いい温泉宿、おいしい料理宿

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再び訪れたいお宿探訪と趣味のブログ

灰屋【福井県 芦原温泉】~和と洋が混在する折衷の夕食に舌鼓を打たせ、離れ家のトロリとした源泉掛け流しの湯を堪能、大型旅館の内にある伝統の客室で忍びやかに過ごす静寂の時間~

 福井県で温泉と言えば最初に名を聞くのが「あわら温泉」です。wikiでは思った以上に歴史は浅く、人の生命からすると長くも感じる開湯140年余りと若い温泉です。温泉好き、古い建物好きからすると、2018年に有形文化財である「べにや」さんが全焼室したのは記憶に新しい。戦争や大火により度々、景観を失ってきた温泉街にありながらも、かつての趣きを残しつつ現代の風に乗るお宿が灰屋さんです。

※記事の内容は宿泊した当時の内容となっていますのでご参考程度に。最新の情報は各々ご確認下さい。

旅情

 少し早く到着したのですが、すでにドアマンの方は待機しておられました。早めのチェックインへの対応も抜かりない接客です。

 あわら温泉街には開湯当初の建物は現存していないようですが、灰屋さんの玄関は創業当時の姿を再現した物と公式HPにあります。今は駐車場となっている玄関は、文化財でなくとも見るからに豪華な木造の車寄せです。

 玄関を入ると、すぐにロビーではなく丸窓と枯れ庭の玄関土間スペースのようなワンアクセントを挟んであるのは格式ゆえでしょうか。それとも雪国仕様でしょうか。

 ロビーに入ると最初に目に入る丸太の柱は木曾ヒノキなのだとか。奥には緑の中庭園が目に飛び込んできます。

 ロビーのど真ん中に立つヒノキは柱というよりは映え用のモニュメントのようなものかと思います。旅館ではありますが仕様はホテルのなので、玄関入って右側のフロントでチェックインの手続きです。

 館内の見取り図です。建物は、地図右手のピンクエリア、真ん中の緑エリア、左は紫のエリアと、客室は3棟に大きく分けられているようです。赤線の順路でぐるっと簡単に館内を散歩してみたいと思います。

 フロント横の廊下を進んで行きます。左に折れると離れの緑エリアの松風庵方面です。ここは曲がらず正面へ進みます。

 芦原温泉街にはお土産さん専門店のような店舗は少なく、灰屋さんでは館内売店がとても充実していました。地元のスタンダードを抑えたラインナップから、大型旅館にある謎の婦人服販売コーナーもあります。

 売店前にはアイスとパック果汁ドリンクの販売があり、カップ麺や通常のソフトドリンクの自動販売機もあります。高級旅館でも自動販売機を見ることが多くなり、まさかのカップ麺の自販機があるとは時代の流れかと思います。

 売店奥には喫茶スペースのラウンジがあります。お酒の提供をしているかは不明です。

 ラウンジ廊下には観音扉のエステサロンがあります。赤矢印は宴会場への階段ですが、流行り病の時節柄、大宴会ではなく個別スペースに区切ったお食事処として使っているようでした。

 エステサロンを挟んで反対側には彩月というお食事処があります。夕朝の食事はこちらでいただきました。

 ラウンジカウンターの奥には大浴場が見えます。その手前にも何かありますね。

 ラウンジ横の湯上がりスペースには、茶室のあつらえに囲碁が置いてあります。どうやら飾りではなく「ご利用の際にはフロントまでお声がけください」とあったので、ここで碁を打つことができるようです。

 特に統一性のあるわけでもなく、家庭の本棚のような書籍も置いてあります。

 茶室から奥は大浴場の入り口です。お風呂はまた後程に。

 大浴場前のエレベーターは塔のようにそびえたつ十楽の棟の客室への物です。エレベーターの隣には敷地の中心にある、離れ棟である松風庵への細い廊下があります。

 十楽の棟は「塔」と表現したように1フロアに3部屋というプライベート感がありながらも、灰屋さんでももっともリーズナブルな客室です。

 十楽の塔廊下からの眺めは芦原温泉街が一望できました。8階建てなのでお部屋からの眺めは最もいいのではないと思います。エレベーターを下りたら、目の前が大浴場というのも利点かなと思います。

