いい温泉宿、おいしい料理宿

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再び訪れたいお宿探訪と趣味のブログ

渓谷に佇む隠れ宿 峡泉【長野県 天竜峡温泉】~天竜川の渓谷に建つ僅か8室というプライベート重視の隠れ宿、源泉は自己調整!?ウェルカム茶と茶請けから朝食まで口に入る物は全てお手製の食と湯のお忍び宿~

 天竜川の水流によって造りだされた渓谷の上に建つ峡泉さん。館内図からお部屋の数は計8部屋とプライベートステイを重視したお宿であることが伺えます。

 景勝地としての美麗な自然も見る事ができますが、観光地としては規模は大きくはなく、温泉地としては片手で足りる程のお宿しかない秘境。

 主軸の観光である天竜峡の川下りの乗り場から数分の近さにあります。

※記事の内容は宿泊した当時の内容となっていますのでご参考程度に。最新の情報は各々ご確認下さい。特に峡泉さんは2022年までリフォームを行っておられたようで、客室などは様相が異なると思われます。

旅情

 訪れたのは新緑の季節だったので青一色。渓谷というだけあり桜花や紅葉の季節には美しい色取りの景色を拝む事ができるそうです。

 観光の目玉である天竜川の川下りの乗り場から徒歩数分、中心地から一本外れた小さな道に峡泉さんの入り口があります。駐車場は道路を挟んだ反対側にあります。電車でも天竜峡駅から数分なのでとてもアクセスがいいです。

 玄関に車寄せもあるのですが、荷物が軽量だったので駐車場に停めてからお邪魔しました。早いツツジも咲き始めています。

 物静かな門構えで、少し早く到着してしまったが快く出迎えて頂きました。

 格子天井が印象的なこじんまりとした大型旅館にはない玄関はチェックイン時間と共にお客さんで一杯になりました。当時の流行り病により、峡泉さんのようなプライベート空間があるお宿で、早々チェックインでゆったりと過ごす旅人が増えているのではないかと。

 上り框を上がると玄関戸の広さからは、想像できない大きなフロントスペースがあります。

 上がり框左手にはフロントがあり、記帳を終えてから館内の説明を受けてお部屋に案内して頂きました。

 フロント横にはお茶や陶磁器などのを販売している売店は高級旅館ならではの品揃え。

 フロント・ロビースペースは客室数からするとかなり広くとられています。ゴロゴロと寝転がりたくなるソファーが置いてあります。

 赤矢印の小部屋にはfreeラウンジがあります。

 手前は書庫となっています。右側のお部屋がラウンジスペースです。

 ラウンジではfreeドリンクとおつまみの用意があります。カウンターとなっているので、流行り病がなければBARになったりするのか。お隣の書庫とは連結しています。

 コーヒーはUCCのドリップポッド。

 茶葉は信州柚子緑茶と信州和紅茶。名前から察するに国産茶です。紅茶好きの相方が言うには、好みではないが美味と申しておりました。

 冷茶はルイボスオレンジティです。ここでよく耳にするがルイボスってなんぞ?と頭がハテナマーク。調べると、南アフリカだけで育つマメ科の低木だそう。知らんかった・・・

 おつまみには干し柿と味噌ピーナッツとなかなかに渋いラインナップ。

 湯上がりにルイボスティの冷茶とおつまみをちょうだいしました。

 ラウンジ反対側は大きなガラス張りの内庭をみます。ライトアップもあるので夜はロビーでコーヒーやお茶を呑みながらの寛ぎスペースになるようですが、流行り病によりお客さんはお部屋でまったりとお過ごしのようでした。

 中庭の池には鯉も泳いでいる。

 ロビーから奥に向かうと客室と浴場があります。

 案内図では1階と2階に客室があり、途中に3つの階段があり各部屋へアクセスしやすいようになっています。

 1階廊下を進むと左手に中庭と奥には貸切風呂があります。

 中庭には巣箱がありムササビが訪れるというが空っぽだったようです。

 浴場前には2階客室へ上がる階段があります。

 

