創業は江戸初期。歴史と共に装いを変えてこられた常盤屋旅館さんは、外湯「大湯」の隣にあって壮大な千人風呂が名物のお宿です。
この日のアクティビティは野沢温泉スキー場山頂部のお山「毛無山」に登りました。ハイキングの記録もよければ見てください。
旅情
長く野沢温泉に通っていますが、自分が幼き頃には常盤屋旅館さんは現在の面持ちでありました。メインストリートに面した温泉街の中心にある最高の立地です。
玄関に車を着けると車の鍵をあずけます。どうやら建物に隣接した立体駐車場があるようです。常盤屋旅館さんの紋が入った格子天井の奥まった玄関口は見事。確か・・・ある大晦日の日には和太鼓の演奏がここで行われていました。
玄関口には足湯が設置されています。その反対側にはバーカウンターもありましたが、コロナの影響か営業はしていませんでした。地下には居酒屋とラーメン屋も入っており、時代を感じさせる雰囲気です。
ロビーにも家紋があしらわれた格子天井。建設当時の豪華さがよく伝わってきます。
ロビーとフロントには色々な物がギュッと詰まっている感じです。フロント前の奥には千人風呂の入り口があります。チェックイン時には検温と消毒が徹底されています。ウェルカム茶の用意はなく、インスタントのお茶やコーヒーのパックをチョイスできます。足りなければお申しつけ下さいというご案内。
色々な物がギュッと詰まっていると表現したのはこんな感じです。左上は野沢温泉と常盤屋旅館さんの歴史が記された記帳な資料展示。売店、書庫、パンフレットコーナーに野沢温泉のスタンプがずらり。常盤屋旅館さんの無料のステッカーも置いてありました。ちなみに外湯全部で集印すると「湯タオル」がもらえるようです。
翌朝にはモーニングコーヒーをフロントでいただくことができます。
お茶室のようなスペースもあり。
フロント奥の千人風呂前には、子育て観音さんを奉る祭壇があります。お守りが置いてあり、ご自由にとありました。
千人風呂横には飲泉所。源泉は熱くやさしい硫黄の香り。ここから地下への階段がついています。
地下には卓球場があり1998年の長野オリンピックの記念品の展示がありました。スキーの更衣ロッカーも備えてあります。全国的な豪雨があった為か、地下は雨漏りしています。温泉名物ケロリン桶によって守られています。
こちらは3階の「雪つばき」という階です。2階はお食事処となっていています。
宿泊階は階層によって呼び名が変わります。5階の「らん」という階は、人数制限を設けてあるのか稼働していませんでした。
お部屋
案内して頂いたのは「つつじ」というお部屋です。
間取りは10畳+角広縁+ユニットトイレバス+洗面です。お部屋のタイプとしては「Bタイプ角部屋」です。
暗く写っていますが実際は明るいです。扉はバブリー時代の無機質な金属製の扉。しかし、開けると大きな玄関と贅沢な幅のある廊下に、振り返ると飾り棚があり内装は凝っています。
ユニットバスは温泉ではないようですが、全客室に取り付けられているようです。安心のシャワートイレに、洗面所にはドライヤーから化粧水までアメニティの備えは充実しています。
スタンダードのお部屋でも10畳は確保されて広々としています。広縁も余裕たっぷりの空間。
お部屋からの眺めは温泉街の中心を見下ろします。角部屋なのでもう1つの窓からの眺めは常盤屋旅館さんの千人風呂が見えます。
お部屋の備品に金庫、空の冷蔵庫。冷水は広縁にあらかじめ用意があります。蛇口も飲水可能な水道水です。チェックイン時に頂いたウェルカム茶代わりのティーパック。いろいろと不足があれば温泉街内にはコンビニ、スーパー、薬局と昔ながらの個人商店が残っていたりするので不便はありません。
お風呂
泊まったお部屋から見えていた千人風呂と書かれた建物。何度もこの路地は通っていましたが、まさかここが浴場だと知る由もなく。泊まる直前まで常盤屋旅館さんの浴場だと気付かなかったほどです。
浴場は男女別の「千人風呂」と「薬師の湯」があり、男女入れ替え制となっています。それぞれに個性がある湯屋となっており、湯使いは湯量豊富な源泉かけ流しです。しかも自噴湧出です。泉質は弱アルカリ性硫黄泉となっており、濃い硫黄味の硫黄臭(硫化水素臭)が漂います。源泉の温度は高めでツルりとした湯感となっています。
