奥津荘さんの建物は昭和2年の建造だそうで、有形文化財に指定されたのは2018年と最近になってからです。
旅館
奥津温泉は山間部にある小さな温泉街で、お宿の数も両手で足りるほどです。近代化されたお宿が並ぶ中、奥津荘さんの建物は一際目を引きます。温泉街の中心にあって、玄関はメインストリートに面しています。温泉街全体はとても鄙びた感じがあり、街全体がひっそりとした印象でした。
奥津荘さんは川底から自然に湧き出ている温泉を利用しているので、吉井川の傍らに建っています。建物の種類が分かり易いように本館と別館で分けさせて頂きました。文化財に指定されているのは木造部分の本館です。
離れは館内からもアクセスできますが、本館の裏手からも入ることができます。離れは源泉かけ流しの露天風呂が付いており、ちょっとお高くなっています。右と左の建物の間にそびえ立つ銀杏の木は樹齢800年だそう。
正面玄関横の脇道に入ると中庭の玄関がありました。この庭の門に面白いプレートが付いていました。昔はどこの温泉街にも色街としての風情があったでしょうからその名残ですね。色があるということは、かつては賑わいがあり人の往来が多くあったのでしょう。こういう時代を表す物は悠久を感じずにはいられません。
正面玄関に車を着けると若旦那さんらしき方に車を回して頂きました。とても広々とした重厚で明かりが良く入るロビー。事前に見ていた画像よりも玄関は大きく開放感がありました。
ロビーにはラウンジが併設されています。チェックイン時の記帳と一緒にお抹茶とお茶菓子を頂きました。ラウンジには無料で使用できるパソコンが置いてありました。
玄関の窓や格子天井の装飾が素晴らしい。ものすごく落ち着いた雰囲気で高級感があり、小心者はチェックインで久々に緊張です。
ロビーからお部屋へ案内して頂くがてらに、お風呂とお食事処の案内があります。右画像の案内板の右を進むと、左の画像の廊下になります。丁度、風俗プレートがあった中庭に当たります。
案内板の左にはお風呂への階段があります。この階段と浴場までの廊下はレトロなタイル貼りになっていて昭和を感じさせます。画像左にある階段上には大広間があるそうですが、現在は使用されていないのだとか。残念。是非見学させてほしい。
廊下を進むとお食事処「花梨」とその前に休憩処があります。この休憩処からは2階に上がる階段があり別館のお部屋となっています。食事処の隣には貸切風呂の「川の湯」があります。
館内には岡山県作州に縁のある芸術家の作品がロビーに飾ってあります。絵画は良くわかりませんが、世界的版画家・棟方志功さんも奥津荘を度々訪れていたそうで、館内の作品は本人から直接頂いたものだそう。組子の作品は見ているだけで手が釣りそうなほど細かい。訪れた時は奥津温泉を挙げての芸術祭が催されていました。
フロントにお土産の販売はありましたが、自動販売機などはありません。お宿から100~200m圏内に自動販売機や商店はありましたが、必要であれば予め揃えておくほうがよさそうです。お部屋の冷蔵庫には冷やした温泉水を、2リットルも用意してくれているので飲み物に困ることはなかったです。
お部屋
案内して頂いたお部屋は「桜」というお部屋です。
間取りは本間6畳+踏み込み2畳ぐらい+広縁2畳+トイレ+洗面。湯治をするにはピッタリの風情で本館の木造部分になります。他の客室と壁を共有していないので、木造でよくある物音が響くようなことはありませんでした。
広縁と踏み込みへの見通しがよく、光りの入りもいいので6畳間であることを忘れてしまいます。
広縁からは横を流れる吉井川のせせらぎと対岸にある足湯が臨むことができます。
玄関の扉を開けたところからと、踏み込みを入って左にある洗面所とトイレです。建物は古風でもトイレは最新のシャワートイレ。アメニティ一式はもちろん、足袋、髭剃りジェル、POLAの化粧品セット、ドライヤーなど考えらるものは用意があります。浴衣もすべてのサイズが網羅されていました。
お布団上げは朝食時にお伺いがあり、お布団上げ後はお茶セットと温泉水の入れ換えもしてありました。冷蔵庫には飲み物が入っていますが、なかなかのいいお値段です。奥津荘さんも高級宿なのでそのへんはね。画像右のように冷蔵庫には冷やした温泉を入れてくれているので、飲料に関してはこれで十分でした。温泉水で水割りをすると安い焼酎が上物焼酎に変化します。また、浴場も多いので鍵が2本あるのはうれしい。
お風呂