 階段の前には、訪れた時には2つの貸切風呂になっていた大浴場があります。

 2階スペースは全て客室となっており、奥まで進むと階段があり1階と2階が周回できる造りとなっています。

 浴場の隣にはお食事処である「仙人」があります。

 客室数は少ないので、他のお客さんに気兼ねなく食事できるよう空間を持たせてあります。

 街中の飲食店よりも確実に大きなパーソナルスペースが確保されています。

 お食事処の欄間の装飾は新しくも見えるが彫り込みが職人仕込みです。建物は正にリフォーム中なのかと。欄間の装飾は昔の物をリユースしたように見えます。

 お食事処前には廊下を挟んで岩盤が宿の一部に組み込まれています。

 1階最奥にある「梟(ふくろう)」というお部屋の前はモダンな雰囲気。

 建物一番奥にある赤矢印の階段を上がります。

 階段を上がった先には「萩」という部屋がありますが、今は使われてなさそうでした。これからリメイクして売りに出されるのでしょう。

 2階客室は旅館の趣きでそれぞれに玄関構えがあります。

 各部屋の玄関はあつらえがそれぞれ異なり、数度訪れても部屋の趣向が楽しむことができます。

 公式HPを見ていると2階にあったお花の名前のお部屋は見当たらず、部屋に関して現在は様相が異なるかもしれません。

 

お部屋

※公式HPでは2022年にフルリフォームで全てのお部屋がベッドルームとなっており、記事をしたためた時点で、この趣きで宿泊することはできないorこの部屋を売りに出していない可能性があります。

 案内して頂いたのは2階にある「渓蓀」というお部屋です。「あやめ」という読み方があるようです。

 入口は一軒家のような玄関が付いています。

 飛び石を進むと踏み込みというよりは、飛び石が付いた玄関の上がり框です。

 手前に控えの間、次に本間、廊下奥にバストイレがあります。

 間取りは本間10畳+控えの間5畳+広縁+バストイレとなっています。

 本間と玄関に続く控えの間は、芸妓さんが待機していそうに広くとられています。

 出窓のようにしてありながらも、すぐ隣には縁も作ってある珍しい間取り。

 広縁というには隠れ縁のような雰囲気です。吊り戸のクローゼットもありましたが、さすがに川沿いの奥まったスペースなので、本間に着替えは干しました。

 建物を立てた時には川が見えていたのでしょうか。訪れた初夏では木々が目隠しとなって対岸からは見えないように樹々が覆い繁っていました。

 お部屋はモダンな感じではありますが、随所に細かな細工があります。欄間は縦格子。

 掛け軸はお部屋の名前由来の「アヤメ」が掛けられています。 枇杷だなの様な天井には網代のあしらいと、床と本間の天井にはプリントではなく、一枚木の天井板が使われています。

 枇杷棚?と言っていいのか、床柱には竹、壁には狆潜り(ちんくぐり)、地床には白石の枯山水とかなり和が詰まった床の間です。

 アメニティ類も抜かりはなく固定式のドライヤーでは弱風しかでないので、量販店でみるドライヤーも用意がありました。

 温泉ではないという案内でしたが、蛇口を捻ってみるとツルヌルのお湯が出てくるではありませんか・・・。明らかに水道水ではない感触でした。蛇口にも温泉成分らしき析出物はなく真相はどうでしょう・・・。リフォーム後は公式HPでは温泉になっているようです。

 溜めて入ってみた相方の意見から、「これ温泉の肌触りやと思うんだが・・・水道水でこれなら、都会の水道水はドブ水やで」という始末。

 着物には浴衣と作務衣がありました。ただし、パブリックスペースは作務衣のみ、浴衣は部屋着での使用でした。外国人の利用を配慮してのことでしょうか。

 化粧水から乳液まで、こだわりの高級旅館のアメニティセット。

 ウェルカム茶は流行り病下ということもあり接触を少なくするためか、セルフで高級茶葉を。

 茶碗にはすでに茶葉が入っています。

 湯を浸して茶を煮出します。添え付けの、御猪口でちびりちびりと味わいます。

 冷蔵庫に用意されたお茶請けは自家製の「南京のカステラ」。

 カステラというよりはしっとりとした南京蒸しパンのようでした。

 カステラと共にあったジュレですが、説明書きにはジュレを溶いて茶葉と共にお召し上がり下さいとのこと。

 カツオ・アゴを焦がしたような醤油が効いたジュレは、茶葉が持つ水気に混ざると青味とほろ苦さが程よい「つまみ」となります。

 出窓の棚には、水は500ml2本、ドリップコーヒーメーカー、お茶もほうじ茶や緑茶など充実のラインナップです。

 お部屋の説明書きの1つにこのような物がありました。

 巣箱には現れなかったムササビさん。アヤメの間の目前にある木に嬉しくも現れたムササビさん。番いだったのでしょう。就寝するまで睦まじく過ごしていました。ムササビさんを見ながら楽しむお酒、他では味わえない時間が過ごせます。

