賑やかな渋・湯田中温泉とは打って変わって、お宿が数軒だけという鄙びがある角間温泉。大湯の傍にあって、一際目立つ歴史が感じられる建物が越後屋さんです。
旅情
越後屋さんの建物は、明治初期から現存し130年ほどの年月が経過しているそうです。文化財にこそ指定されていませんが、木造3階の建物の重厚感は当時のままです。
1階の階段脇にはお風呂場と別館?への通路があります。画像左手の引き戸がお食事処となっています。
通路奥から玄関を見たところです。この通路はコンクリート造になっていて、貸切風呂が3つ並んでいます。床には水車の歯車と思わしき物が埋め込まれた装飾があります。
通路の奥には別館の階段があります。こちらの階段にも歯車の床飾りが施され、本館とは変わり、別館はなんとなく昭和初期の雰囲気のある建物です。
お風呂のある通路まで戻ると2階への階段があり、上りきると階段の手すりの細工が「八角ネジ」!!。これは初です。こういうおもしろい遊び心は大好きです。欄干の装飾も見逃せません。
2階廊下を通って本館部分に戻ってくると、正面玄関の階段を上がったところに当たります。今回は画像右側のお部屋でお世話になりました。使われていないお部屋も多数あり、ここで実際に稼働していたのは正面襖の2部屋だけでした。飾り窓や掲示板の庇(ひさし)など手の込んだ細工に見ごたえがあります。
階段周りの手すりが膝丈もなく低い。安全面とか言われそうですが、昔のままのこれがいいのです。3階階段の脇には共同の洗面があり、これがまたレトロ感がたまりません。3階部分は覗かせて頂くと宿主さんのプライベート利用のようになっていました。
階段から正面玄関を見下ろす眺めは、出立の予感を感じる情景です。
館内の設備は全く余計なものはありません。渋・湯田中温泉の歓楽街からかなり離れており、歩いて行ける距離にはコンビニ、飲食店、自動販売機などもありません。必要な物は事前に用意しておくことをお勧めします。
お部屋
案内して頂いたのは「5」のお部屋です。
間取りは本間8畳+広縁2.5畳となっています。
入口は襖になっていて、踏み込みは無く開けるとすぐにお部屋です。
広縁は温泉街の中心を眺めることができ、目の前に大湯の湯屋を見ることができます。画像は大湯の反対向きです。
お部屋の所々に細工や装飾を見ることができます。欄間も同じものではなく模様が違うものがはめ込まれています。
最も気になるのは、やはり広縁と本間を隔てる障子にある、山水画のようなはめ込み?ガラスです。このタイプは他ではあまり見ることがなく、珍しいものではないでしょうか。
トイレと洗面は室内にないので共同のものを使用します。トイレは和式と洋式がありますがシャワータイプはありません。アメニティは必要最低限のタオル、浴衣、歯ブラシです。お部屋の備えは有料飲料が入った冷蔵庫と、金庫の備えがあります。
お風呂
越後屋さんは大浴場がなく、貸し切り風呂が3カ所あって空いていれば何回でも利用できます。湯量豊富で源泉かけ流しのお湯を、24時間いつでも利用できるという贅沢な仕様です。また、客室数が数部屋しかないので、入りたいときにほぼ確実に入浴できます。浴室は3つとも趣が異なり湯舟の造形も楽しめます。自然湧出の混合泉は、源泉かけ流しのナトリウム塩化物硫酸塩泉です。肌触りはツルツルとしていて、わずかな塩味が感じられ、やわらかな玉子の香りがします。
浴場 その1
5人ぐらいは同時に入浴ができる湯舟です。画像では小さく感じますが、2ストロークほど泳げる大きさがあります。
湯口は女性像が持つ甕からドバドバと溢れ出てきます。しかし、温泉成分の析出物がすさまじい。源泉温はとにかく高く、流れるままに放置すると入れないぐらい熱くなります。なので、樋(とい)を使って、湯舟への流入量を調節することで温度調節します。
