明治2年創業、敷地内に2本の自家源泉を持つ住吉屋さんは、野沢温泉のシンボルである天然記念物「麻釜(おがま)」の傍らにあります。野沢温泉ではハイクラスのお宿でありながらも予約がとれない人気のお宿です。
住吉屋さんを訪れる前で遊んできた根子岳(ねずこだけ)の記録もよかったらどうぞ。
旅情
正面玄関に車を停めると男性の方が走ってきて、建物の目の前にある駐車場に停めて下さいとのこと。野沢温泉街は建物がひしめき合ってたっているので、駐車場が近いのは助かります。
流行り病のため、チェックイン時の荷物運びをお願いしない方も多くなっているそうです。自分らは荷物多めだったので大きなカバンをお願いしました。玄関の上がり框(かまち)は広く、赤絨毯が印象的なフロントスペースです。チェックイン時には検温、手指の消毒、専用の使い捨てスリッパを履いて、恐らく感染経路をたどるための身分証明の確認と、かなり厳重なコロナ対策です。長野県の指導か・・・。
玄関脇には飲泉所があります。野沢温泉は殺菌効果のある濃度の高い硫黄泉。飲泉に関して特に制限はありませんでした。野沢温泉の醍醐味でもある外湯めぐりのためのビニール袋の配慮もあります
さらに使用後のボールペンを、他のお客さんが持たないように、常に消毒されたペンが用意されています。館内の移動はマスク着用協力と、ここまですると安心して宿泊できます。コロナ渦以降のお宿でペンまで使用後に消毒しているのは見た事がないかも・・・。接触時間を減らすため簡単な館内の説明のみで、荷物の運びも部屋の前まで、詳しいことはお部屋に紙面で案内を用意してありました。
フロント横にはロビーが併設されてあり、こちらは湯上り用の冷水が用意されています。ソフトドリンクや生ビール等も有料ですが飲めます。
ロビー脇には大浴場の入口があります。
フロント奥には売店があり、小物、お土産用のお菓子や野沢菜など、いろいろ置いてありました。住吉屋さんの歴史をたどる写真も展示されています。
宿泊部屋は2階より上階にあります。玄関についてある階段を上がります。
4枚ほど窓戸が入りそうなスペースは全開放されています。びっくりするぐらい虫が入ってきません。緑が映え一枚画のように美しい。
上がりきって振り返ると、2階客室と個室のお食事処が並び、奥へ進むと別館への通路が見えてきます。
3階はすべて客室となっています。今回お世話になったお部屋は3階にありました。
3階のとある窓からは住吉屋さんの源泉が見えます。
2階に戻って別館への道がてら、生花を水に浸したシンクがありました。館内のお花はすべて生花なので活け待ちのお花かな。途中、かつては電話BOXであった所へ、芸術的な演出を施してあります。今の若い方には電話BOXといっても分からない方が多いか・・・。
さらに歩みを進めると蔵座敷と書かれた行灯(あんどん)があり、蔵を改築した団体さん?向けのお食事処があります。この先までが木造建築となっています。
ここからは鉄筋コンクリートの建物となっています。足裏の踏み心地が変わるのが分かります。
大広間だったと思われるところには、住吉屋さんのお宿をデザインした、宮沢さんという方の型絵染が飾ってありました。
別館のお部屋前にワンポイントの枯山水と、藤城清治さんの影絵の電光展示物がずらり。縁があったのでしょうか。
館内にはかつて住吉屋さんに訪れた、有名な方々の展示物がたくさん飾ってあります。
また、目の前には野沢温泉の名所である「麻釜(おがま)」がありロケーションは最高です。
お部屋
案内して頂いたのは「妙高」というお部屋です。
間取りは本間8畳+踏み込み2畳+広縁2畳+洗面+トイレです。住吉屋さんに泊まるなら汲格子天井の「妙高」と決めていました。館内では、できるだけ手を入れていない、最も古い面影を残すお部屋だそうです。
踏み込みには一般家庭にある小さなタイプの冷蔵庫。中は有料の飲み物が入っています。次の間には扇風機と安心のシャワートイレがあります。
用立てしなければチェックアウトまで、従業員の方がお部屋への出入りが無いように配慮してされています。感染予防の一環です。なので、あらかじめお布団が敷かれてあります。お風呂あがりにゴロゴロしたい方には最高です。