 

お風呂

 峡泉さんの浴場は2ヵ所あり本来であれば男女別の大浴場になるのですが、訪れた時は流行り病により貸切風呂となっていました。2023年では明記はなく貸切かは不明です。お部屋とは違いお風呂の様相に変わりはないかと思います。泉質はアルカリ性単純弱放射能温泉となっておりツルツルとした浴感があります。恵那、飯田周辺の温泉ではラジウムやラドンを含む温泉が多い印象です。無味無臭で溢れ出しはなく完全循環のようでやや消毒臭が気になる・・・と思いきやこれは覆されることになります。詳細は後程。湯の温度は季節に依るかと思いますが「あつ湯」設定でした。

 2ヵ所の浴場はそれぞれ「月」と「椿」という名前が付いていましたが、公式HPではその表記はないので当時の名前を使用しています。

 脱衣所にはアメニティ類は全くなくドライヤーのみで、公式HPでは拘りの化粧水等が置いてあるとあります。感染症対策にタオルは脱衣籠にあらかじめセット済みと色々と試行錯誤と工夫がされていました。記事をUPしたころには通常運転になっているのかもしれません。

椿の湯

 不思議な造りの浴場は男女別にすると8部屋にしても手狭に感じます。

 ただ、改装後の全てのお部屋には温泉が引き入れてあるようなので共同浴場の利用は個人の嗜好によるのかもしれません。

 2人だとパーソナルスペースが確保されるが3人だと少し気になる大きさです。

 岩のモニュメントから注がれるのは循環湯のようです。溢れ出しもなく残念に思っていると・・・

 モニュメントの岩に埋め込まれた蛇口は右が水で左は湯。湯を捻ってみるとかなり熱い湯がでるのですが、「何かヌメリの強い湯は温泉じゃね?」という感触です。湯が出る蛇口だけ白い析出物が付いているのも気になります。

 訪れた初夏では湯舟から見える景色は新緑の青&蒼です。蛇口は我が家では源泉認定されて消毒臭など忘れて一気に満足感MAXの入浴に。

月の湯

月の湯は椿の湯に比べるとさらに小振りです。やはり溢れ出しはなく循環のようです。

 真ん中にある靴脱ぎ石を隔てるとやはり2人が丁度の大きさかと思います。

 月の湯の景色も初夏は新緑たっぷりのグリーンが注ぎこまれます。

 月の湯にも蛇口があり一方は外されて止栓されていましたが、片方の栓からは「椿の湯」よりも大量の湯を注ぐことができました。白い析出物はやはり温泉か!?

 湯口の当たりで手を沈めて肌を撫でると、ツルツル・・・ツルヌル・・・ヌルヌルと高アルカリの強い肌感が増し増しで、注げる湯用が明らかに椿サイドよりも多い!! ですが!? かなりの熱さがありすぐに浴槽内の温度は爆上がりになってしまうため、ゆるりと注ぎながら源泉を楽しませてもらいました。 念のためですが自分が源泉と想っていただけかもしれませんので個人的感想です。

 

お料理

 朝夕共にお部屋食でした。狭泉さんのお料理は天龍狭をイメージしたお料理がコンセプトとしてあるようです。天龍狭十勝という見所があり、奇岩に文字が刻まれてあるのですが、その文字の名称が献立に記載されており、その十勝を献立に見立ててあります。お料理の内容はとにかく手の込み様が素晴らしく、創作性・独創性に優れていて、目からウロコのウロコでとても勉強になるお料理が配されます。どちらかというとスタイルは異なるのですが、島根県の湯の川温泉の草庵さんを思い出すような料理でした。

 草庵さんの宿泊の様相も置いておきますので、よろしければどうぞ。

 献立は頂いたお品書きをもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。峡泉さんの配膳係さんからは、かなり細かく説明してもらえるので、料理の楽しみ方が一重に増え、記事を打ち込むのも大変らくちんでございます。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。