お風呂は男女別の「鍵の湯」と「立ち湯」があり入れ替え制となっています。温泉好きには絶妙な時間割となっていて、男女共に両方の湯舟を朝夕まんべんなく楽しめるようになっていました。大浴場以外にも「泉の湯」と「川の湯」とうい2つの貸切風呂があります。お客さんのほとんどは貸し切り風呂利用が多く、うれしい事に大浴場がいつ行って独占状態でした。
泉質はアルカリ性単純温泉。湯触りはツルヌルしていて、湯上りはスベスベしっとりの美人の湯。フェイスタオルはすべての湯屋に備え付けがあり、毎回新しいものを使用できます。脱衣所には綿棒、シャワーキャップ、ドライヤーがあり、バスタオルはお部屋から持参です。
鍵の湯
ロビーから浴場へ行く階段を下ってすぐの所に「鍵の湯」があります。夕食前と朝食後が男性タイムとなっていました。
脱衣所から数段下ったところに湯舟があります。天井がとても高く広々とした空間の浴室は、蒸気がこもらず、のぼせずゆっくりと入れるのがいい。
思っていたよりも大きな湯舟で、大きさだけなら5,6人は余裕で入れます。ただし、湯舟の底が岩々しく、身をあずける場所が意外と少ない。場所によって深かったり浅かったりします。
湯舟の底は川底に相当し自噴している足元湧出となっているようです。掛け流されていく湯量はとても多く、湯舟の淵という淵から溢れ出ていきます。そして、湧き出すお湯と一緒にプクプクと気泡が上がってきます。湯舟も大きいが湯量もとんでもなく多く、客室数も少ないので湯の弱りがなく常に新鮮なお湯使いが贅沢です。
立ち湯
「鍵の湯」の前を通って奥に進むと「立ち湯」と湯上り処があります。
こちらも天井は高く開けた浴室ではありましたが、鍵の湯と比べると湯舟と浴室は小さめです。
3人ぐらい入ると距離が近くなり、ちょっと気まずい感じになりそうな大きさ。湯舟の下には塩ビパイプが仕込んであって、そこから大量のお湯が投入されています。それ以外にも岩の間からも気泡が上がってきており、自然湧出口もあるのかもしれません。透明度が高い。
溢れ出るお湯の量は凄まじく、いつでも新鮮湯なのはこちらも同じです。立ち湯という名前通り一番深いところで130㎝ぐらいありそうです。深いところは一部だけで、座れるような所もあって足を深みに垂らしてダラリと座って入るには丁度いい感じでした。
泉の湯
「鍵の湯」の入り口向かって右側に、秘密基地へ行くような細い通路が「泉の湯」の入り口になっています。
タイル張りのキラッキラッの浴室でとても明るい。浴槽は2人で丁度、1人でのびのびといったところ。
浴槽壁に湧出口があってすごい勢いで湧き出し、すごい勢いでお湯が溢れ出ていきます。パンフレットによると湯舟の大きさに対しての湯量が一番多いんだそうです。身体を沈めると洗い場が大洪水になるほど。画像では見えませんが、こちらの浴室にもシャワーが備わっています。
川の湯
「川の湯」だけは3つの浴室とは違い、別館のお食事処の隣にあります。
3人でもゆっくりと入れる湯舟に、投入される湯量はなかなかのもので組まれた岩の隙間から噴き出ています。昭和感のある窓のサッシやタイル貼りの浴室は何とも懐かしい気分になります。こちらのお風呂は常にお客さんが入っていて1番人気でした。ほかの浴場にはない表の景色があるからでしょうか。
目隠しが多いので景色は隙間から見れる程度。外から覗けない小窓からは少しだ川の景色を楽しめます。
他の湯舟と同様に、ここのオーバーフローが素晴らしい。どこの湯舟に浸かっても気持ちの良すぎる湯量です。
飲泉所
立ち湯の前の湯上り処には飲泉所あります。飲み口はまろやかで柔らかい。無味無臭とあるけど微妙に甘味があるように感じられ美味い。甕に冷やした物と、源泉温度そのままの蛇口がありました。
お料理
朝夕ともにお食事処の「花梨」で頂きました。お食事処は現代的な雰囲気で、半個室のようになっており吉井川を眺めることができます。
献立は頂いた献立表をもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
夕食はどれもお手製で優しい味付けの物ばかり。薄味ではなく素材の旨味を活かした体に優しいお料理が並びます。
【食前の一滴】:奥津荘源泉
【先付】:落花生豆腐、生雲丹、山葵
お酒ではなく温泉を鏡野町特産のウランガラスで食前に頂きます。これはこれで粋があっていいのですけど、飲泉所で散々飲んできたのでお酒が良かったかな・・・。 先付の落花生豆腐は濃厚かつクリーミーで雲丹との相性が抜群です。それぞれ別々に食べてもおいしいのですが、合わさるとコクが増します。これをしっかりとした鰹の香り豊かな出汁に浸してあります。
