現代建築が多くなった農村にひっそりと縦峰苑さんはあります。建物を代々管理されている小山田家さんは、藩主の佐竹義宣さんに仕えておられました。1602年に佐竹さんが強首の地に移封されたことで、この地に居を構えることになったようです。
旅情
強首の地に移った当時の建物は1914年の強首地震で倒壊しました。しかし、1917年には現在の姿に建造され、自社やお城に使用される建築様式に、建材などにもこだわった建物が現存しています。
もともとの建物が豪農屋敷なので、宿泊業から入った旅館などに比べると、間取りの変更がしてあったり、お部屋の数なども少なく小規模なお宿です。再建されたといっても建物は100年近い時間が経過しており、建物は有形文化財に登録され大正に建築された当時の姿を色濃く残しています。
階段の一部が大正ロマン漂う和洋建築になっています。何故かここの造り込みだけはとても気合いが入っていて、職人さんの遊び心を感じずにはいられません。当時では珍しかったであろう人力車やピアノも飾ってあります。
もう1つ目を見張るのは1階の大広間です。この広間の中心に位置する柱は抜きとることができるというのが驚きです。また、この広間の梁や床材は長い一本木から造られています。かつては襖区切りの4部屋だったようですが、現在は宿泊者のお食事処となっています。
ロビーには、お土産、お酒、アイスクリーム、おやつ等なんでも揃っている売店があります。お宿周辺には自動販売機や商店は全くありません。必要なものがあれば揃えてからのチェックインをお勧めします。
お部屋
案内して頂いたお部屋は「すいせん」というお部屋です。
間取りは本間10畳+広縁3畳程+踏み込み1畳です。このお部屋に床の間はありません。お隣のお部屋には立派な床の間があったで、もともとは1つのお部屋だったのでしょう。しかし、こちらは庭側向きなので景色を楽しむことができます。
チェックインした時からお布団は敷いてありました。滞在中は仲居さんがお部屋に入る事がなく、お風呂に入ってゴロゴロしたい方にはピッタリです。宿泊するに当たっての注意点として木造建築なのでとても音が通ります。そして、建築物の保護のため室内にはトイレと洗面所がありません。トイレまでは10~15mぐらい離れています。トイレは最新式で綺麗にしてあるシャワートイレでした。洗面所は浴場のものを使用します。アメニティは過不足なく足袋もあります。お茶セットはもちろん冷水も最初からセットされていました。賛否ありますがテレビがありませんでした。風情と音抜けによるものかな。
このクラスのお宿では珍しくお茶出しはなかったのですが、お茶菓子が丁寧においてありました。
お風呂
縦峰苑さんのお風呂は4カ所ある男女別の内湯大浴場と、宿泊者専用の貸し切り風呂が2カ所あります。内湯の浴室の入れ替えはなく浴室の配置は左右反転の配置です。貸し切り風呂は時間制貸しなのでチェックインの時に予約をいれます。泉質はどの浴槽も同じでヨウ素-ナトリウム-塩化物強塩温泉です。口に含むとわずかにオイルのにおい。後からやってくる強い塩味!かけ流し口の飛んだ滴が目にはいると痛いぐらい。そして、肌の感触はなかなかかのツルツル具合です。また、茶褐色に薄緑のお湯と大量の湯の華もこれまた温泉の濃厚さを感じられます。茶色なのは鉄分らしいのですが、ほとんど鉄分は入っておらず、緑になるのはヨウ素の成分なんだとか。源泉は旅館のすぐ裏手にあって、現在もガスも出ており弱く火が灯るぐらいのガスは噴霧しているんだそうです。もともとガスが噴出していた所があって石油を狙って掘ったものが温泉だった、というらしいのでオイルの匂いがするものそのせいかもと宿のご主人のお話。
内湯 ひのき風呂大浴場
6,7人は余裕を持って入れる大きさに贅沢にかけ流される源泉。男湯と女湯では同じ温泉でも温度差があると女将さんより聞く。
私的には男湯は入りやすい温度で、ぬる湯でもなく、あつ湯でもない休憩しながら長湯できる温度になっていたのはうれしい。かけ流し口には塩の結晶がついており塩分の濃さを物語っています。浴室にはシャワーとカラン4基、脱衣所には無駄なものはなく、洗面用カップ、ドライヤー、髭剃りのみです。お部屋に洗面所がないので、こちらで歯磨きとかしました。ちなみに相方は、かなりぬる湯を満喫できた といっていたので、女湯のほうが温度は低いかもしれません。
貸し切り風呂