 さて大浴場前に戻って松風庵への廊下を行きますが、廊下はとても狭く回廊にする以前は通行がなかったのでは?というぐらいに細い非常口の様です。

 松風庵に入ると足元は木造なのか柔い踏み心地の木造屋の情景に一変します。正面には貸切風呂が見えます。

 貸切風呂の傍廊下に飾られていた衝立は、由緒あるものなのどうかは分かりませんが、かなり年季の入った物です。

 廊下の脇には玉砂利が敷かれ、各お部屋の玄関戸は引き戸となった和旅館の佇まい。

 2階はないはずでしたが階段があります。ただ、階段の上がった先は木戸で閉じてありました。 松風庵のお部屋は同じあつらえがないというのも、何度訪れてもお部屋を変えて楽しむ事ができる風情。

 松風庵には職人の拘りの装飾が散りばめられているので、うろうろと散歩していても目を飽きさせません。

 大輪の八重咲きの桜の名前がついた「松月(しょうげつ)」というお部屋はお客さんの宿泊気配がなかったので覗かせて頂きました。

 お部屋入って猛禽類の衝立がお出迎え。

 前室、控え間とあり明らかに特別室の贅沢な広さです。家具なども当時の骨董品のような物があしらわれてあります。

 本間は20畳ではないかという広さです。本来であればファミリー層への客室としての販売もあるのかという感じです。これは、お1人様、お2人様では空間を持て余してしまいます。

 水屋を見ると湯飲みが、がっちりと入っていたので宿泊というよりは多数グループのお食事処にも使われているのかも。

 さて、松風庵から観月亭の棟に抜ける最後の廊下です。

 松風庵から近代建築な建物へ移動しました。綺麗にリフォームしてあっても、大型の旅館は階段の手すりだけは当時のままのレトロな感じの物が多い平成初期感。

 当時の流行り病下でも飲酒が可能にはなっていましたが、クラブ「サンマルコ」の営業は自粛しておられました。

 同じ並びにカラオケBOXもありましたが、こちらも自粛営業。

 記事をUPした時点では営業を再開されていそうです。

 館内見取り図を見ていると観月亭は4階建てとなっており、客室と宴会場の広間があります。流行り病下の間にリフォームしたのか新しく綺麗な内装でした。

 観月亭を通り過ぎると玄関棟へ戻る道筋です。

 玄関までの廊下途中には展示物があり、赤丸には大正天皇さんの記念写真がありました。訪れたとも何ともという記載がなかったのですが、展示しているということは過去に訪れておられたのか。

 価値のある物かは自分にはさっぱりです。展示があるということは灰屋さん縁の方の書なんだと思います。

 展示物の廊下を抜けるとロビーまで戻ってきました。途中に小規模中規模の宴会場もあり、家族などの小規模な団体客利用に使用しているようでした。

 余談を少し。従業員の方はすれ違いざまに、両手を下腹部で合わせてお辞儀をし「ごゆっくりどうぞ」と声掛けをされていました。これを、徹底しておられるのは凄いなぁと思いました。マスクが常用となっているのにも関わらず、顔と名前を一致しておられる仲居さんもおられ、昨今では珍しいおもてなしに脱帽です。

 