夕食

 最初の配膳は先付、前菜、向付からのスタートです。

【浴鶴巌(よくかくがん)烱】:無花果の酒蒸し

『鶴の群れが羽を美しく水浴させていたとされる岩』

 献立銘からすると、イチジクは日本酒で仕上げたのでしょうか。トロリとした甘さにザラリと舌を撫でるイチジクは緩やかに香ります。滑らかな豆腐のソースは大豆が濃くお酢と合せてあるのか・・・いわゆる米酢ではなく、ワインビネガーのような洋の味わいがある。キャビアを添え左右にまたがる豆腐ソースは鶴をイメージしているそうな。緑に散らしてあるのは振りスダチ。

 

【鳥帽石(うぼうせき)】:里山の恵~初夏~

『仙人が酒宴をし酔って烏帽子を忘れ去ったとされる岩』

 左から、合鴨オレンジ、スモークサーモンチーズの泡、鮫軟骨岩石揚げ、白瓜 沢蟹、新甘藷です。 オレンジは太陽、チーズの泡は入道雲、軟骨揚げは天龍狭の岩、白瓜は川、甘藷はアジサイをイメージした物とのご説明。 鮫軟骨はニンニクとコショウを持たせてあるのかとてもエスニックな仕上がりで、黒胡麻の衣でさらに香ばしくゴリゴリの歯応えは鳥にはない独特な美味さがあります。 白瓜は糠漬けにしてあり、沢ガニも緩く醤油が入っています。 新甘藷は新サツマイモをいいます。煮たのではなくほっくりと蒸しあげたと思わしき身振りには、さらに紫イモの餡を回し付けてあります。

 

 合鴨は赤身を残して緩く醤油味を加味して、柔くローストしてあり旨味が締まっています。ローストとの相性が良い柑橘はドライスライスオレンジのトッピングと共に。 クリームチーズのホイップを纏わせてあるのはサーモンです。サーモンの受け皿にはライス煎餅が敷いてあります。煎餅の焦げ香ばしさとクリームチーズのコントラストが面白い。創作性のある細かい前菜は細かい驚きのお品です。

 

【垂竿磯(すいかんき)】:信濃雪ます黄身洗い

『仙人は苔むした岩に腰をおろし好んで釣りをしたとされる岩』

 天龍狭の岸壁の岩と似ているので、目の前の河原でゲットした流紋岩の台座でしょうか。天龍狭の苔むした緑を表現しているそうです。立体的に、揚げた川海苔?、赤水菜、レッドピリカラ、スプラウト、ベビーリーフを高々と持って、食べれる花のエディブルフラワーで彩を。リーフの種類はさらにあったかもしれません。そして、プチプチとした後に爽やかな柑橘の香りは何だ?聞くとフィンガーライムという物らしいです。この食材は初見です。調べると瓜のような物の中に、飛び子のように粒々が入った食材で、最近では洋食での流行り物らしいです。

 洗いというには柔さと活かりのギラつきがあり脂がよくのっており、杉板?に乗せてあります。黄身はほどほどにマスをまろやかに包んでいますが、本体はやはりマスの旨味を出汁醤油でいただきます。

 この醤油・・・焦げ香ばしさがあり焦がし醤油だろうか・・・。切り身の端を浸すだけでマスを引き上げます。醤油と黄身が口の中で馴染むとマスの脂がより協調されるように感じます。醤油はウェルカム茶の茶請けのジュレと同じ醤油を使っているように思いました。

 

【芙蓉峒(ふようどう)】:とうもろこしのすり流し

『山々の白雪の清水が天竜に注いでて何千年もによって岩は磨かれ、出現した岩』

 配膳された瞬間からトウモロコシに脳みそが支配される匂いが漂います。茶の席でいただくような茶碗に浸された擦り流しは「お茶をいただくようにそのままどうぞ」という申し出。 完全に和ポタージュでトウモロコシ全体を余すことなく仕様しているそうです。