千人風呂
フロント奥にある重厚な扉を開けると一変して鄙び感のある脱衣所です。
浴場に入ると驚きの広大な空間が広がっています。何か感覚がおかしくなるスケールの大きさ。
時代を感じるコンクリート造の湯屋で、窓の造りが大正ロマンを思わせるローマ風呂の様です。源泉が熱いのでお湯の温度を調節した3つの湯舟があります。
岩造りの湯舟はやや熱めです。源泉の投入量はまずまず。他の湯舟に比べると少し高い位置にあり、湯屋全体を見下ろすように浸かれます。黒と白の湯の花が舞い玉子臭と微苦みがある味。
浴場の真ん中にある「中の湯」は「ぬる湯」設定となっています。
投入量は一番少ないように見受けられました。といっても湯舟全体からオーバーフローするほどに贅沢な源泉量。湯の花はなくザルで濾しています。そのためか、岩風呂と比べるとずいぶん薄味。夏の季節は湯温が低いここが一番入り易そうです。
千人風呂の起源となった光明皇后さんの像がある湯舟は、深さのあるかなり熱い湯舟と、丸太で仕切ってある入り易い温度の「寝湯」となっています。
皇后さんが持っているのは甕?かなりの湯量があり手で受けると激熱です!玉子臭と苦み、オイリーな感じ。一番濃厚源泉かな。温度調整のため、すべてのお湯が入らないように樋(とい)で湯舟の外に逃がしてありました。湯の花が舞い視覚的にも気持ちよい。
薬師の湯
千人風呂の前の階段を降りていくと地下に薬師の湯があります。中にはいると洗面台、奥に階段があって、足下で源泉が流れているのか階段付近の床は温かい。階段を上ると脱衣所です。
入り口から浴場入り口までなかなかに距離があります。
浴場の扉を開けると新設の大浴場かと思いきや、千人風呂に負けず劣らずの鄙びの浴場。同じ年代の物のようでレトロ感はたまりません。
子宝の湯として慈母観音が祀ってあります。千人風呂を体感すると、とてもこじんまりとしてます。
野沢温泉は乳白色の濁り湯になることがあります。千人風呂もそうでしたが、お湯は新鮮な無色透明。半ひょうたん型の湯舟は5人入るといっぱいの大きさ。
真ん中にある湯口からはトロリトロリと激熱の源泉が注がれます。湯口の上には湯舟の場所によって温度が変化する分布図がありました。説明図の通りに温度が変化しているのには驚きです。お湯は皇后さんの湯口と同じ味がします。
もう1つの竹筒からの湯口も激熱!全体としての源泉の注ぎ入れは多くはありません。しかし、湯舟の端にある切り口からは、投入量よりも湯量が多く感じられました。
そして、謎なのが浴場奥にある一段上がった謎の湯舟。寝湯?というには真ん中の浮石が邪魔です。座り湯?としても腰までもない深さ。かつての使用目的は入浴用ではなかったのでしょうか。
この湯舟に投入される源泉は複雑な配管で調整されています。湯口をたどると元気のないホースから熱々の源泉が出ていました。
脱衣所にはドライヤー、綿棒、髭剃り、化粧水、乳液が用意してあります。千人風呂前には冷水の用意も。
外湯
この湯屋は常盤屋旅館さんの隣にある野沢温泉のシンボル「大湯」です。野沢温泉には13ヵ所の外湯があり、無料で楽しむことができます。外湯に行く際のフェイスタオルは常に新しいものを玄関に用意してくれてあります。
お料理
※現在は和風フレンチの料理内容となっているようです。ご滞在時はお料理の内容がことなる可能性があります。
朝夕共に2階のお食事処「常磐亭」でいただきました。お部屋ごとに個室が割り当てられていたので、ゆっくりと食事を楽しむことができます。季節感タップリの地産地消にふさわしい内容となっており、野沢温泉と北信の恵みが詰まっています。面白くも、少し創作性のある多国籍なお料理もあります。
献立は頂いたお品書きをもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
夕食の最初の配膳です。
【食前酒】:梅酒
【先付】:トマトと玉葱の博多
梅酒はひんやりと冷たく、梅の風味濃く甘さ控えめです。信州のお宿でいただく梅酒は似たお味の物が多く同じ蔵元でしょうか。 3層のスライストマトの間にはコクのあるチェダーチーズに、水にさらしたシャキシャキのタマネギを合わせた物を挟みパルメザンチーズのあしらい。トマトの瑞々しいフルーティ感と、ホロホロチーズの濃熟が対比して、お互いに支え合う夏らしい先付。博多とは層を成して挟んだ調理法を言います。
