創業は江戸時代。明治と大正時代に建てられた4階建ての数寄屋木造建築は、関東大震災をも乗り越え今もなお箱根の地でその姿を残しています。歴史的価値のある建築物は2009年に有形文化財に登録されました。
旅情
車は玄関から2,3分離れたところの駐車場へ停めます。玄関に入ると下駄箱に靴を入れてチェックインです。
フロントでお部屋、お食事処、お風呂の説明を受けて、鍵を受け取ってお部屋に向かいます。過剰なサービスはなく民宿スタイルに近いかもしれません。
フロント奥には雑貨やお土産などが置いてある売店と休憩処があります。一の湯さんのオリジナル商品などもあって充実しています。他にインタントラーメン、ちょっとしたお菓子類、アイス、自動販売機もありました。
宿泊棟は2階フロアの中心にある宴会場を、取り囲むように敷かれた回廊沿いにお部屋があります。明治、大正期デザインのような玄関のあるお部屋があるかと思えば・・・。
昭和の良き時代に造られたようなお部屋もあります。かつては個室のお食事処だったのでしょうか。お部屋がすべて外向きなので、館内は内廊下のため少し暗くひっそりとしています。
階段周りは今では見ることのない吹き抜け?の立体構造、曲がった手すり、覗き窓がほどこされ、館内で最も目を引く場所でした。
3階部分の内向きの窓です。内廊下では唯一ここだけ光が差し込んでいました。下画像はフロント横の階段です。これを4階まで螺旋状に配置されていて、最上階が大宴会場になっています。
館内の設備としては3カ所に自動販売機があって充実しています。浴場前はアルコール類も売っていました。また、周辺には商店がないため、必要なものは事前に備えておく方がいいと思います。
お部屋
案内して頂いたのは「山吹」というお部屋です。
間取りは10畳+洋間6畳+広縁+洗面です。欄間の細工と一枚木の天井板が素晴らしい。
お部屋は所々補修されながらも、昔ながらの造りは当時の面影をそのままに留めています。公式HPの写真を見ていると、「一般客室(中)」以外のお部屋はリフォームされているような感じでした。古い趣向を感じて宿泊するなら(中)のお部屋がおすすめです。
洋間の天井は屋根の形状に合わせて斜めに弯曲しています。このお部屋にはレトロなタイル張りの洗面台もついています。
お部屋からの眺めは洋間から早川が見え、本間の広縁からはお向かいの環水楼さんの玄関が見えます。
アメニティはお部屋には歯ブラシのみで、髭剃りやシャワーキャップなどはフロント脇に置いてあります。浴衣のサイズが合わなけばセルフで交換です。備品は金庫、ドライヤー、空の冷蔵庫があります。お布団はセルフ敷きです。お部屋にトイレはないので、共用トイレが各階にありました。和式、洋式、シャワーと全タイプ対応型となっています。
お風呂
館内には「金泉の湯」、「恵の湯」2カ所の大浴場があり、男女入れ替え制となっています。貸切の家族風呂も1つ、恵の湯の手前にあります。泉質は無味無臭のアルカリ性単純温泉です。加水・加温・循環・消毒あり、と聞きは残念な感じがします。ところが、アルカリ性泉のツルりとした確かな感触が感じられ、源泉の投入もしっかりあり、気持ちがいいほどにオーバーフローも見て取れます。消毒臭は分からないほどで、お湯の質としては十二分に楽しめます。公式HPでは源泉かけ流しを楽しめるのは、お部屋付きの露天風呂だけとなっているようです。予算に余裕のある方は是非。また、宿泊者は無料で一の湯グループの外湯巡りができる特典もあります。近所に3,4件歩いて行けるグループ宿があるようです。
金泉の湯
金泉の湯は雑誌などで紹介される湯屋です。大きさは足を伸ばして7,8人ぐらい余裕をもって入れます。淵からのオーバーフローはないのですが、老朽化のためか淵と床石の間からお湯が漏れ出しています。