お部屋

 案内して頂いたのは松風庵の「淡雪」というお部屋です。

 間取りは本間8畳+踏み込み3畳+広縁4畳+書斎1.5畳+洗面+トイレ+内湯&露天風呂です。

ウェルカム茶はお部屋に通して頂いてから。

煎茶と銘菓を頂きました。

 松風庵のお部屋は同じ造りがなく、淡雪の前には枯山水のような一画が設けてあります。

 斜めの変則的な上がり框に匠の心意気を感じながら、飾り窓も梅?桜?を模して天井を見上げると一軒家のような拵えにしてあります。

 建築当初の装飾とリフォームにより付け加えられた物が混在しているようです。下駄箱はやけに新しいが、玄関戸や埋め込み砂利の土間などは昔のままのように見える。

 框を上がると3畳の次の間があり、正面には洗面・バス・トイレがあります。左手には水屋はありませんが冷蔵庫などの飲料セットがあります。

 冷蔵庫は昨今では珍しい引き抜くと料金が発生するバブル時代のシステム。ただ、お茶セットに加え、冷水の用意、高級宿にあるドリップコーヒー等の備えは流石の離れ棟です。

 次の間奥には最新のトイレと洗面へアクセスする板の間があります。

 掘りごたつの広縁に小窓がある本間は8畳。

 古めかしい文化財のようなお部屋ではないのですが、柱に施された小さな細工が目を引きます。

 掘りごたつの広縁からは狭いながらも専用庭を眺める事ができます。奥には書斎があります。掘りごたつの天板の厚みがすさまじい。

 書斎の天井は竹の細工が施された変わった装飾です。

 広縁の天井にエアコンの目隠しなど、風情を失わないような造りも忘れることなく。

 さて、次の間に戻って洗面所です。ドライヤーやら必要な物は一通り揃っています。

 洗面所には何故か男性用ケアセットが主として置いてあります。女性物の化粧品類は盗難が多いのでしょうか・・・女性は使い切りのこだわりスキンケアセット。

 季節的に露天風呂から侵入してくる虫さんへの蚊取り線香の用意されているのも面白く。

 洗面所から部屋付きの内湯と露天風呂へアクセスします。檜の内湯は白湯なのでお好み利用です。

 内湯から庭テラスのような所に源泉かけ流しの信楽焼の湯舟があります。温泉の詳細は次項「お風呂」で取り扱いたいと思います。

 浴衣と足袋などの高級旅館のセット、浴衣の変わりに動きやすい務衣もあります。鍵は2本です。前述した冷水はあらかじめ用意、コーヒーはドリップタイプの用意、バスタオルは2枚の用意と抜けはない備えです。

 

お風呂

 灰屋さんには「陽だまりの湯」「木もれ日の湯」という男女入れ替制の大浴場が2つあります。また、利用はしていないのですが、貸切風呂や岩盤浴もあるようです。大浴場の湯使いは源泉を投入しながらの、加水・加温・濾過・消毒ありの循環放流式となっています。湯使いは残念なように感じますが、源泉は湯舟に対して少ないものの贅沢な注ぎがあり、消毒臭は微量で気になるほどではありませんでした。泉質はナトリウム-塩化物・硫酸塩泉となっており、湯感は緩やかなツルスベとした感触で湯上がりはしっとりとします。

 大浴場脱衣所にはフェイスタオルの用意があり、鏡台個室スペースには化粧水類など高級宿らしいアメニティが充実しています。

 紫外線滅菌ブラシにウォーターサーバーの備えもあります。

陽だまりの湯

 天井が白黒の斑が特徴的な湯屋です。芸術的な意味合いがあるかどうかは分かりません。客室数に対応したシャワーブースは混み合うことがない程に設けられています。

 内湯は10人以上浸かっても余裕のキャパシティです。水面に鼻を近づけるとわずかに消毒臭はあるが気にならないレベルです。

 湯口の傍ではツルツル感がより一層強く、結構な熱さで源泉ではないかと思われます。白いカルシウム成分の析出物と、黒く焼けたような痕跡はラジウムなどの放射線泉で見られる光景です。温まりがかなり良かったので放射線成分もあるのかな?