貸切風呂は外湯になるので建物から20秒程度離れたところにあります。貸し切り風呂の入りたい放題プランもあるのですが、通常は1カ所のみ選択して入ることができます。四角い浴槽の「こもれびの湯」と丸型浴槽の「大樹の湯」があり、今回は丸型浴槽のほうが珍しいという理由で「大樹の湯」を選択。
9月に訪れた時は落葉の季節にかかってきていたので落ち葉も入浴中でした。これは自然の風情ですね。かけ流し量は申し分なく体を沈めると溢れ出るお湯は至福の時です。茶色の湯の華が踊り雨に濡れた坪庭の緑が気持ちいい。
さらに、一番好印象だったのが髪の毛の沈殿がまったくなかったので、お湯を清潔に使っておられるのがすばらしい。こちらには洗い場がないので、洗髪洗体は大浴場ですることになります。
お料理
夕食
川ガニのモズクガニを食するプランでの宿泊です。どんなお料理が出てくるのか全く見当もつかなかったのですが、カニ料理はもちろん山の物づくしの献立となっていました。小さなカニの身をほぐし、潰したりしながらお料理に入れ込んでおられるようで大変さが伝わってきます。お宿のご主人の話では縦峰苑さんの伝統的なお料理を大事に守り続けているようです。なので、エビの天ぷらや海の刺身などは出さないようにしているとか。川ガニは一年を通して食べれますが、旬は9月から11月らしく訪れた時期が最旬だったのはラッキーでした。どのお料理も実際に口にすると、ものすごく丁寧に味付けされていて飽きさせない工夫をしておられます。記事の内容は献立に書かれているものを表記しています。味や献立に載っていないものに関しては、実際に口にした感想を交えて記載しています。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
【先付】:おくら山葵醤油漬け
【珍味】:鰊 糀漬
オクラにはほのかにワサビが通リ抜ける程度に香りつけしてあり、オクラが苦手な方でも食べれそうな青臭さを抑えた微小のしょうゆ味。飾り付けにケシの実が振ってあります。珍味の鰊は糀とありますが、生米のような歯ごたえがあり塩を強めにもたせたガッツリ塩糀です。なんとも珍しく、まさに珍味にふさわしい。
【造里】:生湯葉、つま色々、山葵、醤油
よくある歯ごたえプリプリの湯葉ではなく、お箸でもつとトロリと千切れてしまうような柔らかさでありながら噛み心地も残っている。お味は湯葉というよりも濃ゆい豆腐といった印象。これに甘口で塩が効いた醤油を本当に少しだけ浸すと風味を損ねず頂けます。ワサビの台座は瓢箪型に飾り切りされたニンジン、つまは大根けんと水菜です。
【鍋物】:大綱薇貝焼、白菜、長葱、豆腐、油揚げ、豚肉
このあたりの地域では毎年2月に「刈和野の大綱引き」という伝統行事があるそうです。ゼンマイをその綱に見立たてて出来た料理だそうです。お出汁は味が穏やかな信州味噌のような味わいです。薄味なのですが味はしっかりと素材に入り上品な豚汁のようで、お汁まで無理なくいただけます。豚肉も灰汁がでず甘味がありおいしい。ホタテの貝殻を模した鍋を貝焼と称しているのだと思います。
【焼物】:若鮎塩焼き、はじかみ
この鮎・・・。泳いでいるように焼かれています。ひれへの飾り塩はばっちりに化粧されお皿で泳ぎ始めました。焼いてなお自立する焼き魚は見たことがありません。火傷しそうなほどの熱々提供で、これまで食べた焼き魚の焼きたてNO.1だと思います。ワタもそのまま残っており苦手な方もいらっしゃるかもしれません。ただ、この熱々と身振りの見事さにワタもエッセンス。ただ、魚の体には塩気が薄いので飾り塩でさじ加減しながら食べました。頭からしっぽまで食べれますが、初秋のものだからか骨の太い部分は口に残る感じはありました。夏メニューとして若鮎ですが、訪れた9月だと若ではなく立派な成魚かも。
【蒸物】:玉子豆腐、川ガニあんかけ
濃厚な茶碗蒸しのように仕立ててあります。餡かけは、口にいれるとカニのお出汁がものすごく引き立っています。さらにほぐし身が追い芳香し玉子豆腐との絡みが良い。これから出てくるお料理もそうですが、海のカニと違い磯臭さがないのでカニ本来の味を堪能できます。
【揚物】:川がに唐揚
丸々一匹揚げています。背甲羅は飾りですが食べてしまう方もいるようです。相方は煎餅だとバリバリかじっていました。足の殻の部分もかぶりつきます。歯が悪い方はつらいかもしれません。でも甲羅は柔いです。お味は甲殻類のそれです。表現が安っぽくなってしまって申し訳ないですが、かっぱえびせんを20倍増しにしたような香ばしさ。おいしさというよりは珍味としての位置づけが強いように思います。
【煮物】:鯉甘露煮