基本はお茶セットの入れ替えはないので冷蔵庫に500mlのお茶ペットボトル2本無料で入れてあります。また、座卓には住吉屋さんの源泉が入ったお銚子も置かれてありました。焼酎で割って呑むとなかなかに美味しい。
広縁からの眺めは温泉街ビュー。消毒して厳重に拭き上げておられるのか、お部屋は塵1つとないピカピカです。相方がすごく関心していました。
アメニティ類に不足はなく、お茶セットや冷水の入れ替え・追加は「お申し出下さい」とのことでした。
お風呂
住吉屋さんのお風呂は男女別の浴場が1ヵ所ずつです。男女入れ替え制になっていて大きな浴場には露天風呂が併設されてあります。ツルツルとした肌触りの泉質はナトリウム-カルシウム硫酸塩泉となっています。外湯に比べると硫黄(硫化水素)の香りは優しく感じられる超微量の塩酸味。そして、源泉が90度近くあるのに自家源泉100%源泉かけ流しです。
風で冷ましていると公式HPにありました。源泉を実際に見に行くと上からお湯を流して、互い違いにした枝の上に落とすことで、効率よくお湯が空気中に滞在するようにしてありました。受け口の外へ溢れ出す量も相当です。もったいない・・・。
大浴場
ステンドグラスが特徴の、レトロ感がある住吉屋さんの湯屋はノスタルジー。
濁りはなく無色透明な湯は新鮮そのものです。懐古的な丸タイルが張られた湯舟は、画像で見るよりも湯舟は大きく角に4人は入れそうな大きさです。
なんとも趣きのある湯屋は湯舟以外のスペースも大きい造りです。シャワーの数も少ないですが、部屋数も多くないので混み合うことはなく。
源泉の投入量は多くはありませんが、お湯は常に新鮮な状態が保たれていました。ゆるりと溢れ出すお湯は最高の演出です。かけ流し口には1合升があり飲泉ができます。
浴場の端には謎のスペースがあります。左の社殿のような所には「源泉」の文字が。床に置かれた升(ます)のような物からは湯気が上がっています。これも冷却装置の1つなのでしょうか。この源泉は熱すぎるので直接注ぐのではなく、1度外へだして裏手にある冷まし湯装置で冷ましてから浴室内に再度引き入れているのだそうです。加水をせず自然に冷ますという、源泉を楽しむにはありがたい手間です。
源泉の反対側には露天風呂へのアプローチ。おもむろに窓から表へ出ます。
少し手狭な露天風呂ですが、源泉の温度が高いので屋外での露天もなかなかにいい。内湯に比べると「ぬる湯」となっているので入り易い。
小浴場
お隣の大浴場と天井で繋がっている小さな方の浴室です。
反対側の浴場に比べると2/3ぐらいの大きさです。注がれる湯量は同じぐらいのなので、湯使いはこちらの方が贅沢かもしれません。
こちら側には露天風呂は無く湯舟が1つとシンプルです。お隣の浴場に比べると光が入りにくいので、しっとりと落ち着いた雰囲気です。お隣の大浴場にも人はおらず、源泉のかけ流しと溢れ出しの音だけの静寂の空間は至福の時間です。
事前の調べではバスタオルが脱衣所に用意してあるようです。今回は脱衣所にはバスタオルはなく、感染予防のためかお部屋に2枚用意してありました。脱衣所には化粧水、綿棒、髭剃りなど備品は完璧です。
野沢温泉街には13ヵ所の外湯があり、それぞれ源泉も異なります。温泉好きな方だけでなく、外湯をぐるっと回ると温泉街を周遊することになるので散策にも最適です。
お料理
朝夕共にこじんまりとした個室でいただきました。真夏なのに日が下がり始めると暑さは感じることなく扇風機で涼を感じます。
お料理は郷土の田舎料理でありながらも、とても丁寧な味付けに新鮮な地の物をふんだんに盛り込まんであります。まさに上信州の食材で彩られた宝箱のような会席料理を味わうことができます。
献立は頂いたお品書きをもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
【食前酒】:梅酒
地産の梅酒でしょうか。やや甘味が強く酸味は程よく吞み口はフルーティ。氷を一片浮かべて冷たく。
