも良し。
止椀と一緒にいただくなら、炊き上がるまで30分かかるので蓋物が食べ終わるぐらいに着火したらベストタイミングでした。赤出汁は「めかぶ?」の粘りにより、トロトロの汁にさらにナメコ、セリに酸味と塩がおとなしいお味噌。
【甘味】苺ぷりん
これがとにかく孤高の苺が極まったデザートです。プリン地は苺の粗さが残り、やさしい甘さとコッテリ感のないクリーミーさは、牛乳?豆乳?のムース仕立て。酸味と甘みが強いジャムのように煮詰めた滑らかな苺のソースをトッピングしてあります。ソースも単品味は酸っぱいのにムース地と出会うと、まろやかな深淵に到達する。なのにムースも負けずに抗いとても幸せな味。唸る旨さでした。
朝食
・シジミのしぐれ煮、梅干し
・自家製ポテトサラダ
・ヨーグルト苺ソース
・白米
・アサリのお味噌汁
・地鶏の親子丼セット(割下、地鶏、玉ねぎ、椎茸、三つ葉、赤玉子)
なんと自分で作る親子丼という初体験の朝食です。お酒が効いた絶妙な割り下の汁に、地鶏とお野菜を並べて煮立たせます、ぷりんぷりんの赤玉子を回し入れて、また一煮立させて卵がいい加減になってきたら・・・。
どんぶり鉢に盛った白米にダイブさせて出来上がりです。地鶏はたたきのように、焼きがはいっており香ばしく歯ごたえがたくましい。卵がとても濃厚で、割り下を全部入れると、「つゆだく」でいただけます。ポテトサラダも変わっていて、「燻りがっこ」のような燻製大根も一緒に盛り込んであり、これが珍妙のようでおいしく。朝から親子丼とはお腹いっぱいで恐れ入りました。
まとめ
温泉街側のお部屋だと賑やかさを感じますが、建物は奥に長くひっそりとした雰囲気で落ち着いて過ごせます。文化財のお宿といっても、格式は高い印象ではなくアットホームな旅館です。お料理は旬の山海の幸を、上手に旅館味に仕上げてあり、朝食の親子丼には感服です。お風呂は源泉の投入量が少ないので、宿泊者数が多いと湯力が弱くなりそうなのが気になるところ。到着時と朝一の一番風呂を狙うと良いかもしれません。次に訪れる時は、もう少し上手に親子丼を作ってみたい。
宿泊料金
さて、宿泊料金です。平日で30000円~、休前日で40000円~ぐらいの値段帯です。小林屋さんは、あまり値引きをしないお宿でもあります。そこへ、じゃらんバザールの7000円クーポンがうまくゲットできたので宿泊に至りました。楽天スーパーセールで5%引きとかは見たことがあるのですが、じゃらんのクーポンがタイミングよく使えるなら最安値ではないかと思います。
宿泊日:2020/4
旅行サイト:じゃらん
プラン:【あたらしい郷土料理】月替わり会席
部屋タイプ:和室6畳→グレードアップされました。
合計料金:41800円
クーポン:7000円(じゃらんバザールクーポン)
支払い料金:34800円
獲得ポイント:348P