洗い場は広く天井飾りも特徴的です。洗い場にはシャワーはなく、右画像の源泉が溜められた水槽からお湯をすくって洗髪洗体を行います。そして何より凄いのが、青矢印の配管には源泉が流れているのですが、まず洗髪洗体用の水槽に源泉が注がれ、水槽内をお湯が移動して赤矢印に向かってさらに移動し、最後に湯舟のかけ流し口から源泉が注がれているようでした。掛け湯と湯舟への注ぎも、お湯使いに無駄がなく「すげーーー!!」と感心しました。発見したのは相方ですが。
脱衣所の備品は足のマッサージ器とハンドソープ。女性側にはPOLAのクレンジング、化粧水、乳液があります。
恵の湯
こちらはリフォームしたのか新しさを感じる浴室です。3人が余裕を持って入れる湯舟は、人がはける時間帯に行くと、気持ちがいいほどにお湯が溢れ出て湯が新鮮です。お湯は金泉の湯よりこちらの方が好みでした。
こちらにもシャワーはなく100%源泉かけ流しの「流れる上がり湯」で洗髪洗体を行います。かけ湯が浴槽内のお湯よりも贅沢という。金泉の湯と同じような源泉の配管があり、こちらは湯舟内に直結した湯口がありました。
脱衣所の備品は同じです。見た目は新しくても、シンクが昔のままの銅板なのも粋です。
家族風呂
湯舟は大人3人では窮屈な大きさです。大人2人子供1人だと家族団らんで入れそうな広さ。この浴場にはシャワーがあります。
こちらには吸い込み口がなく、壁からぷくぷくとお湯が出ている湧出口が1つだけ。湯舟全体から結構な量のお湯が溢れ出していました。部屋付き露天風呂のみかけ流しとありましたが、こちらは消毒のにおいと循環装置はなく源泉かけ流しではないでしょうか。
浴室は大正時代に輸入された大理石で造られたそうです。宿泊者はチェックイン日に1回のみ貸し切り利用できます。翌朝はフリー利用なのでチェックアウトまでお好きな時に入浴できます。といっても翌朝はだれも利用した形跡がなく、チェックアウトまで新鮮湯をずっと貸切で堪能できました。
お料理
朝夕ともに大宴会場の「レストラン神山」で頂きました。この大宴会場は大正11年に増築されたそうで、木造建築の上にさらに建て増しとかびっくりです。一の湯グループさんのお料理は、グループ内のお宿はすべて共通の定番料理のようです。チェーン宿の安定したお味でありながらも、一品一品はきちんとした手作り感に工夫が凝らしてあり、熱い物は出来たてで配膳されます。
献立はお品書きを元に書いてあります。実際口にした感想を交えて記してあり、個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
【酒肴3種盛】:かぶらとサーモンの甘酢、和風合鴨のロースト、するめ烏賊山葵風味
かぶらはシャクシャクと噛み心地が良く、燻製香ばしいサーモンとしっとり甘酢で合わせてあります。 合鴨はローストというよりは、味付けがチャーシューのようで鴨の旨味が良く、ほうれん草のお浸しが添えてあります。 スルメイカはゆるりとした歯応えに、白味噌の和えは塩が控えめで、山葵と大根でさわやかに食べやすくなっています。どれもお酒の当てにぴったりです。
【胡麻豆腐と椎茸旨煮添え】
この胡麻豆腐とてつもなく濃厚です。ズブリと箸が入る硬さに、舌触りは粗目の練り胡麻をそのまま固めたようであり、胡麻をグッと5倍ぐらいに濃縮したような風味。田楽味噌が掛けてありますが味付けは不要かもしれません。これにあっさり醤油のシイタケの佃煮が添えてあります。
【自家製つくね焼き、テリ玉ソース】
温かく杉板に乗せて配されます。杉板の焼き跡などをみると直火で香り付けをしたのでしょうか。つくねの形状は明らかに手ごねっぽい歪感があります。鶏身は軟骨などを入れ込んだ、弾力がある歯ごたえのつくね生地はとても脂が密です。薬味にアルファルファもやしと大葉をあしらい、卵黄の甘味があるこってりテリ玉ソースで頂きます。付け添えはピリ辛の焼葱青唐味噌。この味噌ともなかなかに合います。
【舌平目詰め物揚げ、みぞれあん】