【椀物】:夕顔すり流し
冬瓜に似た夕顔ですが、よくあるのが干瓢(かんぴょう)の原材料として知られています。味は少し似ていますが夕顔の方が水気が多く実が柔い。これを口に少し残る程度にサラサラと擦り流し豆乳で溶いた物だと思います。お出汁も使ってそうなのですが分からず・・・。ほんのり塩味と夕顔のゆるい甘味は夏の涼をとる一品です。
【向付】:信州サーモン昆布〆、烏賊そうめん
熟成タイプのお造りです。信州サーモンは昆布〆したかのうような熟しがあり、まろりと溶けるような食感と上品な紅身味。「イカそうめん」は甲イカという緩い食感ですが、でも味は「スルメイカ」です。こちらもスルスルとした歯ごたえに、イカの透き通る旨味は新鮮です。これに少し甘しょっぱい酸味のある醤油で。つまは海藻クリスタル、大葉、蓼、ワサビ、蛇の目(じゃのめ)キュウリ、金魚草です。
【焼八寸】
①焼きもろこし寿司 ②水尾酒粕チーズ ③サーモン砧巻(胡瓜巻】
④スズキの炙り ⑤セロリ甘酢漬け ⑥トマト寄せ
⑦空豆松風
夏の恵が咲く創作性の高い焼八寸です。 ①この握りが面白い。お寿司屋さんのしっかり酢飯に、甘味が強いトウモロコシに炙りを入れてネタしてあります。味噌をトッピングして一層甘味を引き立て大人のトウモロコシ寿司です。 ②水尾は野沢温泉の湧き水から作った日本酒です。この水尾酒粕を使ったチーズは熟成さえれた発酵コラボ。 ③砧巻(きぬたまき)とは野菜や卵などを薄く切った物で巻いた料理を言います。糠(ぬか)で漬けたキュウリの皮で、燻製サーモンを包んだものです。 ④スズキは香ばしく焼きを入れ、下に敷にしいてあるのは粒マスタード蜂蜜マヨソースかな。 ⑤セロリ独特の臭いをやんわりと酢で和らげ、胡瓜の甘酢も一緒に盛ってあります。 ⑥完熟度が高いトマトを使用した寄せです。自然な甘さが際立つフルーツトマトでしょうか。濃熟トマトジュースの味そのものです。 ⑦松風はシットリとした物ではなく、ぱさりとして水気を飛ばして鶏味を濃くしてあります。これに滑らかに伸した青い空豆のペーストを合わせて清くしてあります。
【台物】:福味鶏のつみれ白湯鍋
小鍋は中華風なお品です。自家製の白湯スープを使った、信州ブランドの福味鶏つみれ鍋です。スープは口に含むと意外にも、あっさりとした鶏出汁です。しかし、後を引くような旨さがあり野菜もたくさん一緒に煮込んでいるのでしょうか。絶妙な塩加減は加味はいりませんが、味に変化を持たせるのに柚子胡椒と岩塩を用意してくれています。
つみれは煮込むと、じんわりと脂が沁み出しスープに混ざるとお野菜も美味。地下店舗にはラーメン店があるので、常盤屋旅館さんの直営店のお出汁なのでしょうか・・・。付け合わせのお野菜は、白ネギ、ニンジン、大根 青ネギ、シメジ、青梗菜。
【蒸物】:トムヤンクン仕立ての茶碗蒸し
蒸し料理は一変してタイ風料理です。具材は海老だけでとってもシンプルです。しかし、一口食べると、やさしいトムヤンクン風味が、ふ~~と鼻を抜けていきます。お出汁は何でしょう。海老殻の煮汁?流石に好みが分かれるパクチーは入っていませんでした。辛くはないですが豆板醤の匂いに、レモンの酸味と苦味による清涼さが全体をまろやかにして食べやすいタイ風茶わん蒸しに仕上げてあります。
【揚物】:鰻の天婦羅
お品書きだけを見ていると、鰻と何か野菜か巻いたり挟んだりするのかと思いきや。丸っと鰻を揚げた物が出てきました。あつあつの揚げたてで配されます。鰻には下味が付いているのかほんのり塩味に、さっくりとした衣の後にジューシーな鰻が飛び込んできます。脂の乗った鰻をさらに揚げてあるので、こってりを凝縮したジャンキーさが美味すぎます。お口直しに青唐、追い味に藻塩と思われるものが添えてあるのでお好みで。
【食事】:まいたけ御飯
【止椀】:夏野菜の味噌汁
【香の物】:野沢菜、つぼ漬け
舞茸の薫りは前に出すぎず品がある御飯はホカホカ提供です。野沢温泉を訪れて食べない日はない定番の野沢菜と、辛味・濃い味の大根つぼ漬けで更においしく。夏野菜の味噌汁は何が入っているのかとお箸をつけると、茄子!ここまでは分かります。緑のズッキーニ!これは珍しい合わせ方。抵抗はなく信州味噌に馴染んでいました。信州味噌は油物の後の胃にはやさしく滲みます。
