諏訪大社の周辺は昔の宿場町の名残があり、建物が新しくなっても当時の面影を見ることができます。その中でも特に古めかしい旅館が残る、下諏訪温泉郷に鉄鉱泉本館さんはあります。
旅情
通りに面した正面玄関は、昔ながらの木造建築の造りになっており、当時の姿を残してあります。下諏訪温泉の公式HPには、もともと割烹料理屋から始まったお宿で、看板には宿泊、宴会、お食事とありました。現在も日帰り客や宴席料理などもやっておられるのでしょうか。
建物はところどころ補修がされてあり、雰囲気を崩さないように大事に使っておられるのがわかります。玄関の石臼には温泉が注がれていました。周辺を散歩したところ、外湯のある所には温泉蛇口があり湯量の豊富さが伺えます。
玄関を入ると天井が高く開けた空間のロビーがあります。階段の下は帳場のお部屋になっていました。帳場の窓口には飾り屋根が施されています。
事前に見ていた画像よりも開放感があり、もっとこじんまりとしているのかと思いました。実際に来てみないと、やはり分からないものです。
チェックインを済まして2階へ案内して頂きます。階段の欄干には一枚板に彫り込まれた松竹と極楽鳥が素晴らしい。
天井が高いので2階部分なのに高度感があります。また、お部屋の入り口の細工もとても凝っています。特に目を引いたのがお部屋の引き戸が円形なのです。横に引くには変わりはないのですが、引き戸とレールも円形となっていて、ちゃんと開くのが不思議。
この建物は諏訪大社を建てた宮大工さんが手がけたと、ご主人さんがおっしゃっておられました。3階部分は物置になっていたので、木造部分のお部屋はおそらく3部屋だけです。
建物は表通りに面した木造建築部分だけでなく、裏手にはコンクリート造の近代的な建物もあります。木造は音がよく通り、トイレがないお部屋もあるので、気になる方はこちらでの滞在がいいかもしれません。建物の設備に自動販売機はなく、お部屋の冷蔵庫には有料の飲み物が入っています。それ以外の物を求めるであれば、歩いて5分程度のところに二葉屋酒店という酒屋さんがありました。Googleでは営業時間は19時までのようです。
お部屋
案内して頂いたお部屋は「かつら」というお部屋です。室内には凝った装飾はありませんが、この「かつら」のお部屋の玄関はレア度が高い円形の引き戸となっています。
お部屋の間取りは本間6畳+広縁1.5畳+踏み込み1畳+トイレと洗面です。パッと見た感じ狭そうに見えますが、中にはいると意外に広く、広縁スペースが続き間のようになっているからでしょう。踏み込みにはトイレと洗面があります。
お部屋の窓は玄関部分の上にあたり、見下ろす通りに昔の情景はどのようなものだったのか想像が膨らみます。お部屋の備えですが、お茶セットはそば茶と煎茶の2つ用意してあり、そば茶の風味がとても薫。電気ポット、浴衣、丹前、フェイスタオル、バスタオル、歯ブラシ、茶菓子、wifi、冷蔵庫は今では珍しい商品を引き抜くと料金が発生するやつです。トイレはシャワートイレです。お部屋への冷水、ウェルカム茶はありませんでした。
お風呂
男女別の浴槽が1つずつあり、夜間に男女の入れ替えがあります。旅館の規模からすると大浴場は十分な大きさがあります。かけ流し量は多くはありませんが、いついっても新鮮なお湯で気持ちよく入浴できました。泉質はアルカリ性低張性高温泉となっています。無味で極少に硫黄の匂いがします。肌感はツルリとしていて湯上りはしっとりとしていました。源泉温は56℃あり、湯船に浮かせた温度計は42℃を指し「あつ湯」です。しかし、入った直後は熱さを感じるのですが、不思議と浸かっていると慣れてきます。浴室は窓からの空気がよく入れ替わり、熱がこもりにくく、あつ湯なのにのぼせにくい。脱衣所には綿棒、カット綿、髭剃り、シャワーキャップ、ウォーターサーバー、飲泉用の鉄鉱泉があります。飲泉するととてもすっぱく、レモン水のような味に鼻に残る匂いは金属の香り。これは毒沢鉱泉のもののようです。調べてみると、かつては毒沢鉱泉を使用していたという記述もあります。温泉分析表をみると、現在は下諏訪に沸く旦過源泉を源泉掛け流しで使用されています。
大浴槽
浴室内は明かり窓が天井にあって高い。それもあってか浴室内はむせ返るような熱さはなく、あつ湯に浸かっていても、ゆっくりとお湯を楽しむことができます。また、湯船も大きく5人ぐらいが足を伸ばしても余裕がありそうです。
