日頃の疲れが溜まると、美味しい食事と静かな空間に身を置いて、ぼんやりとしたなぁという気持ちになる・・・そうすると必ず行きたくなる八ツ三館さん。若かりし頃、八ツ三館さんに初めて訪れる前までは、日帰りの秘境・秘湯・源泉巡りをしていました。温泉qualityの旅から一変。機会があって八ツ三館さんに宿泊してからは、お宿巡りの旅にハマってしまいお金がないww ある意味ではブログを開設する起源となったお宿でもあります。日頃の疲れから2年半ぶりに何も考えず6回目の予約をすることに。
おおよそはこれまでの宿泊と全く同じ内容だったので、前回の記事に目を通して頂ければと思います。今回も初めてに泊まったかのように記事を纏めておりますが、前回の宿泊とは数点異なるところがありました。
・お風呂に日本酒がない。
・休憩処のデトックスウォーターがない。
上記二点だけは流行り病の為、お休みとなっていました。風呂のお酒が恋しや・・・最速の復活を渇望いたします。
旅情
前記事を見て頂くのが手っ取り早いですが、これまでと同じように今回の記事は少しイメージを変えて夜version。八ツ三館さんは荒城川の土手沿いにあり、川の流れのサウンドを背景に夜のライトアップでは賑やかな宴会が開かれていそうな様相です。
お宿の前の土手道は一方通行で車がようやく一台通れる広さです。これまでと同じ様に門の前に車を寄せると「おかえりなさいませ」と出迎えて下さいました。八ツ三館さんはいつ訪れてもおもてなしのホスピタリティに変わりはなく、気兼ねするような感じでもなく居心地のいいstayが約束されています。毎度変わらないお出迎えにむしろ安心すら憶え本当にありがたい。
初めて往訪した際は若かったこともあり、高級旅館に縁のなかった自分は、この飛び石のある玄関と有形文化財の高級な立て構えに緊張したのを往訪する度に思い出します。
客室数からすると大きくとられた玄関。重厚感のある格子天井も何度来ても見入ってしまいます。
上がり框上には高座の皿を使ったクリスマスツリーのオブジェ。ある意味では美術館のようなあつらえです。
ツリーの足元には菊花とトルコキキョウ、カーネーションが活けられていました。もちろん生花です。
玄関を上がって前回と同じく画像右の赤絨毯の応接間でウェルカム茶をちょうだいしました。
このお部屋だけは館内の中でも色濃い大正浪漫の洋間です。
ウェルカム茶はこれまでと同じ抹茶。お茶請けはカステラで真ん中に栗羊羹を挟んだシベリア菓子でしょうか。一口茶菓子は自家製なのでしょうか?今回も丁寧至極。
丁度、飛騨市のキャンペーンもやっていたようで市内で使える5000円分のクーポンまで頂きました。せっかくなので飛騨古川でお金を落とそうと、飛騨古川白壁の街並みにある酒屋さんで日本酒を買って帰りました。gotoのクーポンも古川の酒屋さんと八ツ三館さんで地元還元しました。いつまでも残って欲しい街並みとお宿に使いたい。
訪れたのは師走。テーブルには「さるぼぼ」と同じような縫製で作られたクリスマスツリーが置いてありました。他のお宿でもこういう演出を見ることがありますが、八ツ三館さんは館内の至る所で季節の小物を見ます。何度も訪れて飽きないのは料理だけではなく、季節の飾りと生け花に変化を持たせて目を楽しませてくれるという、他のお宿にはないキメ細やかな「装飾」という御もてなしがあるからだと思います。風情・詫び寂びの演出がとにかく素晴らしく大好きです。
洋間「鹿鳴」の前にはフロントがあり赤矢印に休憩処や観月楼の客室があります。
水色矢印がロビーです。黄色がお食事処と観月楼への道、オレンジがお風呂です。
ロビーに当たる玄関背面のお部屋。初めて訪れた時にはここで喫煙もできたという時代を感じます。ここにもクリスマスの飾りがたくさんありました。タイミングに依るかと思いますが、一度だけチェックインのウェルカム茶をここでいただきました。それ以外は全て大正間「鹿鳴」でのチェックイン。
浴場方面を見ると左手にお土産処、奥右手には2つ目のロビーがあり、さらにロビー2の前にはBARカウンター。
藏をお土産処にしてあります。八ツ三館さんのオリジナル商品や郷土の物などラインナップ多彩です。飛騨牛1頭買いは今でもされているのか、飛騨牛のお土産も買うことができます。
ロビーもこれまでと雰囲気は同じです。
奥には暖炉があり無料のパソコンコーナーも健在。
文化財らしく古めかしい木造家は天井がとても低い。読み物もありますが人を選ぶようなタイトルが多い。
これまでになかったのがロビーには冷蔵庫が置かれていました。ミラクルジャパンな感じで利用は自己申告制です・・・差し出がましくも自動販売機にしたほうが分かり易さはあるように思いますが・・・。
ロビーの奥は大浴場への廊下が伸びています。
ロビーまで戻り観月楼方面へ足を勧めます。
