つるやさんは「あわら湯のまち」駅から程近い温泉街の中心にあります。建て構えは近代的な建築物に見えますが、客室棟はすべて木造建築となっています。明治創業来からの建物は、昭和中期のあわら大火により消失。現在の建物はそれ以降のものですが、それでも60年近く経過した歴史あるお宿です。
旅情
ロビーを見る限りではコンクリート造の建物としか思えないほど現代的です。建物の構成は、玄関と宿泊棟のある本館、もう1つの宿泊棟である北館、お風呂と宴会場がある南館から成っています。
到着が10分程早かったので、お部屋の準備ができるまでしばらく待機です。待っている間、このくつろぎ処でイレギュラーであろう昆布茶を頂戴しました。勝手に早くきたのに、ありがたいお気遣いです。
お部屋までの通路には旅行サイトなどで必ず登場する壁画が飾ってあります。
喫茶室は今風にリメイクされています。書籍が置いてありコーヒーを飲みながら読書を楽しめます。つるやさんが紹介されている温泉宿の本などがありました。
足湯と源泉の沸き出し口です。ここで19時まで温泉卵を作って食べることができるサービスをしていました。また、源泉温度に近い状態での飲泉もできます。これがなかなかのお味で薬湯といった感じです。
せっかくなので温泉卵作ってみました。卵を入れた籠を80度の源泉が注がれる源泉槽に20分浸します。お宿の周辺を20分ほど散歩して戻ってきたら完成です。温泉成分が入ってほんのり塩味が付いています。味が薄ければ塩と醤油も置いてあるのでお好みで。
木造部分の建物は2階建てになっており、回廊のようになっていて宿泊棟である本館と北館を繋いでいます。
館内は全体的に内廊下となっていて、ところどころに坪庭があります。本館2階の階段からは、ロビーで到着のお客さんを待つ従業員さんの姿がありました。お出迎えの雰囲気が大袈裟ではなく大歓迎という感じでした。チェックアウトの時も女将さんが直接おご挨拶に来られました。何となく女将さんのご挨拶パワーって凄いんですよね。お宿に自信があるこそなんでしょう。
館内には売店があり、お土産だけでなく工芸品のようなものも販売していました。また、つるやさんを手掛けた数寄屋建築職人の平田雅哉さん縁の展示物なんかもあります。このクラスのお宿にしては珍しく売店内に自動販売機がありました。
お部屋
案内して頂いたのは「つる」というお部屋。「つるや」さんで、「つる」のお部屋に泊まるという。間取りは本間12畳+次の間7畳+ドレッサー2畳+踏み込み+縁側+洗面トイレバスとかなりの広さ。
案内後はお抹茶と茶菓子を頂戴しました。そして、お抹茶を飲み終わると、さらに煎茶までご用意。
お部屋の扉を開けると生花と絵が飾ってある踏み込みがあります。中に入ると長い廊下のような次の間に水屋棚と冷蔵庫がありました。
次の間から本間へ。お部屋の構造自体は素人目にはシンプルな数寄屋造りです。
開放的な大きな窓からは坪庭を臨みます。
欄間や天井には派手ではないですが細工が施してあります。このお部屋の特徴として1か所だけ気になるのがこれです。お部屋の名前通りの折り紙で作る鶴の彫り物。
広縁というよりは、上がり框のようなものがある縁側です。大きくはないですが専用坪庭もあります。外を散歩をして分かったのですが隣は民家でした。もちろん目隠しはしてありました。
2畳の小部屋は書斎のようにも見えますが、吊り箪笥と鏡があるのでドレッサーになるのかな。
洗面にはメイク落とし、化粧水、乳液、コットン、ドライヤーと揃っています。トイレは安心のシャワートイレ。バスは残念ながら温泉ではありませんでした。つるやさんに来る方は温泉目的で大浴場に行くからか、使用感はなくとても綺麗な状態でした。アメニティ類は歯ブラシ、ヘアーブラシ、髭剃り、浴衣、作務衣、足袋と完璧です。また、お布団敷と朝食時には冷水やお茶の入れ換えてくれます。さらに、お部屋案内直後に女将さんが、お部屋まで直接足を運んで挨拶に来られました。
お風呂