掛け流し口からは2カ所あって、奥の石組みされた所と、析出物がびっしりとついた蛇口です。両方とも源泉が違うのか、石組はかなり熱く、蛇口はぬるい。
浴槽の淵からは溢れ出しがありません。良く見るとサイホン方式で掛け流されていました。湯船の底から湯を入れ替えるので常にいいお湯が満たされます。捨て湯口から、なかなかの量のお湯が出てきます。この辺りだけ硫黄の匂いが強く、湯にはほとんど香りが残っていないのになんでだろう。設備にシャワーが4基あります。
小浴槽
大浴槽に比べると小ぶりです。3人入ると窮屈な大きさの浴槽です。こちらも天井が高く灯り窓があります。当日、自分らを入れて4組程のお客さんがいましたが、誰とも合わず貸切状態でのびのび入浴でした。
こちらも石組みされた源泉の投入口には、白い温泉成分がびっしりと付いており、剥がして舐めると微塩味。気になると、すぐに口にしまいこんで味見してしまいます。
源泉の投入量は大浴槽とさして変わらないように見えました。脱衣所側からは縁からのオーバーフローがありましたが、掛け流し口の石組みの下から溢れ出しの方が多く見られました。おそらくこちらもサイホン方式ではないかと思います。設備のシャワーは3基です。
お料理
朝夕ともに、お食事処で頂きます。女将さんと思わしき方の物腰はとても柔らかく、丁寧な接客をして下さいます。ご飯やお茶などはサーブして下さいますが、お食事処内に冷水、お茶、炊飯器が置いてあるので、お好きな時にセルフで頂く事ができます。割烹料理屋が起源ということもあり、お食事の内容はどれも手作り感が満載で、献立の内容は郷土料理をふんだんに入れ込んでありました。献立は頂いた献立表をもとに書いてあります。味や献立に載っていないものに関しては、実際に口にした感想と女将さんの説明を交えて記載しています。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
【食前酒】:自家製ラズベリー酒
【前菜】:湯葉豆腐、ほおずき、甘長ししとう味噌マヨネーズ
ラズベリー酒は酸味と甘みが抑えられた自家製だと分かる味。お取り寄せ品にあるような香りと甘さの強さはなく、まろやかな口当たり。 湯葉豆腐は甘みのある塩が弱い醤油に浸してあり、もっちりしているが、箸をいれるとほろりと崩れ大豆の味が濃厚。 食べれる「ほおずき」は初めてです。ほんのりとした酸っぱさに、しつこくない甘さがあります。 素揚げした甘唐にはしっとりとした味噌が香るマヨ。
【小鉢】:蕎麦米、長芋とろろ、山葵、クコの実
【お造り】:諏訪湖産 鯉の洗い
お出汁で炊いた「そばの実」の上に山芋のとろろを被せて山葵を添えてあります。信州らしい創作郷土料理です。とろろと「そばの実」をお混ぜて食べて下さいと説明がありました。お出汁には山芋に負けない程度に味付けがしてあります。お出汁はカツオだったかな。 洗いは少し太めの骨もあるので注意。ぐっと絞められた洗いに泥臭さはなくとても淡泊な味。仕入先の川魚店では井戸水で1週間程泥抜きをしているのだとか。これを酢の効いた味噌だれで頂きます。下ごしらえに温泉であっためたり冷やしたりしているそうです。暖めて湯引きして、冷水で締めて歯ごたえを残してあるのかな。つまは大根けん、大葉。
【蓋物】:諏訪湖産 鯉の旨煮 牛蒡
洗いと同様にとても淡泊な味で、鯉独特の臭みがありません。説明書きには「甘辛く濃い目の味付け」と書いてありました。東北で食べる極濃い味の野性味あふれる鯉に比べれば、薄味上品でさすが割烹といったところです。(注:野生味、濃い味が悪いわけではありません)脂がこってり乗ったものを見ることがありますが、脂のくどさがなくあっさりとしています。肉質はしっかりとした鰤や鯖といった感じ。風味を整える薬味の牛蒡が添えられています。暖かく提供してくれているので、食べやすさが増して良い。これは秋田県の「強首温泉樅縫苑さんの鯉甘露煮」に競り合う美味さでした。
【揚げ物】:米茄子 鶏そぼろ味噌
そぼろ味噌は赤味噌ですが、酸味はなく甘さも控えめです。あまり鶏っぽさは感じないのですが、鶏の脂の甘さといえばそうなのかもしれません。塩味は適度で赤味噌のような酸味はなく、口の中がまったりとする感じがありません。中性的で味の先走りがなく適量なのが、肉厚な米茄子によく合います。彩りの「あられ」を散らして焦がした香ばしさと彩が出ます。ケシの実ではなく、まろやかなお味噌には「あられ」が合うような気もします。