【前菜】:地産木の子みぞれ和え、きぬかつぎ、サーモン小袖寿司、子持ち鮎甘露煮、玉子真丈
ガラスの器に盛られたキノコおろしは3種類ぐらいのキノコを確認したのですが、確実に分かるのは椎茸とナメコぐらい。あとは平茸かな?味付けに塩気はなくキノコがふくよかに香ります。 里芋のきぬかつぎは皮がプリっとめくれるようになっていました。ほんのり塩味と里芋の甘味。 サーモンのお寿司は昆布〆でしょうか。極少の塩加減でシャリとサーモンの本来の旨味が出ています。 子持ち鮎の甘露だけは前菜の中ではしっかりとした味付け。 玉子真丈はふんわりとした噛み心地に緩やかに鼻に残る甘い玉子の香り。ムースのようなカステラのような。 前菜は素材の味をそのまま楽しむような味付けの物ばかりでした。
【造里】:瀬戸内産天然鯛、三重県産鰆、鮪赤身
どれも切り口がとても活かっています。タイはコリっとした歯ごたえが残り脂は少なく淡泊で瀬戸内という味。 サワラは炙りを入れて叩きにしてあり香ばしく、サワラ特有の緩さは弱く意外にも歯ごたえがしっかりとしていました。 マグロは雑味のない赤身の味で脂の乗りもほどほどに良い。 珍しいのが、刺身を甘口のカツオ醤油で頂くというもの。妻は大葉、蓼、酢橘、金魚草、山葵。ワサビの甘味と辛味は新鮮な摺りたての本物です。素材へのこだわりを感じます。
【名物】:薯用蒸し、強蒸し
名物は源泉で蒸しあげたお料理だそうです。 「薯用蒸し」は「薯蕷蒸し」、「養老蒸し」の別名のようです。やや粘りのあるトロリとした感触に濃ゆい山芋の風味とほんのりと甘い後口が上品。温泉で伸ばしているのかな。中には鰻の白焼きが入っていました。 強蒸しは「おこわ」です。おこわには弱く塩味がついていて何とも言えない香りが含ませてありました。これも温泉の香りでしょうか。これに、さつま芋、わらび、細竹、銀杏、むかご、シメジを入れ込んであります。具材の風味もおこわに移り、彩りと味のバリエーションがあって美味。
【焼物】:奥津川産 鮎塩焼き
なんと子持ちアユです。訪れた11月はアユの旬も終わりですが、産卵の季節なので卵付きです。夏の旬の時期と違い、身に脂は少なくあっさりとしています。卵は粒身がとても多くついていましたが、ワタの匂いも結構あったので苦手な方は除けて食べたほうがいいかもしれません。ワタの匂いが強いということは天然物でしょうか。熱々で提供してくれて塩加減も丁度良い具合です。
【台物】:作州名物 そずり鍋
骨に付いた肉を削ぐように落とすことを「そずり」と言うそうです。いわゆる中落ちと呼ばれる部位で、灰汁と雑味を取るためか、あらかじめ火を通してありました。お肉の味とお出汁は確かな和牛の香り。ベース出汁はカツオでしょうか。すき焼のような濃い味ではなく、あっさり醤油味で火が消える頃にはいい具合のお味になっていました。お鍋にはお野菜とキノコがたっぷり。白菜、水菜、白ネギ、ゴボウ、餅府、豆腐、糸こんにゃく、シメジ、椎茸、エノキと賑やか。
【炊合】:絹かわ茄子、合鴨治部煮、万願寺青唐
これまでのお品とは違い珍しい濃い味の生姜餡です。合鴨は赤身が残るぐらいに、やんわりと火を入れて打ち粉をしてあるのでしょうか。よく餡が絡み噛み心地がふわりとジューシーで生姜のピリリとしたアクセントがいい。素揚げの茄子と万願寺が添えてあり、秋物なのにとても柔く口に残りません。調べたら、絹かわナスは身も皮も柔らかい愛媛の品種のようです。
【酢物】:瀬戸内産 鱧南蛮漬け
酢は控えめだけども醤油も強くない。けど、味はしっかりと入っている。お口直しにピッタリの一品。鱧は打ち粉をして揚げてから合わせ酢に漬け込んでいるのかな。味がよく滲み込んで酢が強くないのでハモの風味が爽やか。添え付けのネギとパプリカは焼を入れてあって香ばしさが増します。
【お食事】:コシヒカリ、赤出汁、香の物
奥津荘の契約農家さんのお米を源泉で炊いているそうです。 赤出汁は関西風の酸味と苦みのある安心のお味で具材はナメコと三つ葉です。 お漬物は奈良漬け、野沢菜、赤大根の浅漬け。赤大根こと巨大ラデッシュはかなり大きく色もとてもいい。
【水菓子】:シャインマスカット、豊水、豆乳プリン
種なしのシャインマスカットは言うことなしでしたが、梨は固めでスジっぽく甘味が弱かったです。シーズンも終わりなので不当たりだったのかな。 豆乳プリンは寒天で固めてあるのだと思うのですが弾力がすごい!