 芯と皮からお出汁をとって、実をすり潰して擦り流しにしてあります。 ①さらに擦り流しを荒越しして出た物を伸してからさらに揚げてチップスにして盛り込んであります。 ②トウモロコシを収穫した際にでる毛も利用してあります。毛は素揚げしてあるようで、毛も甘いやんけ!甘味がむっちゃ強い!トウモロコシの毛ってこんな甘いんか!!?? 調べてみると「めしべ」で絹糸(けんし)というようで、粒の1つ1つと繋がっているそうで栄養価も高いんだとか。自分で調理するときはガンガン捨てていましたが今後は考え方が変わりそうです。 紫色の花は紫蘇花。これが絶品のアクセントになって毛も相まってトウモロコシ風味を飽きさせません。

 

【仙狀盤(せんじょうばん)】:天竜鮎肝焼き

『仙人達が不老不死の金丹を練ったとされている岩』

 何とも見た目は完全にフランス料理の魚メインです。シーズンにはまだ早く少し小振りの鮎には、肝ワタをベースにしたソースを体表に塗ってから焼いてあります。鮎の風味は意外にもまろやかになるのにコクがあるのはソースによるものでしょうか。和テイストだと蓼酢ですが、ヨーグルトの酸味をお酢とした蓼ヨーグルトソースを合わせてあります。お酢の酸味をヨーグルトで代用しようなんて発想はなかなか出ませんねぇ・・・。青い色付けには風味は水菜に似た「おかひじき」とお口直しのミョウガ酢漬けと赤蓼の添え。オカヒジキは日常の料理で見る黒いヒジキではなく、似ているという所から付いた名前で砂浜とかに自生する野草の1つです。

 ここで終わらないのが峡泉さんのお料理。背を開けてジャガイモのペーストを挟み込んであります。ジャガイモのペーストは、ほうじ茶で合わせているんだそうです。肝の深みに、香ばしいほうじ茶風味が交錯して、どれが主張されているのかは分かりませんが取り敢えず美味しい。

 食べ散らかしたような画像で申し訳ないのですが、まだまだ拘りがありましてお許しを。普通に焼いても食せるはずなのですが、背開きにして身を外して、頭、骨、尾を骨煎餅に揚げ?燻製? 実はさりげなく鮎の形に戻すように自然に盛り付けてあったのです。ばらばらに調理しているのに温かく配膳するという御もてなしに、骨煎餅にも肝ワタを塗ってあるという何と面倒くさい手の込んだ一品でしょう。

 

【樵廡峒(しょうぶどう)】:蝶鮫森の香り揚げ

『仙人や樵人が雨露をしのいだとされる洞状の岩』

 少々困惑を憶える新しい演出は、グルメ漫画でもこんなのは無いぞww ゲームやアニメのセーブポイントや世界樹の葉がゲットできそうな様相です。

 南信州で育てたチョウザメをとろろ昆布で巻き上げ、絡みつくのは「杉茶餡」とのご説明。淡水のチョウザメはキャビアなどにも重宝されるようで南信伊那での養殖があるようです。

 タンパクな口当たりだが、思った以上に白身味に食べ応えがあります。浸してある餡は恐らくベース出汁は昆布&とろろ昆布。一口目は爽やかな杉がほんのり薫る洋餡かなと思ったのですが、口を進めるたびに明らかな和に変化していきます。緑茶が少しずつ主張し始める美しい色使い餡です。ワンポイントは甘さが際立つアスパラガスの素揚げ。

 後ろに配してあるのは竹炭のパン粉を衣にしたキクラゲのコロッケです。もともと見た目にパワー感がある黒パン粉ですが、油を含んでもさっぱりとしているのは竹炭効果ですかね? 主のイモはほっこりという物ではなく、サトイモ、エビイモのようなトロみ粘りがあり、繋ぎがあるのかは分かりませんが粘度としてはヤマト芋ほどコク濃密です。サックリ衣とネバっとした芋地コロッケがとてつもなく杉の餡に合い過ぎまくる美味。

 

【烱烱潭(けいけいたん)】:夏野菜冷やし鉢

『水面に光り輝く星影は美しい玉のおうに見えたとされる岩』

 雨の天龍狭をイメージした冷鉢です。一葉に覆われた金箔の器にジュレを浮かべた一品。

 ハーブのナスタチウム(きんれんか)の葉とミントのビーズを横によけると、黄金の鉢に盛られているのはコリッコリッの若オクラは青味が主張せず調理はない生食のような拵えで、トマトは湯剥きをしてあり口に入れるとプシャー!と甘いトマト汁が溢れてきます。柿色はふかし南瓜で歯応えはよく残してありこれも甘味が強く深い。