【吸物】:南瓜すり流し、帆立、フレッシュミルク
南瓜は滑らかに裏ごしされてあり味噌仕立てとなっています。南瓜の後ろに味噌の味が隠れています。説明がなければわからなかったかも。これに生クリームかとおもったのですが、ミルクとあるので牛乳でしょうか。なかなかの量が回し掛けしてあるので、すり流しと馴染ませるクリーミーな味で洋風テイストになります。1つの椀で味噌仕立てと牛乳仕立ての2つの味が楽しめます。これにふんわりと熱を入れた帆立が浸してあります。このふんわり加減と帆立味が、アクセントになって、すり流しが飽きないようにしてありました。
【お凌ぎ】:信州蕎麦
コシが効いた蕎麦です。麺つゆはカツオを強く利かしてあります。さすがに自家製手打ちではないと思いますが、ツルりとした舌触りに蕎麦の見た感じは太さが不揃いでおいしい。最近は不揃いのお取り寄せ品もあるので地の物だとうれしいなぁ。薬味はきざみ葱・焼海苔、山葵です。
【お食事】:諏訪盆地産 ひとめぼれ、香の物
【甘味】:信州産ぶどう
お味噌汁と表記があったのですが、お味噌汁は出てきませんでした。お願いすると出るのかも。ですので、献立から外しています。甘味のあるツヤツヤのお米と、きゃらぶき、キャベツと野沢菜のお漬物です。 ぶどうの品種はナイアガラです。やや酸味があり、甘さはほどよく、ついつい手が伸びます。見ていただくとわかるように粒身がとてもたくさんついています。1/3カットぐらいの実がついていました。
朝食
・山菜三種盛り:山くらげ炒め煮、わらびのシーチキン和え、ふきのとう味噌
・温泉卵
・きのこおろし乗せ
・諏訪子産 公魚(わかさぎ)甘露煮
・枝豆よせ豆腐
・自家製カスピ海ヨーグルト 自家製ジャムと共に
・海苔
・お食事:諏訪盆地産 ひとめぼれ、信州味噌の味噌汁
・香の物:キャベツと野沢菜浅漬け、南京一夜漬け、3年物のたくわん
少しずつ郷土のものを頂戴する優しい朝食でした。優しい味付けの物ばかりで、お昼頃にはしっかりとお腹が減ってくるといういい加減です。夕食と同様に手作りの味です。山菜のわらびのマヨネーズも手作り?、ふきのとう味噌には胡桃、ゆるりと香るキノコおろしのお出汁、ヨーグルトの自家製ジャムも甘さ控えめ、3年物のたくわんと、ちょっとしたひと味が入っているのが粋を感じます。枝豆豆腐は自家製なのでしょうか。目の細かい雪塩を振って食べましたが、マイルドな枝豆の風味にとても合う。醤油だと枝豆が負けそうかな。健康的で手作りの朝食は、日頃疲れた胃袋に心地よかったです。
まとめ
木造部分の建物は補修がしてありますが、文化財級の建築物ではないでしょうか。円形の引き戸なんて見たことありません。当時の雰囲気を味わいたい方は迷わず木造建築です。トイレがあるのは、今回案内して頂いた「かつら」のお部屋だけかと思います。しかし、他の2部屋も覗くと、ぞれぞれに旅情のあるお部屋で、泊まってみたいと思わされることに間違いありません。鉄鉱泉本館さんのお料理は、どれも郷土感を出しているのに、良い意味で癖のないようで一工夫があり、説明を受けて「なるほど」と思わされるお料理でした。お風呂も優しい下諏訪のしっぽり湯がとても癒される。かつての宿場町の雰囲気、郷土料理、昔ながらの静かな温泉地を味わいたいという方に合いそうです。お値段も手ごろで1時間圏内にこんなお宿があれば通いたいのになぁ・・・と思いました。
宿泊料金
さて、宿泊料金です。もともとのお値段も控えめで泊まり易く、お値段以上のクオリティがあると思いました。これまで楽天スーパーセールに出店されているのを拝見したような気がしますが、大きな値引きは見たことがありません。また、どこの旅行サイトでも同じ値段でした。となると、yahooのプレミアム会員を利用しての、5の付く日や旅旅サンデーで10%ポイント還元が、お安く泊まれるのではないかと思います。
宿泊日:2019/10(土曜日泊)
旅行サイト:一休(yahooトラベル)
プラン:大地のエネルギーみなぎる「諏訪大社」のお膝元de旬の食材を味わう!信州しもすわの郷土料理会席プラン
部屋タイプリーズナブルに諏訪を満喫できる和室(6畳) (和室)
合計料金:26,400円(2名)
ポイント:2,640P(ポイント即時利用)
支払い料金:23760円
獲得ポイント:237P