揺らしてもプルプルもしないし、ひっくり返しても微動作にしない。でも、スプーンを入れると程よく柔らかく、食べ口はパンナコッタのようなマッタリ感で後味が豊潤な豆乳の匂い。プリンというより甘いデザート豆腐の様。
朝食
・蒜山高原の牛乳
・ミネストローネ風トマトスープ(ベーコン、しめじ、ブロッコリー、ジャガイモ、豆腐、四角豆)
・鮭の塩焼き、蕗の甘辛煮、レモン
・豆乳豆腐の茶わん蒸し(貝柱、水菜)
・ほうれん草のお浸し
・ちりめん山椒
・だし巻き卵、大根おろし
・サラダ(ハム、カボチャサラダ、レタス、キュウリ)、胡麻と橙ドレッシング
・香の物(昆布と山椒の佃煮、大根古漬け、梅干し)
・鰯のつみれ味噌汁
・白米
・ブルーベリーソースヨーグルト
夕食とは対照的に味付けは濃い目で、白米がいくらあっても足りない品数。夕食に続きどれも厳選されたような料理が並びます。おいしいベーコンが入ったトマト鍋、鮭の塩焼き、出汁巻きは熱々のサーブです。鮭はホクホクふんわりとしていて、出汁巻きは塩は控えめのお出汁が自然と染み出す職人の技。お味噌汁のつみれは、ほっくり柔くお手製の鰯の団子。お味噌は夕食と同様の関西風の味で落ち着く。ちりめん山椒は青山椒の実が香しくピリリとして自家製だなと思っていたら、料理長さんのこだわりの一品としてロビーで販売されていました。朝食は健康的な一日の活力にガッツリ食べるというような内容でした。
まとめ
泊まってみての感想は、おもてなしはしっかりしているけども気取りはない。さりげなく品のあるサービスといった感じで居心地がとても良かったです。お料理は食材の自然さを活かして、旬のものが盛り込まれた上品な会席料理。最も好印象だったのは、やはり温泉でしょうか。大浴場で他のお客さんと会ったのは1回だけで、お湯は常に新鮮で湯量もたっぷりとあって、飲んでもおいしいとか最高です。客室数が少ないからこその贅といったところでしょうか。
宿泊料金
さて、宿泊料金です。yahooトラベル(一休)から予約で、ぞろ目のクーポンと旅旅サンデーの合わせ技で9000円引きになりました。予約時点の調べでは他の旅行サイトでは定価が63800円で、公式HPが最安値の57200円だったのように記憶しています。公式HPから2000円安く泊まれたことになります。夕食のお酒代ぐらいでたかなという感じでした。
お値段は張りましたが、近くにこんないいお宿があったのなら早く行くべきでした。周辺には何もないところなので、時間をゆっくりと優雅に過ごすには最適でしょう。疲れた時には季節を変えてまた往訪してみたいものです。
宿泊日:2019/10(土曜日泊)
旅行サイト:yahooトラベル(一休)
プラン:スタンダードプラン~奇跡の温泉・極上湯宿で優雅なひとときを~
部屋タイプ:渓流沿い「クラシック和室」(和室)
合計料金:31900円×2名=63800円
クーポン:3500円(Yahoo!プレミアム会員特典)
ポイント:5427P(ポイント即時利用)
支払い料金:54873円
加算ポイント:548p