 内湯の奥にはプライベートな寝湯があります。

 寝湯の枕元には池の噴水などに見られるような噴射口があり、恐らくこちらから源泉が注がれているようです。

 小さいながらも庭を眺める風情ある露天風呂は手前と奥に2つの湯舟があります。

 手前の湯舟は循環放流のようですが、屋外ということもあってか消毒臭はなく内湯より湯感は良く感じられます。

 変わった湯口の周りはやはり黒々とした色付きがあり源泉でしょうか。湯口の周辺はツルツルとして湯感は一層強く感じ、しかも熱い。

 手前の大きな岩風呂から、お隣の小さな湯船への移動は橋を渡る必要があります。どうやらポンプで大きい方から小さい方へお湯が送られているようです。

 橋を渡りきると手前の湯舟よりも小さな湯舟は「ぬる湯」となっています。どうしても新鮮な湯で入りたい場合は「あつ湯」での利用になります。どの湯舟も熱いので訪れた時は意外にもこの「ぬる湯」が好評でした。

木もれ日の湯

 何故にこの形になったのかと問いたくなる表現の難しい湯舟です。内湯は10人は楽々と入れる大きさがあります。

 「陽だまりの湯」と同じ湯口には、しっかりと「源泉」のプレートが付いていました。

 女性側のお風呂は子供がいるとシャワーブースは空かないことが多いが、灰屋さんではシャワー渋滞は全くなく快適だったようです。

 併設の露天風呂は「陽だまりの湯」に比べるとかなり小さい。捨て湯口が確認できないので何ともですが、滝湯は源泉のように感じますが黒い析出物は少なく循環湯かもしれません。

 木もれ日の湯側には岩盤浴が付いています。

 何人も一度に利用できる大きなものではなく2人用のプライベート利用です。

松風庵の部屋露天風呂

 敢えてお部屋のお風呂をこちら項に入れました。

 何故なら、灰屋さんの自家源泉をかけ流しで味わうには、露天風呂付6室の松風庵のお部屋に宿泊する必要があります(のはずです)。

 ただ小さく複数人ではいるのは難しく完全に1人用です。

 大浴場とは違い湯の風味もツルツル感も一層濃く感じられます。ただ、同じ芦原温泉街にある「つるや」さんで口にしたオイリーでエグ味の強い味ではなく優しい口当たりです。

 決して多い湯量ではありませんが、この小さな陶器の湯船には十分な量です。ただし、源泉の温度がどの湯船よりも熱い。「あつ湯」好きであれば100%の源泉を楽しめますが、苦手な方は一応冷やせるように水栓も付いてありました。

 開放感は今一つですがハシゴ状の目隠しか日除けが付いた小さな箱庭があります。他の松風庵の露天風呂の様相も気になります。

 

お料理

 朝夕共に個室のお食事処「彩月」でいただきました。「彩月」の前で待機しておられた配膳係の仲居さん、「○○様ですか?」と問われ「そうです」と返しました。お部屋にランクがあるとはいえ、流行り病渦でのマスク着用でも、客の名前と容貌をマッチして接客してくれるお宿は稀です。昨今では高級宿に泊まっても、「お部屋は?」と聞かれるのがほとんどでしたが、灰屋さんの接客配慮は抜かりありません。

 歩みを進めると個室にリフォームされたお部屋が並んでいました。

 一室に案内されました。 テーブルには食前酒と八寸が配膳されていました。

 お料理は季節の物をふんだんに盛り込んだ、見た目は洋食に見えても和食のテイストを忘れないカジュアル彩り会席となっています。和会席ではあまり使用されない洋食材と和食材の饗宴が、お皿の上で創作性のある品々に昇華した内容となっています。

 献立は頂いたお品書きをもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。

夕食

 プランに付いていた日本酒2合の地酒は福井の地酒です。

【食前酒】:灰屋特製 梅酒

 自家製のウメ酒は清く風味よく甘さは抑えてさっぱりとしています。かといって薄口というわけでもなく酒度もほんのりある口当たりです。

 

【八寸】:①夏野菜の酒粕(女将の酒)漬け ②さざえ旨煮 ③とうもろこしかき揚げ ④へしこクリームチーズ ⑤うすい豆冷茶碗蒸し

 ①かす漬けはズッキーニと赤パプリカです。かなり塩を持たせて麹の香りを濃く日本酒によく合います。 ②サザエは酒と醤油で優しく炊いてから殻に戻した物です。苦手な方のためかワタは取り除いてありました。 ③トウモロコシの香りが豊かなかき揚げは自然の強い甘味をそのままに。 ④ヘしこは日本海側でみるサバの塩ぬか漬けです。これをまったりとしたクリームチーズを纏わせ、糠とチーズの発酵コラボでコクを添えます。