つるやさんは3本の自家源泉を所有しておられ、すべての湯舟において源泉かけ流しとなっているこだわりの温泉です。泉質はナトリウム・カルシウム塩化物泉です。湯感はややあつ湯でサラりとしています。匂いは弱硫黄で白い小さな湯の花が舞います。味は強い塩味に「にがり」のようなエグ味と鼻に僅かに抜ける微オイル臭。透明で肌触りがいいのに?味にインパクトのある極上泉。新潟県にある松之山温泉の凌雲閣さんの味に似ているかもしれません。帰り際にお宿のご主人と思わしき従業員の方と話したのですが、つるやさん付近の水脈?温泉脈?が最も濃厚なのだそうです。確かに同じ芦原温泉内の飲泉所では、つるやさんのようなエグい味は薄く感じました。
湯屋は大浴場「芦の湯」、「福の湯」、貸し切り風呂「つるの巣」があります。貸し切り風呂は利用していないので記録にはありません。2つの大浴場は夜間に入れ替えがあり、脱衣所には歯ブラシ、櫛、髭剃り、化粧水まで何でも揃っています。ドライヤーもたくさん用意してあったので女性の方は助かるかと。フェイスタオルも用意があり、毎回新しいものを使用することができました。ウォーターサーバーもあるのでしっかり補水できます。
福の湯
福の湯の全景です。内湯と露天風呂があり掛け流し量は多くないですが、確かな濃厚良泉の湯感を楽しめます。
内湯は10人ぐらい足を延ばして入れる大きさがあります。湯量は多くないですが、湯舟の大きさを考えると浴槽の淵全体から溢れ出すお湯は相当なものです。シャワーは順番待ちになる事はないぐらい備えがあります。
「芦の湯」含めて、すべての湯舟において親切にも源泉の投入口付近にはこのような案内が立っています。じんわりと湯舟の壁に開いた穴から厳選が湧き出ています。
内湯から外へ出ると何ともいい雰囲気の露天風呂がお出迎えです。
不規則な形をした湯舟の中に寝湯が2つあります。この寝湯は画像の右にあるかけ流し口から近い方は適温で、遠い方はぬるく調節されていました。
かけ流し口では硫黄の香りが濃くアロマ的効能でとても落ち着く。析出物が大量についていて、剥がして食すると岩塩のようなミネラル塩の味です。剥がして食べるなという声もありますが味見したいんです。内湯と同じように浴槽の壁には、ゆっくりと源泉が出ているところがありました。
福の湯の露天風呂はどの浴槽よりも溢れ出すお湯の量が多かったです。
露天風呂には、もう1つの丸い石をくり貫いたような湯舟があります。画像では入れるのか?という大きさに見えますが、膝を軽く折り曲げるか、足を浴槽の淵に放り出して入れるほどの余裕があります。こちらは源泉の投入が足元湧出となっています。この湯舟からのオーバーフローは不規則浴槽に流れていくようになっていました。
芦の湯
内湯は六角形の10人ぐらい足を延ばして入れるぐらいの浴槽です。
お湯は臼を利用した石造りのかけ流し口からと、「福の湯」と同じように湯舟の壁の小さな穴から熱い源泉がゆっくりと出ています。投入量は多くはありませんが、湯舟の淵全体からお湯が溢れ出しています。
十分な数のシャワーが備えてあるので、順番待ちはなかったと相方が言っていました。
浴室から露天風呂へ出ると美しい丸い湯舟と、「福の湯」にもある石をくり貫いた同じような浴槽が目に入ります。
丸い湯舟の壁には小さな穴があって、そこから源泉が湧き出ていました。「福の湯」の露天風呂に比べると湯量は少なくオーバーフローは控えめです。石をくり貫いた浴槽は足元湧出で、溢れた出したお湯は丸い湯舟に注がれるようになっています。
お料理
朝夕ともにお部屋で頂きました。内容はバリエーション豊かで、薄すぎず濃すぎず丁度良い味付けは、お出汁を利かした関西風です。具材は地産の良い物を中心に使用し丁寧に仕上げてありました。仲居さんはお部屋付きなのですが、お料理の説明も完璧でこちらからの質問にも気さくに答えて下さいました。献立は頂いた献立表をもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
【食前酒】:白加賀梅の梅酒
【前菜】:爪蟹のあられ揚げ、小蕪の生ハム巻、真子旨煮、あぶら鰈の西京焼き、みのり青唐