レトロなタイル張りの洗面台は加水と掃除用?にホースが付いていました。できれば湯もみして温泉を楽しみたいところです。この浴場にはシャワーが1基備えられていますが、シャワーのお湯は温泉のようですし、湯舟のお湯も新鮮なので浴槽から桶ですくって洗髪洗体が早そうです。
浴場 その2
こちらは3人ぐらい入ると窮屈な味のある檜(ひのき)の浴槽です。
注ぎ口は二つあって、両方源泉なのかは分かりませんが、木の注ぎ口は少しぬるい。パイプ側にはびっしりと析出物がついており熱い。ここにはシャワーはなく、湯舟からお湯をすくって洗髪洗体をする昔ながらのスタイルです。
浴場 その3
2人が並んで入れる浴槽は、大きさに対して湯量も少し控えめでしょうか。この湯舟の特徴は、ダラっと座って入れるように、湯舟が良い具合に椅子型に設計されているところでしょう。スマホや本を持ち込んで、だらりと過ごすのもいいかもしれません。
通気性が良いローマ的浴場と、隔てがない脱衣所は風情を感じます。
気持ちいい程に溢れるお湯に源泉湯口はカエルさんです。
外湯 大湯
角間温泉には3カ所の外湯があり、宿泊者だけが入浴できます。外湯は普段鍵がかかっており、電子keyを使用して湯屋に入ります。越後屋さんでは外湯に行く際に、女将さんに声をかけると電子keyを借してもらえます。画像は越後屋さんの玄関を出てすぐ隣の「大湯」です。
レトロな味わいのある大湯は、足を曲げて4人ぐらい入れる湯舟と脱衣所が一体となった湯屋となっています。
地元の中学生ぐらいの男の子が2人先客にいました。源泉の温度が熱すぎるので、彼らが来たときは地獄風呂のように熱くなっていて、入るのに難儀したようです。「むちゃくちゃ熱かったけど、今はちょうどいい感じになってます」と1人の男の子が言い、「ありがとう」と返しました。
温泉分析表はいつ頃の物かはわかりませんが、こちらもかなり年季が入っていました。
お料理
朝夕共に玄関を入ってすぐ左にある個室のお食事処でいただきました。越後屋さんのお料理は全体的に凝ったものではなくシンプルですが、宿泊料金からすると十分な内容です。ただ、家庭的なお料理もありながら丁寧な味付けはきっちり旅館味です。
お品書がなかったので、女将さんから聞いた内容と、実際に食べた感触から献立を作っています。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
【先付】:山芋の胡麻味噌和え
【造り】:鮪、海老、鯛、クラゲ
山芋は当て、おかず、どちらでもいける一品です。山芋を素揚げしてから、甘味のある信州らしいお味噌と、炒った胡麻に合わせて麹と胡麻の風味が豊か。
お造りは魚屋さんから卸しているようで、可もなく不可もなくといったところです。しかし、一品だけ気になったのはクラゲです。よくあるコリコリした触感ではなく、ゴリゴリで肉厚なのです。口にしたとき何か分かりませんでした。女将さんに尋ねると、魚屋さんに任せているので下ごしらえはわからないとのこと。感じ的には氷で締めた洗いのようです。お造りは薄口の醤油でいただきます。
【蒸物】:虹鱒のホイル焼き
鮭に比べるとコクがありサーモンのようだけど脂はあっさりと身はしっかり。熱々で出して下さるので、ふわふわ触感にレモンバターの風味が美味。そして、お野菜とキノコ類が大量に盛り込まれ賑やかなホイル焼きです。
【焼物】:じゃがいものマヨネーズグラタン
クラッシュしたジャガイモにベーコン、玉葱を合わせマヨネーズで和えて、さらにチーズを散らしてオーブンで焼いた感じです。黒コショウを香り付けに振りかけた気取らない居酒屋的一品。こちらも熱々提供です。
【凌ぎ】:冷蕎麦