これまで食べてきた鯉の甘露煮の中では、最も味付けがまろやかでショウガなどの薬味で消臭する必要がないと感じた一品でした。鯉の飼育がいいのか下ごしらえがいいのか、独特の泥臭さがまったくありません。これなら鯉が苦手な方でも食べれそうです。ただ、脂が多いのでもったりする感じはありボリュームはあります。これは他にはなく確実に美味しく仕上げておられます。ただし、「泥臭いのがいいんだよ」と言う人は向いてないかもしれません。
【進肴】:川がに かに味噌甲羅焼き
進肴とは強肴の別称だそうです。主菜とは別にお酒の当てに出される一品物。このお料理には川ガニ味噌5匹分を使用しているという贅沢なお品。酒で伸ばして煮詰めたりしているのかと思ったのですが、お味噌と合わせて甲羅焼きにしているそうです。海のカニ味噌は海の香りが充満していてそれもおいしいですが、この川がにの味噌は苦みは弱く磯風味のような癖がないのに濃厚でまるでウニのようです。お酒にも御飯にも最適です。
【酢の物】:青紫蘇、ふのり、なます
酢の物には唯一海のものである「ふのり」と「赤とさかのり」が使用されています。また、献立にはありませんが刻み白キクラゲも入っています。海藻とキノコでこりこりとした感触に青紫蘇の風味とやさしい酢の味がとても爽やかです。魚とカニが続くお料理なのでお口直しになります。
【御飯】:西仙北産あきたこまち(秋田県特別栽培農産物認定米)
【椀物】:川がにつみれ、舞茸、春菊、生姜
【香の物】:季節野菜
やはり縦峰苑さんも上手にお米を炊いておられるのでツヤッとプリッです。香の物は燻りがっこと高菜の油炒めでした。川ガニのつみれはそのままだと固まらないので、殻ごと潰して豆と合わせて固めているそうです。お出汁は赤味噌のようだけど渋みのない味噌にショウガでアクセントを加えてあります。お出汁は川ガニの香りが漂います。
【水菓子】:アロエ
アロエの蜜漬です。おかみさんから一言。「これはねぇ。地の物じゃないのよ」だそうです。お取り寄せ品でしょうか。甘過ぎずさっぱり。ナタデココの蜜漬のようなものでしょうか。
朝食
・虹鱒の甘露煮、筍ピリ辛和え
・冷奴、生姜醤油
・ギバサのたたき(海藻)
・つる菜のお浸し
・紫蘇の実とトンブリの佃煮
・いぶりがっこの昆布醤油漬け
・もろみ味噌
・温泉卵
・茄子田楽
・お揚げとゆうがお(かんぴょう)のお味噌汁
・白米
とても健康によさげな朝食です。他ではあまりでない素材を使用した珍しいラインナップだと思いました。虹鱒の甘露煮はよくあるこってりの雑味があるようなものではなくやさしい。冷奴は見た目がヨーグルトです。自然薯のような粘りのある豆腐で大豆以外で作ってあるのか、甘味もあり何となく杏仁豆腐の様です。たたきギバサ(アカモク)も日頃お目にかからない食材の1つです。お味噌汁のかんぴょうは秋田県産のものではないそうで、秋田では湿気が強く乾燥する前にカビがついてしまうのだとか。畑のキャビアのトンブリも普段あまりお目にかかりません。珍しいもののお味は個人に差がありそうですが、普段口にしないものを食べれるのも旅の醍醐味かなという朝食でした。
まとめ
お料理、温泉、建物と三拍子すべてが唯一無二でサービスも良い。お宿のご主人と少しお話をさせて頂いたのですが、樅縫宛愛と温泉愛がすごく感じられ、お宿を大事にされておられます。女将さんも忙しくされているなか、その節々に気遣いも忘れない気持ちの良い接客。ただ、古い建物が故に合わない方もいると思います。トイレと洗面所が室内にない事や、木造建築なのでお隣の声がよく聞こえます。昔ながらのスタイルが風情と感じれる方は一度訪れる価値はあると思います。
宿泊料金
さて宿泊料金です。「日本秘湯を守る会」のスタンプを頂くことも考えたのですが、樅峰苑さんは一休でも出店されておられます。一休はyahooトラベルのゾロ目のクーポンが使用できるので実質的なお値段をお安く泊まらせてもらう方を選択しました。秘湯スタンプは10個貯まると1泊無料で単純に10%offなので、お宿の値段にもよりますが、それ以上の割引率があれば秘湯スタンプよりもお得になります。
宿泊日:2019/9(平日泊)
旅行サイト:一休(yahooトラベル)
プラン:当館人気NO1!モクズガニ川蟹料理贅沢プラン
部屋タイプ:和室10畳(トイレなし) (和室)
宿泊料金:38880円(2名)
クーポン:3000円(yahoo!プレミアム会員特典)
ポイント:3222P(ポイント即時利用)
支払い料金:32658 円
獲得ポイント:607P