 底に敷いてあるのは焼きナスのペーストです。見た目はペーストなのに口に入れると焼きナスしか香ってこない。ジュレはやはり濃い味のカツオ。夏のジュレ物でカツオはやはり外せない。このジュレもお茶請けのものと似ている。ジュレと茄子ペーストを混ぜて食べると、夏野菜の晩餐会です。

 

【龍角峯(りゅうかくほう)】:南信州の牛フィレの低温調理

 メインなのに珍品のような口内調理の一品がきました。まずは牛肉をそのままに、次にグラスに注がれたブイヤベースと共に口の中で調理して下さいとのご説明。そのブイヤの黄金野菜出汁は牛フォンドボー、タマネギ、セロリを合せたものかと。もしかしたら昆布も入れていたりするかもしれません。付け添えは焼きヤングコーンと蒸しズッキーニ、赤い葉はアマランサス。

 

 低温調理なので旨味を逃がさず凝縮し、フィレ肉は口の中に入れると上質な赤身の旨味だけを振り撒いて溶けるように無くなっています。あらかじめ加減よく塩コショウが振ってあり、そのままでも上質な肉質を楽しめるようにしてあります。

 そして2切れ目は肉を口に入れて、後からスープを流し込み噛む&噛むと牛の旨汁が滲み出てきて、喉をすり抜けると同時に鼻に抜ける香りが上品な牛骨スープになります。私的には塩コショウ味の低温調理そのままで食べ、黄金スープを別々に食するほうが美味しかったです。飽くまでも料理長さんのお勧めで、食べ方は好み次第です。

 

【帰鷹崖(きようがい)】:黄金シャモと枝豆のご飯 止椀

 調理したときに黄金色に輝く鶏を、黄金シャモと銘々されたらしいです。金色のようなシャモがいるのかと思ってましたw 鳥の風味と脂は染みわたっており、たくましい肉質です。エダマメは季節には早く初物とかでしょうか。うっすらと醤油を持たせ、鳥の脂がエダマメの青味により中和されています。隠し味の刻みショウガでさらにマイルドに仕上げてあります。脂濃さもありながらも爽やかな上品の炊き込み御飯。信州味噌仕立ての汁は大豆味噌か。塩味がとても緩く優しい味噌汁にはミョウガと三つ葉を浮かべてあります。

 

【姑射橋(こやきょう)】:甘酒ムース パイナップル

 想像していた斜め上にいった、が、どこに行ったらいいのか分からない物がきました。ヒマワリを連想させる黄色の花の様な物は、夏の訪れを感じるドライパイナップルです。もちろん口にできるドライフルーツで、パイナップルの甘味と酸味が凝縮され、薄切りにすることで新しい触感を味わえます。手前の黄色のソースは甘酸っぱさがそのままのパッションフルーツ。黄色の彩りにはスミレを飾り、黒のお皿に黄色の花で一輪を添えます。ちなみにスミレもエディブルフラワーなので食べる事ができます。

 ドライパイナップルの下には甘酒のムースがあります。よくある甘酒ではなく、風味と甘味もかなり熟されたもので、ムース地はメレンゲのようなフワフワ感があります。スポンジには硬いタルト地には「ヒマワリの種」と「醤油の実」を使ってあるよのだそう。醤油の実は味噌を作るように調理したもので長野県の郷土料理の1つなんだそうです。せっかくなのでパッションフルーツのソースと一緒にいただくと、酸味、甘味、塩味は、絶妙なバランスは和テイストでデザートです。

朝食

 夕食の手の込み様からして朝食も楽しみです。朝も部屋でいただきました。

 最初に杉の木箱に簀巻きを掛けたお膳が配されます。順次温かいものを持ってきてくれました。全体としては上品京風な味付け。

 簾の上には献立が乗っていました。夕食とは違い献立自体はとてもシンプル。

・人参とヨーグルトのスムージー

 最初はニンジンのスムージーからどうぞと勧められました。酸味が全く感じられないヨーグルトは「ほんまにヨーグルトかいな!?」と言いたくなるほど、ニンジンの自然な甘味が絡む牛乳のようにサラリと飲み干せます。