3段重になった瓢箪の器は、上段は鰹の麺つゆ、中段は薬味の葱、大根卸し、なめ茸、下段にお蕎麦が入っています。お蕎麦は手切りのように変則的な形がしたものが入っており手打ちでしょうか。最近はこういうお取り寄せ品もあるので定かではありませんが。薬味を入れて麺つゆをかけて混ぜ込みます。大根卸しがなかなかに辛くサッパリ加減が引き立ちます。
【台物】:和牛の陶板焼き
ブランドは分かりませんが和牛の薫りがしていました。お肉屋さんから直接お取り寄せしているのだとか。肉汁がお野菜に移り、旨味たっぷりな野菜炒めのようです。漬けだれは玉葱味の焼肉のタレです。漬けてもいいですが、全体に馴染むように回しかけて、白米と一緒にいただきました。
【炊合】:南瓜、里芋、エリンギ、高野豆腐、スナップエンドウ、梅人参
見た目は味が濃そうに見えますが、どれも余計な味付けは付いておらず素材の味のままです。炊き合わせの献立通りに一品一品別々に煮てあります。エリンギ、エンドウ、人参は自然の味で、南瓜と里芋だけ緩く醤油の味が入っています。すべて一口サイズになっていて少しずつ楽しめるのがいいです。
【止椀】:エノキとお麩のおすまし
【食事】:白米
【香の物】:野沢菜
お米のおひつを開けると湯気が立ち上り、白米の甘い風味が充満します。最初から配膳してくれているので、台物の牛でも、ホイル焼きの虹鱒でも、塩が強めの野沢菜でも食べれてしまいます。止椀は、やさしく香る鰹出汁にしっかりと塩味を利かして、エノキを散らして、梅麩と三つ葉で彩をとってあります。
朝食
・リンゴジュース
・目玉焼き
・鯖の塩焼き、生姜甘酢漬け
・揚げ野菜金山寺味噌
・ひじきの煮物
・焼きのり
・香の物(瓜、大根、梅干)
・味噌汁
・白米
とてもスタンダードな朝食です。まずは濃厚なリンゴジュースをいただきます。鯖は焼き加減がふんわりと絶妙。目玉焼きは揚げるよう火を入れるタイプで黄身がとろとろです。そして、他ではあまり見ない朝から揚げ物です。揚げ物といっても茄子、ピーマン、パプリカを素揚げにして、甘味を強くもたせたお味噌を添えてあります。味噌汁はワカメと豆腐の信州味噌仕立てでやさしくほっこりです。どれもがメイン料理のようで白米がおいしく進むものばかりでした。
まとめ
とにかく鄙びのオーラが凄く、お風呂場周辺の雰囲気はまさにノスタルジック。2回目の宿泊でありながら、越後屋さんで一番好きな場所かもしれません。老舗の歴史ある旅館と遜色がないくらいの館内ですが、女将さんに文化財認定は受けないのですか、と尋ねると「恐れ多いです」とのこと。割安でライトな感覚で宿泊できるのが越後屋さんの売りかもしれません。定番のお料理なのかなと思いましたが、そうではなく季節や仕入れによって内容が異なるようです。味付けも家庭的かと思いきや旅館味なのもいいです。コスパが良く、2食付けてしっぽりと源泉かけ流し温泉を楽しむには最高です。気が向けば風情のある外湯もふらりとするのもいいかもしれません。
宿泊料金
さて、宿泊料金です。これだけの充実した内容で、楽天トラベルの2人の定価が17600円です。復興割クーポン利用で1000円を値引きしてもらいました。年始に1人2食付8300円とか良心的すぎるお値段です。
宿泊日:2020/1(年始泊)
旅行サイト:楽天トラベル
プラン:越後屋旅館 定番の1泊2食付きプラン【和室8畳】
部屋タイプ:和室8畳(ww8)×1部屋
お風呂は全て源泉かけ流し。24時間入浴可。合計料金:17600円(2名)
クーポン:1000円(復興割クーポン)
支払い料金:16600円
加算ポイント:166P
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