【郷土料理取り回し鉢】:塩煮芋、芋なます、野沢菜
塩煮芋は油を絡ませて砂糖と醤油で炊いた物です。砂糖しょうゆの飴を沁み込ませたような一品。冷めてもジャガイモのほっくり感があります。 芋なますはジャガイモなのですが品種が流通した芋とは異なるそうで、5時間水にさらすとデンプンが抜け落ちて真っ白になるとか。これをサラダオイルで軽く炒め塩と酢で加味したものです。 そして、お酒が進むしかない自家製でしょう。美味い野沢菜。
【先付】:
①錦糸瓜胡麻和え(椎茸、オクラ、枝豆)
②信州産合鴨ロースト(粒マスタード、黒胡椒)
③穴子八町胡瓜巻き(海苔)
④フルーツトマトとクリームチーズ添え・焙煎玄米
⑤もろこし豆腐(つる紫)
①黄色い変わった瓜にはごまダレを合わせてシャキシャキしています。これに下味を付けたシイタケに、筋目を入れたオクラをあしらってあります。 ②合鴨は旨みが濃縮されており、弾力のある肉質は噛めば噛むほど旨味が沁み出し美味。マスタードと胡椒で洋風に仕立て。 ③調べてみると八町胡瓜(はっちょうきゅうり)とは信州の伝統野菜なんだそうです。食感と酢は柔めの酢飯に穴子と巻いてあり酸味のない上品なマヨネーズで加味。 ④しっとり甘味のあるトマトにサッパリしたクリームチーズをトッピング。そして、玄米をローストしてすり潰したソースを回し掛けてあります。このソースがコーヒーのような焦げ美味さがありデザート感覚の一品。 ⑤トウモロコシを擦り流し状にしてゼラチンで寄せたものかと。トウモロコシを茹でて甘みを最大限にしてから固めているのか極濃厚。彩りにつる紫とクコの実を添えて濃い口醤油に浸してあります。
【向付】:信州サーモン、岩魚洗い(妻一色、マイクロトマト)
信州サーモンはトロリとした舌触りに、鮭とは違う脂が少なく紅身の甘味が濃い。岩魚は洗いとあるが、コリコリとした食感よりも、これもコリトロっとした噛み心地で川魚の臭みはなくイワナの風味が締まっています。身振りも大きく2人で1匹という贅沢なボリューム。しっかり甘みが効いた「たまり醤油」で加味します。つまにはマイクロトマトで夏の赤をとり、イワナには紅芯大根、山葵、紫蘇花、大根けん、大葉を。
【煮物】:夏野菜と鰻の炊き合わせ(夏大根、隠元、コリンキー、冬瓜、青柚子)
どっしりとした椀に、ちょこっとかわいらしく盛られた夏野菜。夏大根らしく歯ごたえはしっかりとありながらも箸で割けるほどに柔く炊いてあります。トウガンとありますがご説明では「ヒルガオ」。ヒルガオ科の仲間を総称してそう呼んでいるのかな。こちらもやんわりと甘醤油味に炊き、塩茹でインゲンと共に大根に乗せてあります。その後ろに煮鰻が配されトップに生で食べれるカボチャの仲間、コリンキーの細切りをあしらってあります。浸し出汁は大根を炊いた昆布ベース?これに鰻の脂が滲み出て風味が豊かになります。これを振り柚子で夏らしく味を締めてあります。
【油物】:小布施丸茄子挟み揚げ(鮎、大葉、モロッコインゲン、美味出汁)
小布施でとれる特産の丸茄子は皮が厚くなる部分を落とし、薄切りのアユと大葉を挟み込んで天ぷらにしてあります。
火の通りが絶妙で茄子に鮎脂がゆるりと入り、茄子の甘さが出てると思いきや茄子のキュキュとした食感も残してあります。揚げることでタンパクになった鮎と爽やかな大葉のコラボが夏を再現しています。これにそびえ立つモロッコインゲンを添え付け、しょう油とみりん、ほんのりカツオの天つゆで。ほんのり加減がまた茄子が引き立ちます。
【強肴】:信州牛グリル(ともうろこし、花ズッキーニ、甘唐美人、パプリカ、マイクロきゅうり、トレビス)
野菜とお肉が宴会しているようなワンプレートの登場です。夏らしくお膳の中身はすべて冷菜になっている珍しい物。
信州牛はロースでしょうか。にしては赤身が多くタンパクでフィレ?たたきのようにレアで仕上げてあり下味に微塩味。冷えていても全く気にならない肉質に和牛の脂は口の中で融解し熟します。これにピンクペッパーでアクセントと彩り。トウモロコシやズッキーニは塩を振ってあり、目の前の麻釜(おがま)で茹でたものか。