・天魚の一夜干し

・平飼い卵のだし巻き

・香の物

 献立には天の魚とあります。赤い斑点が特徴的なアマゴです。川魚の独特の臭味は一切なく一夜干しなのに、画像の見た目とは裏腹にとんでもなくふっくらとして、うま味を閉じ込めたお品です。 だし巻き玉子はとんでもなくフワフワで、出汁が滲み出す?滲み出さないのか?という程に出汁を絶妙に閉じ込めてあります。平飼いの味を楽しむ自然の甘さが香ります。香の物には野沢菜漬け。

 

①高野豆腐生姜あんかけ

②季節野菜の薬膳和え

③牛すじと新じゃがの煮物ねぎだれ

④きんぴら

⑤刺身こんにゃく辛子酢味噌

⑥信州サーモン南蛮漬け

 ①瑞々しいが高野豆腐らしからぬ触感にモミジ麩を添え、焼きを入れてショウガ餡と新エダマメで清々しく。 ②季節野菜はホウレン草のお浸しです。薬膳要素として、黒ゴマ、ナッツ、松の実を合せた佃煮を掛けてあります。添え付けにはオレンジピールとクコの実。 ③牛スジ肉は信州牛でしょう。エグ味雑味がなく、普段のスジ肉を連想していると頼りないぐらい和牛上品。新ジャガは歯応えを残しつつ蒸かしてあるようです。それぞれの食材は皿で合わさり、強醤油のネギダレに浸した小さな器での炊き合わせ。 ④きんぴらはそぎ切りにしてニンジンと合せた丁寧な薄味。 ⑤からし酢味噌は、かなりまったりとした西京味噌で、辛みが強く好みは分かれそうです。 ⑥中性的に口にしやすい信州サーモンの南蛮漬けは酢はやんわりとしており、濃すぎない白米に合う塩加減に仕立ててあります。パプリカとベビーリーフの添え付け。

・白米

・山のお味噌汁

 蓋つきの白米はつやつやと立って甘味が際立ちます。お味噌汁は夕食と同じく塩を控えた信州味噌です。具材はキャベツ、新タマネギ、しめじ、白ネギと野菜たっぷりです。

 学生さんとかだと頼りない量ですが、自分には全体としての量は丁度よく。派手さはありませんが、ゆったりと味わいたくなる一品一品の手の入れようです。

 

まとめ

 峡泉さんに何を求めていくのかといえば料理の一言に行きつきます。正直なところ、A5ランクの○○牛の炭火焼!! 特大アワビの躍り焼き!! 等々を期待すると的外れなんてことはあるかもしれません。いつもの会席料理に疲れたよね、スタンダードな会席ではどこも同じじゃない?という方には、至福の時間が待っているかもしれません。 

 自分にはこれまでになかった、季節のストライクゾーンを攻めつつ、逸脱しない発想を搔き立てる創作性は、新しく開眼したところもありながら学ぶところも多い食事となりました。正直なところ手の入れようが、面倒くさい料理を丁寧に仕上げておられるなという印象です。もちろん良い意味での解釈です。

 宿としては他のお客さんとの接触はロビーのfree drinkコーナーぐらいで、お風呂に関してもブッキングすることはありませんでした。2022年のリフォームでは全ての客室に温泉が引かれているようなので、さらに接触はないかもしれません。泉質としては共同浴場の蛇口が源泉であり申し分なく温泉としても満足できるものでした。

宿泊料金

 料理、空間的サービス、温泉の追及としては60000円以下ならお得過ぎる。70000円前後なら妥当という値段帯です。各部屋に温泉が引かれているのであれば、リフォーム後だと80000円からというお値段かと。

 自分が料理を作ったと仮定して創作会席にいくらの値を付けるかというと凄く悩みます。峡泉さんの料理は、希少食材だから高い・希少創作だから高いの狭間にあると言っていいのかなと思っています。その辺りは付加価値として個人がどのように感じるかというところもあります。

 旅行控えが続いていた頃に余っていた15000円のじゃらんクーポンで、かなりお得に宿泊させていただきました。

宿泊日:2021/初夏

旅行サイト:じゃらん

プラン:【じゃらん春SALE】天龍峡の渓谷の息づかいに包まれる【隠れ宿】。私をリセットする。

部屋タイプ:【和室/あやめ】

合計料金:68400円(2人)

春セールがさらにお得になるクーポン:15000円

支払い料金:53400円

加算ポイント:2052p

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