 ⑤茶碗蒸しの地はとても柔く玉子豆腐に近い。地には細切りのショウガと貝柱を盛り込み、ウスイ豆の餡を掛けてあります。豆の青さとショウガで夏の涼を感じる一品。

 

【お造り】:すずき焼霜 中とろ 甘海老

 大根のかつら剥きを器に被せての配膳です。乾燥から守るにしてもなかなか面白い演出です。被せてある大根も是非に賞味。

 薬味は本山葵を自身で摺り下ろすスタイル。スズキは皮を炙って冷水で締めて洗いのような調理法を施して旨味を閉じ込めてあり、口の中でスズキが潤います。

 大振りの甘エビには黒翡翠のような卵が抱えらえていました。プチプチ触感の卵は甲殻香ばしさを感じます。身はプリっと頭部分からの身離れはよく甘味が弾けます。最も新鮮さを感じるのは、とてもクリアなエビ味噌風味。

 中トロはぎらりと脂の艶で活かっています。醤油に浸すと脂が溢れ出し、口の中では自然にとろけてしまいそうに柔い。加味は甘味の強い薄口醤油です。

 

【先吸】:沢煮椀

 沢煮とは沢山(たくさん)という意味なんだそうです。お出汁を口に含むとカツオ?だろうか・・・コンソメとのコラボのようにも感じます。そして、ピリリと効いたのは黒胡椒で洋椀のよな仕上げです。たくさん具材はしゃきしゃきの細切り大根、ニンジン、三つ葉、豚です。三つ葉の香味とコショウが相対して、コショウ辛いと思うと三つ葉の爽やかさが抑制を繰り返す、それぞれがいい仕事をした塩がよく効いたがっつり椀です。

 

【酢物】:焼きなす生ハム巻き(橙ジュレ、糸南瓜、酢蓮根、スナップエンドウ)

 水滴を散らしたように穴が開いた変わった器に盛られているのは、焼きナスと細切りのカボチャ、ゆるい酸味の紅白酢レンコン、開いたスナップエンドウを対照的に盛り付け、数種のサラダリーフを散らしてあります。

 焼きナスは焼き香ばしさに生ハムの燻香ばしさが見事に融合しています。いずれの味も独立しながら、混ざり合うとお互いにハグを求めている感じです。歯応えのある生ハムはしっかりとロールして形を整えてあるが、歯が入るとトロリと溶けだすナスの触感を楽しみつつ、味付けの柑橘ダイダイのジュレでシットリと2品を締め纏めます。ジュレは柑橘の酸味でゆっくりで甘さが清い夏の香り。

 

【焼物】:サーロインたたき 鮎の風干し 枝豆 夏野菜さっぱりソース

 お肉とお魚の両方を盛り込んだ夏らしい冷皿で、見た目は和フレンチのようなお品です。

 アユは一尾を丸っと一夜干しにして旨味を閉じ込めてから焼き上げてあります。干す前に味付けしたのか全体に塩が馴染んでいます。夏の食材であるアユ冷たくても味わいはりますが、やはりこれは温かくいただきたかったかな。

 サーロインは福井県だと和牛種の若狭牛とかになるのでしょうか。サシの入り具合がとんでもなく鮮やかです。たたきにしてあり焼いた表面はステーキ、次にやってくるのは上品な和牛の刺し。サーロインというには引き締まった肉質で、噛めば噛むほどに和牛の旨みが滲みます。

 ソースはタマネギ、緑と黄のズッキーニ、トマトを微塵切りにして恐らくワインビネガーで和えてあるのかと。辛味が全くない甘く仕立てたタマネギと瑞々しいトマト味は、塩気も少ないのにやけに和牛をまろやかに包みます。