味付けは粗塩のワイン塩、山葵、お口直しのマイクロきゅうりとパプリカの甘酢漬け。マイクロきゅうりという品種があるそうで、キュウリというよりは瓜そのものです。
【留椀】:信州味噌仕立(なめこ、白シメジ、三つ葉、小葱)
【御飯】:野沢産こしひかり(夏のご当地味 やたら漬)
巨大なナメコがはいった塩が優しいお味噌汁は胃袋を癒してくれます。 野沢産のコシヒカリに、ミョウガ、ショウガ、大根などを醤油で漬けた「やたら漬」という信州の地料理を混ぜ合わせてちょうだいします。「やたらとうまい」という理由からネーミングされたそうです。住吉屋さんの「やたら漬」は長野特産の「ぼたんごしょう」という唐辛子を使用しているんだとか。ピリ辛です。この「ぼたんごしょう」道の駅に売ってあったので買って帰って料理しましたが、なかなかに曲者です。
【水菓子】:蕎麦プリン、シャインマスカット
口に頬張ると香ばしく薫る蕎麦に、プリン地はまったりと舌に絡みつきます。濃密でトロトロの黒蜜は、焙煎した蕎麦の実と融合しています。
蕎麦の焦げ香ばしさが足された黒蜜は、プリンに一層濃く深みが増し濃密、蜜、蜜・・・。。上信ではシャインマスカットの畑をよく目にします。糖度が高く蕎麦プリンの黒蜜に負けない上品な甘さで、最後はサッパリとして、ごちそうさまです。
朝食
夕食と同じく郷土感が詰まった、野菜を中心とした品数の多い朝食です。
・郷土料理2品(ゴボウの煮物、ジャガイモカレー和え)
・温泉玉子
・ナスの出汁煮
・焼鮭、昆布とエノキ野沢菜の佃煮
・飯山産サラダ(ケール、紅芯大根、パプリカ、ズッキーニ、トレビス、紫タマネギ、
和風タマネギドレッシング)
・八町瓜のしょう油味噌
・白米
・お味噌汁(揚げ、麩)
・香の物(野沢菜わさび風味、梅干し、野沢菜炒め)
・トマトジュースor牛乳orリンゴジュース
・ブルーベリーヨーグルト
郷土料理の一品はとても柔らかく炊かれた優しい土風味のゴボウと、夕食同様にジャガイモなますを使ったピリ辛のカレー和え。ナスはお出汁で炊いてあり醤油を敷いて辛子を薬味に添えてあります。タップリ生野菜のサラダは野菜不足になる旅先ではおいしく。焼鮭はホクホクの熱々焼きたてで配してくれます。お味噌汁はまろやかな信州味噌。ツヤツヤの白米は野沢産でしょう。どれも美味くご飯が止まりません。ブルーベリーヨーグルトも甘味を足さずに自然の味そのままのようで最後まで丁寧な自然の味でした。
まとめ
野沢温泉には長年スキーで通い詰めていましたが、他のお宿を利用したのは始めてでした。良いお宿だという噂は聞いていたので、いつかはと思い念願かなって泊まることができました。こじんまりとしたお宿の雰囲気は申し分なく、コロナ渦でありながら不便不足はないサービス。何度訪れても野沢の湯は入浴しやすく、自家源泉のまろやかな硫黄泉は最高です。料理も郷土感はしっかりと出しながらも、丁寧で上品に仕上げてあり創作性も素晴らしい。定宿も良いですが、是非再訪したいお宿になったことは間違いありません。
宿泊料金
通常、宿泊予約サイトでは、あまり売りに出されないお宿です。それぐらい人気のある常連さんのお宿で公式HPや直接予約が主になるのではないかと思います。今回はgoto利用なので参考までに。
宿泊日:2020/8
旅行サイト:Yahooトラベル(一休)
プラン:【源泉かけ流し100%】自家源泉の湯・旬彩会席料理・郷土料理「取り回し鉢」を楽しむ。
部屋タイプ:「妙高」(本館3階・和室・トイレ付)
合計料金:58080円
ポイント即時利用:1885p
goto割引:20328円
支払い料金:35867円
獲得ポイント:358
おまけ
外湯の筆頭でもある「大湯」に入りにきました。
お風呂上りにお隣の路地にある「里武士(りぶし)」さんへ。
毎年2回は訪れる野沢温泉。温泉街にあるお目当ては野沢温泉の湧き水で作ったクラフトビール。訪れたら最近は必ず向かう場所の1つです。湯上がりのビールはやはり美味い。
休前日には朝市をしていることもあります。朝にしか買えない商品なんかもあるようなので、早起きができる方は見に行かれるといいと思います。