食前酒の甘みは程よく梅の酸味が爽やかな吞み口。お口慣らしにぴったりです。 前菜も一手間入れたものばかりで、生ハム巻きのカブは香り高いカツオ出しで炊いてあり、西京焼きのカレイは白味噌の甘味が強めの京風。カニ身を練ったものを青唐の中に入れて揚げてありました。お酒が欲しくなるものばかり。
【向付】:がさ海老、縞鯵、本鮪、鯛、長野県産本山葵、あしらい一式、金沢直源醤油、越前塩
がさ海老は車海老や甘海老のような濃厚な甘さを抑えたような味。歯ごたえがしっかりとあり海老味噌は磯臭さがなくすごく食べやすい。シマアジは脂がよく乗っていてアジとカンパチの間の味を濃くしたよう。マグロは脂がしつこくない中トロです。最近はこれぐらいの物が一番おいしく感じます。鯛は緩すぎず、かといって瀬戸内のようなコリコリではなく洗いにしたような歯ごたえ。これを本ワサビと濃い目のお醤油、もしくはミネラルの効いたお塩で頂きます。あしらいは海藻クリスタル、蓼、紫蘇花、大葉です。ワサビはセルフで擦りたてを頂くことができます。
【椀物】:つるや特性鱶鰭スープ 黄金仕立て
とろみのあるスープには小ぶりながらも、触感を十分に楽しめる量のフカヒレが入っています。これにふんわり玉子を溶いて黄金色に。そこへ青ネギを散らしてあります。鼻に抜ける風味は玉子と甘みのある出汁。カツオか?イリコか?と悩んだので、仲居さんに聞くとベースはカツオと鶏なんだそうです。甘味は鶏の脂によるものでしょうか。とても品のいい卵スープ。
【お凌ぎ】:松茸ご飯
ここにきてお凌ぎの松茸ご飯です。器の蓋を開けると松茸の豊潤な香りに襲われます。優し目の醤油加減に炊かれたお米に松茸の匂いが絡み美味い。刻み三つ葉もとてもよく香り、アクセントとなって口の中が幸せになります。椀物と一緒に配膳されたので、会席料理の間にあるもう1つのお食事みたいな感じでした。
【洋皿】:牛のアーモンド揚げ、福井ポークの揚げ物二種(大黒占地巻き、湯葉揚げ)、オニオンソース、春江ベルキーファームさんの水耕水菜、ミニトマト
牛のアーモンド揚げは冷めたくサーブでした。肉の真ん中に赤みが残っており叩きとかローストビーフ風だから冷めているのがデフォルトなのかな。大黒シメジは普通のシメジの3倍ぐらいの大きさがあり、風味も3倍増しで、巻かれた豚との相性がよくジューシー。湯葉揚げは湯葉を細切りにして衣に使用し香ばしく揚げた一品。サクサクとした触感が気持ちいい。豚料理は暖かい状態での配膳です。オニオンソースが玉葱だけでなくトマトソースと合わせているような洋テイストが揚げ物に馴染みます。お口直しに新鮮な紅芯大根、ミニトマト、水菜のお浸しに微味のイタリアンドレッシング。この水菜がまたシャキシャキで瑞々しい。
【焼物】:のど黒の塩焼き、鯖へしこ、はじかみ、酢橘
ふわっふわっでジューシーな脂が乗ったノドグロです。塩焼きなのに西京焼きにしたような濃厚な味がします。焼いてこの大きさなら、もともとはかなりいい身振りではないかと。箸を入れると脂が滲み出てきます。脂が強く感じるようなら酢橘で爽やかにして、はじかみでお口直しをと仲居さんより。郷土料理の鯖のへしこにはカットレモンが挟んであり濃い目の塩麹風味をさっぱりと。
【炊合せ】:合鴨治部煮、子芋含め煮、白葱、湯葉、絹莢、人参
炊き合わせは一つ一つの味付けがきめ細やかに変えてありました。たくましい系の合鴨は打ち粉がしてあり出汁が馴染むようにしてあります。里芋そのものにカツオ風味があり、キヌサヤは甘口に下味が付いています。湯葉は噛み応えがあるしっかりタイプでお出汁とのほどよい絡みがいい。人参は季節を彩る紅葉飾り。浸してあるお出汁はカツオベースの濃い目の甘辛味。鴨の脂と焼ネギの風味がお出汁に移り焼香ばしさが引き立ちます。
【お食事】:
ご飯(あわら産新米コシヒカリ 農事組合法人グリーンファーム角屋さん)
漬物(山葵昆布、長芋、京菜)
留め椀(清汁仕立、蟹真薯、松茸、三つ葉)
なんと!!ここで、お米をおいしく頂けるようにと新しいお箸に交換サービスがありました。これは初体験。ご飯はほっこり新米らしいストレートな甘み。お漬物の山葵昆布は自家製でしょうか。ワサビ風味がピリリと御飯にぴったり。長芋は梅酢に漬けたものだそうで、山芋の土の匂いの中に確かに梅の香りがふんわりとします。壬生菜がこんなに高く盛っているのは久々に見ました。