蟹真丈を舌平目で包み込んで揚げた物と説明書きにありました。これも揚げたてで配されます。ほっこりとした真丈が纏うのは、青のりを混ぜ込んだ磯辺揚げ生地です。風味豊かな磯の香りと、少し甘さをもたせた「みぞれあん」で上手くさっぱりと加味してあります。
【名物 特選豚の美味出汁しゃぶしゃぶ】
ほんのりと甘さがある那須高原産のブランド国産豚と公式HPにあります。確かにエグ味や雑味のないシルキーお味。お野菜もたっぷり盛られて、白菜、白葱、豆苗、エリンギ、椎茸、木綿豆腐。
メニューにはおいしく食べる方法がのっていました。一口目はお出汁を楽しみ、次にお出汁だけの豚しゃぶを食し、最後に卵をお出汁で溶いて「出汁割り玉子」で頂くというもの。お出汁はカツオべースに昆布の風味も隠れているような。このお出汁は一の湯さんのオリジナル商品として売店に売っていました。終盤は塩味が強くなるので、玉子と一緒に食べると丁度いい具合です。薬味は青味強く辛味は抑えた柚子胡椒で。
【海の幸 船盛】
海の幸付きプランだったので船盛が付いています。マグロ、烏賊、鯛、帆立、ほき貝、ボタンエビ、生しらす、カジキ?ビンチョウ?マグロ昆布〆、鯛の昆布〆。関東風の熟成タイプのお刺身で、身は少しやわく旨味が増します。
【香の物・御飯】
白米は国産米となっています。水のおいしいところの白米はいつも美味しい。香の物はおみ漬け、麦味噌沢庵。おみ漬けを調べると、菜を付けたお漬物で山形の郷土料理のようです。沢庵は干した大根を麦味噌でじっくり付けたもので、味が濃く白米に丁度良く。
【氷菓子:洋梨のシャーベット】
甘さがマイルドでさっぱりとした洋梨の氷菓です。これもグループ内でのオリジナルでしょうか。洋梨というよりは和梨のような透き通る口当たりです。
朝食
・鯵の干物
・名物一の湯豆腐
・三連小鉢(桜つぼ漬け、梅干し、焼き生姜、鶏そぼろ)
・温泉卵
・サラダ(鶏と大根のサラダ)
・焼きのり
・鶏団子の田舎汁(白葱、椎茸、えのき、揚げ)
・白米
・飲み物
スタンダードな定食タイプの朝食です。夕食と同様に定番メニューのようですが、グループ系旅館によく出るものではなく手作り感があります。アジの焼物は席に着いた時には、まだ温かさが残っていました。冬だったので嬉しい気遣いです。鶏そぼろもあっさりとした味付けで肉の玉が不揃いでお手製っぽいです。さすが名物というだけあって冷奴がおいしい。生湯葉と玉子プリンを足して2で割ったような濃厚さがあります。お出汁ではなく、黒蜜とも合いそうで水菓子としても十分いけます。椎茸の香りが豊かな鶏団子の味噌汁も、固形燃料の火が長く着いていたので最後まで熱々でいただけました。飲み物はセルフで、ほうじ茶、湧き水、コーヒーをお好きなだけ。
まとめ
一の湯本館さんは過剰サービスを削ぎ、お料理の質を安定化させることで、箱根の地で低価格でお部屋を販売されておられるかなと思いました。古い建物といっても掃除は行き届いて、古くなった箇所は補修とリフォームが成されて快適に過ごせました。お料理はグループで統一するという無駄をなくしているにも関わらず、手作り要素と出来たて要素にこだわりが感じられます。予約時に船盛プランしかなかったのですが、スタンダードプランでも十分な食事内容でした。温泉のツルスベ感は気持ち良く、客室に露天風呂がなくても家族風呂で十分良い湯が堪能できました。
宿泊料金
さて、宿泊料金です。公式HPからの予約が最も安くなっているようです。今回は神奈川県の復興割クーポンの配布があったので、10000円引きで宿泊しました。平日だとスタンダードプランで2人20000円前後で泊まれるのはすごい。
宿泊日:2020/1(土曜日泊)
旅行サイト:楽天トラベル
プラン:箱根温泉を満喫♪創作和食◎海の幸付◎夕食プラン
部屋タイプ:【一般和室(中)(禁煙:バス・トイレ無)】
合計料金:30800円(2名)
クーポン:10000円(楽天スーパーセールクーポン)
支払い料金:20800円
加算ポイント:208P