【デザート】:桃のわらびもち
器を置かれるとえらく透明な餅だなぁと思っていると、実は味も透き通るような桃のゼリーでした。わらび餅はゼリーの下に敷いてあり、これが普段口にするような弾力のあるようなものではなく、しっとりもっちり絡みつく本物のわらび餅です。この餅にはかぐわしい桃が豊かに練り込みんであります。ゼリーも餅も甘味をひっそりと含ませ上品な夏の香りを感じる水菓子でした。
朝食
・リンゴジュース ・温泉玉子 ・焼きのり
・塩煮芋 ・わらびの煮物
・炊き合わせ(高野豆腐、スナップエンドウ、人参)
・サラダ(紫キャベツ、サニーサラダ、ミニトマト、胡麻ドレッシング)
・鯖の塩焼き、きゃら蕗
・源泉湯豆腐(人参、白葱、大根、昆布、ポン酢)
・なめこと豆腐の味噌汁 ・白米 ・野沢菜と梅干し
・はちみつのヨーグルト
スタンダードでありながらも地物の料理が並びます。酸味がなく甘味だけの濃縮リンゴジュース。温泉玉子は自家源泉で調理かな。この地域で高野豆腐の炊き物とは変わっています。凍み豆腐でしょうか。暖かく配され塩加減はやんわりと食べやすい。飯山の郷土料理「塩煮芋」や、源泉湯豆腐は温泉地ならでは。豆腐の硬さは木綿のようでありながら口の中では絹です。大豆濃厚美味で温泉街のお豆腐屋さんの物でしょうか。サバも温かく配され、ほっこりと白米も絶品の旨さで箸が止まりません。
まとめ
小さい頃から立派なお宿だなぁと思いながらも、いつもの定宿に泊まっていました。この年はお盆に遠出をするという雰囲気ではなかったので、お部屋の空きがありgotoも使えるということで予約。昭和の面影が残る古めかしいお宿ですが、館内は綺麗にしてあり懐古的な旅情を感じられます。食事は季節の物と地の物をしっかりと盛り込んで、白湯スープやタイ風茶わん蒸しなど変化球もあって飽きさせません。なにより自家源泉の湯量が豊富で千人風呂の大空間がやはり凄い。男女の入れ替えは1回なので、当日1回、翌日1回と2回入れ替えがあれば、うれしいなと思う次第。薬師の湯がダメというわけではないのですが、常盤屋旅館さんに訪れるなら千人風呂をぜひ満喫したい。
宿泊料金
お部屋によって値段が変わりますが、平日36000円~、休前日40000円~ぐらいかなといった値段帯です。極稀ですがセールプランを販売されているのを見ますが、通常はあまり安売りをされないお宿です。今回は2日前に急遽決めた旅行だったのでgotoだけの割引です。
宿泊日:2020/8
旅行サイト:じゃらん
プラン:じっくり煮込んだコクと旨味♪濃厚!特性鶏がら白湯スープの≪信州福味鶏≫つみれ鍋会席
部屋タイプ:≪限定1室≫10畳+ゆったり広縁【Bタイプ◇角部屋】
合計料金:44000円
goto割引:15400円
支払い料金:28600円
獲得ポイント:286P
おまけ
ここは野沢温泉メインストリートの大湯通り中心街を抜けたところです。常盤屋旅館さんは2分ほど歩いた先にあります。
先ほどの中心街を抜けた所にある「長野屋酒店」さん。ここの酒屋さんには本当にお世話になってます。一方的ですが・・・。その日、定宿で飲みたいお酒やおつまみをいつも買っています。
「最近のお世話になっています」はこれです。近くに「十王堂の湯」という大きい湯舟がある外湯があります。そこでじっくりと浸かってからの生ビールがたまりません!!
翌朝は温泉街のスーパーで生卵のパックを買って、天然記念物に指定されている「麻釜(おがま)」の傍にある足湯に急ぎます。
足湯は夜に賑わっていましたが翌朝は人気はなく。この後、すぐに村の方がこられて、足湯の大清掃が始まりました。温泉がこうやって守られているのは本当にありがたい。そして食材茹で釜もあります。
溜め湯浴槽が空になっていたので、買った玉子に源泉かけ直流しだ!!
ではなく、茹で浴槽へ10分ほど入浴させます。近くのお土産屋さんでウロウロしながら待つと出来上がりです。これを持って帰って、ミネラルたっぷりの温泉玉子を自宅でも楽しむことができます。割れてると日持ちしないので気を付けましょう。