 緑黄色野菜のソースもいいのですが、お造りの本ワサビを添え付けて食するのも美味すぎます。追加で岩塩が欲しくなりましたw

 

【冷鉢】:太胡瓜釜盛り(鮑 蒸し雲丹 冬瓜 露生姜 ミニトマト)

 涼をとるように、冬瓜をくり貫いて器にした物に野菜と豪華食材を彩色良く入れ込んでいます。

 擦りショウガ餡のベースはカツオだろうか。ショウガ辛さがピリリと鋭いアクセント。これだけショウガ風味が強いと、他の食材が負けてしまうのではないかと思いきや、むしろ口がリセットされて素材の味がよく分かる不思議な展開です。トウガンてこんなに深みあったか?湯剥きミニトマトは甘すぎるんだけど?アワビの貝味ってこんなに甘かったか?という謎感覚になります。

 

【凌ぎ】:夏穴子炙り寿司

 そこまで厚みはなく見た目は普通の炙り寿司のように見えます。

 ところが炙りはアナゴだけではなく寿司飯にも及んでおり、焼きおにぎり的な美味さが賑わいをたてます。アナゴと酢飯の焼きにより口の中では焦げ香ばしさが溢れ、味付の山椒佃煮と本ワサビが喧嘩もせず、それぞれのウマ味で握手して口腔内でbyebyeして胃に落ちていきます。酢飯ごと炙りを入れるのは新しい発想です。

 

【揚物】:鱧アスパラ巻き オーロラソース

 ハモで緑のアスパラを巻き上げてカツにしたものです。

 この揚物の食し方が難しい。オーロラソースはとても滑らかで、マヨやケチャの酸味はびっくりするぐらいありません。恐らく自家製でクリーミー、確かに味はオーロラソースだが既製品ではなく、まろやかに品があります。このソース大変美味しいのですが、付けすぎると、淡白なハモの味わいが感じられなくなってしまい、とても悩ましい・・・。カツには少しだ纏わせて残りのソースは素揚げのしし唐でタップリすくって食べました。

 

【お食事】:越前おろし蕎麦

 同時に白米もいただけたのでちょうだいしました。香の物がないので単品となってしまうのですが、実は揚物の時に申し出があったので揚物と一緒に食した方がいいのかもしれあません。

 ソバは歯切れがよいのに弾力もしっかりあり、ボソボソとしているわけでもない。冷ソバにしては上品薄味の浸し出汁に絡めると、さらに本来の蕎麦風味が生きてきます。薬味にはわけぎと大根おろし、上にはかつお節。

 白米はお造りでとっておいた本ワサビでワサビ飯にしました。擦りたての本ワサビは辛味がほとんどなく、ほのかな甘い清らかな風味がとても旨い。

 

【果物】:越のルビーコンポート いちじく 芦原産メロン 梅酒ジュレがけ

 福井県ブランドの「越のルビー」という極甘トマトを使用しているのだそうです。今回お料理に盛り込まれたのはすべてこのトマトかもしれません。蜜煮にされたトマトは豊潤な甘さを蓄え、トマト出汁が蜜に溶け出した薫りがたまりません。他の果物も負けておらずイチジクは湯剥き?にしてありトロ甘い、メロンもとてもジューシーで見た目以上の甘みと香りです。これに自家製の梅酒で作ったであろうジュレを涼し気にトッピング。たくましい自家製っぽいミントをトップへ添え付けてあります。

朝食

 朝食も夕食と同じお部屋でいただきました。テーブルには重箱、五徳、水菓子、出汁巻き、香の物、小鍋の用意。

【お重】

・煮物(飛龍頭、里芋、人参、オクラ)

・サラダ(サニーレタス、グリーンリーフ等、胡瓜、ハム、ミニトマト、梅ドレッシング)