おすましには分厚い松茸が入っています。表面だけに焼きを入れているのか、ほとんど生感触でコリコリしています。贅沢。蟹真丈はとても柔く舌で潰せるほどで、口によく含むと蟹風味がほんのりとします。お出汁はやはり上品なカツオです。
【水菓子】:善哉、越前柿、岡田農園さんの苺
ぜんざいは甘みは思ったよりも強くついていますが後口はまろやかです。小豆がたくさん入っており、一口サイズのお餅が盛られてありました。柿は柿風味は穏やかに、梨のような、グレープフルーツのような爽やかさというか、味というかすっきり味です。色も黄色く変わった品種です。苺は小ぶりでしたが、とても甘く苺特有の匂いが豊かでおいしいかったです。品種は秋姫。水臭くない苺は久しぶりです。
朝食
【お重】
・サーモンの南蛮漬け
・南瓜と鶏そぼろ煮
・小松菜とお揚げのお浸し、彩りラディッシュ
・生湯葉、山葵、湯葉、刺身醤油
【一品】
・茶碗蒸し(銀杏、海老、百合根、三つ葉)
・鰈の一夜干し、生姜のしぐれ煮
【食事】
・温泉粥(なめこ、エノキ、三つ葉)
・白米
・浅利の味噌汁
・香の物(白菜浅漬け、梅干し、3年物らっきょう)
【水菓子】
・フルーツヨーグルト苺ソース(オレンジ、パイナップル、キウイ)
手作りで胃腸に気遣った内容と味付けの朝食です。白米の前に温泉粥から配膳してくれます。源泉2割をお出汁で溶いたものだそうで温泉の塩気がわずかに感じられます。朝一番の胃に沁みわたります。お重にある小鉢はどれも彩りよく、箸休めの物からご飯の合うものまでお味は品よく整えてあります。カレイの一夜干しは脂が乗っているので焼きが入ると食欲をそそります。それに付け合わせの生姜のしぐれ煮の添え付けもいい。お味噌汁のアサリはとても大きく、関西風のお味噌も食しやすかった。夕食もそうでしたが、おかずが驚くほど適量で腹八分に収まります。
まとめ
これまで泊まった旅館の中でも従業員さんの対応の良さはトップクラスに入ります。チェックインとチェックアウト時には必ず女将さんが挨拶に来られます。お部屋の案内の時には、相方が作務衣ではなく浴衣2枚のほうがいいかな・・・とポロっとこぼしてしまったのですが、何も言わず仲居さんがそっと浴衣を1枚足してくれていました。お料理の内容をきちんと把握しているのもとても好印象です。担当して頂いた方だけという可能性もありますが、何かと頼みやすい雰囲気もありました。下足番の男性の方が、お客さんの名前、どのお部屋に泊まっているかということを覚えているのも最近では稀ではないでしょうか。外観を撮影してると「看板ライトアップするんで!」とわざわざ明かりを付けてくれました。せっかくなので、トップ画像に使わせもらいました。お客さんの行動に対する先回り気配り、いわゆるサービスではなく「おもてなし」が凄い。お宿の情景を作るのは人なんだと、改めて思わせてくれるお宿でした。従業員さんや建物の風情はもちろんそうですが、温泉は見た目からは想像もつかない濃厚泉だし、お料理の和創作も素晴らしいものでした。人良し、宿良し、温泉良し、料理良し、すぐにでも再訪したいお宿になったのは間違いありません。
宿泊料金
さて、現実的なところの宿泊料金です。宿泊日の料金は公式HPと楽天トラベルでは66000円となっていました。一休(yahooトラベル)でも66000円となっていましたが、ゾロ目のクーポンの利用とポイント即時利用で54900円と11000円引きぐらいで宿泊させて頂きました。これを高いか安いかと宿泊内容からすると、かなり安く泊まらせてもらったという印象です。
宿泊日:2019/11(土曜日泊)
旅行サイト:yahooトラベル(一休)
プラン:月替わり【創作会席膳】量より質にこだわりました
部屋タイプ:純数寄屋和室10畳~12畳(和室)
合計料金:33000円×2名=66000円
クーポン:5000円(Yahoo!プレミアム会員特典)
ポイント:6100P(ポイント即時利用)
支払い料金:54900円
加算ポイント:549p