・ほうれん草と揚げのお浸し

・ひじきと大豆の煮びたし

・岩海苔

・イカソーメン

 このお重・・・ほうれん草と揚げのお浸しは1掴みでやや寂しく、ひじき煮は大味、煮物は・・・。イカソーメンは新鮮でするすると透明感がある良食材なのに、盛りが・・・本当に申し訳ないが、このお重だけは何故か雑い。朝食の手伝いにくるパートさんがホイホイと盛り込んだような感じでした。

・出汁巻き卵、大根おろし

 宿泊料金からすると、朝食も少し手を入れて欲しいと思う反面、出汁巻きはお出汁と微塩がほんわりと香り、出汁が染み出し見事なほど綺麗に巻き上げてありました。

・カレイの一夜干し

 カレイの一夜干しは給仕の方が直々に焼いてくれます。このサービスは高級宿らしいところです。カレイを焼いた後に、五徳には湯豆腐がセッティングされます。

 小振りのカレイは直火なので香ばしい。脂の載りが良く尾まで丸っと食せる柔さ。熱いうちに白米と共にいただきました。

・湯豆腐(水菜、えのき、葱、出汁)

 カレイを焼き終わるとすぐに湯豆腐の鍋が焜炉に掛けられます。湯豆腐は大豆濃くお出汁も美味い。北国の豆腐は水がいいのかスーパーで地物豆腐を買っても外れがないのがうらやましい。

・焼き海苔、薄口醤油、梅ドレッシング

・白米

・味噌汁(豆腐、ワカメ)

・香の物(白菜、お新香、梅干し)

・西瓜、パイナップル

 全体としては普通においしいスタンダードな和朝食です。白米も立って味噌汁もうまく、熟した果物も申し分はありません。ただ、夕食の手の込みようからするともう少し頑張って欲しい・・・。

 

まとめ

 旅行サイトのプランを見ていると料金の概ねはお部屋の空間代なのかなと思います。これは灰屋さんだけではなく他の旅館でもそうなのですが、一般客室と料理等が異なるわけではなさそうです。が、他の方の記事を見ていると松風庵に泊まると料理の質が良いようにも見えます。大型旅館ではあるので、離れとはいえサービスのバランスは値段からすると微妙で特別な感じはあまりありません。それを踏まえた上で、一般客室でも同じ料理なら、一般客室での宿泊はかなりです。一般客室での宿泊はかなりお得です。真相は一般客室にも泊まらないと分かりませんが。

 あらためて個別の総評を。源泉はやはり熱く訪れるなら冬のほうがお風呂は楽しめるかと思います。循環湯でありながらも源泉投入されたツルりとした感触は芦原温泉ならでは。 

 廊下で会えば「ごゆっくりお過ごし下さいませ」との声掛もあり、部屋の鍵が昭和の玄関鍵のようだったので、開閉できないトラブルもあったのですが「その後はどうですか」と、お伺いもあり逆にこちらが恐縮してしまうぐらい気を使ってくださいます。これでもかという程に写真をとるので、警戒されたのもあるのかもしれません・・・。最近はどこにいっても「写真撮影ありがとうございます」なんて言われるのはブログで良い写真を撮りたいからであってwww

是非に撮らせていただきます!!

 料理に関しては受け処と落とし処の難しさ&もどかしさもあり、全体としては「何だこれは!?」という楽しみがある創作性高い好みの嗜好でした。しかし、「こいつは逸品だ!!」という料理が私的には欲しいかなと思いました。惜しく感じたのは朝食です。一般客室だと可もなく不可もなくですが、離れのお部屋だと寂しい感じがします。お重の盛りや皿を工夫するだけで満足度が上がるのではと感じた次第です。

 離れの宿泊では詰まるところ温泉代と空間代の割合が大きいかなといった印象です。

宿泊日:2021/夏季

旅行サイト:じゃらん

プラン:【じゃらん限定】■離れ◇露天付松風庵に泊まる■くつろぎと贅沢プラン

部屋タイプ:■庭園露天風呂付客室【松風庵】(全室禁煙)

合計料金:81400円(2人)

春セールがお得になるクーポン:21000円

支払い料金:60400円

加算ポイント:1700p

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