鉄筋コンクリート造の建物は玄関棟から入ると足元の感触が変わるのですぐに分かりあます。休憩処のレモン水は無くなっていましたが、無料のマッサージチェアはこれまで通り。
何回目の宿泊だったか雪の積もったこの庭をハクビシンが横切ったのを思い出します。
2階より上階は観月楼の客室があります。観月楼は記事をしたためた時点での公式HPでは、和テイストはそのままに現代に倣ったリフォームがされたお部屋に生まれ変わっているようです。
1階観月楼の奥には特別室の光月楼のお部屋が4部屋あります。
お料理が大きく変わるわけではないと思うので、プライベート空間代をけちって観月楼での宿泊が多い我が家。
玄関に戻って脇にある階段を上っていきます。
代り映えのない大広間の景色に安堵する。いつまでも残っていて欲しい情景です。一画で済ませましたが、この広さに柱のない構造や、一本木の梁などこだわりの建築となっています。そういえば・・・建物自体は大掛かりではないですけども、文化財の館内ツアーとかあってもいいのではと想う。
玄関棟も文化財ではありますが、フロント反対側にある客室である招月楼も有形文化財に指定されています。こちらはフロントから招月楼へ向かう廊下。
細い廊下が伸びその間に装飾物の展示があります。
中でも一枚絵の金屏風なのか襖なのか、かつては客間で使われていたのかと思います。ガラスのショーケース展示で大事にされておられます。
奥には朱塗りの壁が現れ、右には個室のお食事処、左手には貸切風呂がある小道。清掃が行き届いて、季節小物の展示があり埃の1つもないきめ細かい手入れ。どこもかしこもクリスマス仕様。
朱壁の廊下の天井は網代にしてあり、これまでの宿泊では気にもしなかった部分もあり、他のお宿で見て来たことで目が肥えてきているのか新しい発見も多く。
朱壁を抜けると囲炉裏が見えてきました。ここからは文化財である招月楼の棟となります。木造家ですがエレベーターもあるので足腰が不便な方も利用できるようになっています。
木造に後付けでエレベーターって恐らく最も費用が掛かる工事じゃないかと・・・そういえば初めて訪れた時からある招月楼のエレベーターは、メンテナンスから建築基準を満たすのにも大変なのではと想う・・・
招月楼はもともと一軒家の豪商・豪農を移築したと、どこかで見たか聞いたか。本館から招月楼に続く雰囲気は、これまで泊まった宿の中では最も好みです。古風を満喫したい自分にハマっているのでしょう。
「あぁ野麦峠」という1980年の映画で八ツ三館さんが撮影に使われたという記録があります。何年前だろうか・・・初回宿泊では「あぁ野麦峠」が永遠とロビーで上演されていました。時節は変わり当時の移ろいは分かるものはなく転換期なのかもしれません・・・
招月楼には、かつての玄関もそのままに残されています。履物も用意があり、ここから表へ出る事もできます。 余談ですが画像右にある階段下には火鉢が収納されています。さすがにこの現代では火鉢は火事の恐れもあるので使用はしていない。
この景色が最も好きです。かつての玄関は吹き抜けになっており、2階の廊下から見下ろせるようになっています。
人気のない1階のお部屋を覗かせて頂くと、個室のお食事処となっていました。
2階へ上がると吹き抜けを取り囲むように廊下とお部屋が囲んでいます。
かつては欄干だけだったのか、今は安全上の問題もあるのか窓が付いています。窓は可動するので下を覗くこともできます。
2階は客室とエステ・マッサージルームがあります。客室数も数部屋で観月楼などから見学に一見しに来るお客さんはいますが、基本的には招月楼のお客さんだけしか利用しないので、物凄く静寂な落ち着いた空間が約束されています。
お部屋
案内して頂いたのは文化財棟である招月楼の「恵比寿」というお部屋です。いつもは観月楼。お値段もそこまで変わらないのですが、予約サイトによっては指定できないこともあり、6回目にしてやっとこさ招月楼に泊まりました。
間取りは本間8畳+囲炉裏間4.5畳+広縁5畳+踏み込み+洗面トイレです。
引き戸を開けると2畳の細い廊下が付いた変則的なお部屋です。
何が変則的かというと廊下奥に2段の小上がりがあります。
階段の先には囲炉裏以外何もない茶室のような雰囲気です。
間取りが特殊なので、このお部屋もともとは、「恵比寿」のお部屋に組み込まれていなかったのかもしれません。文化財とするには基準があり申請は大変だそうですが、ある程度の手入れに関しては面倒ながらも届け出をして許可があれば建物を改装できるそうです。
振り返ると4枚の漆塗りの板が埋め込まれています。螺鈿細工のようにも見えるが実はそうでない、やけに立体感のある菊の生け花が描かれており、もともとは衝立?のパーツだったと想起されます。
毎度毎度、囲炉裏に炭をお願いすると、熱せられた状態で持ってきてくれます。煙が全く出ない炭は上物か? 燃え尽きるまでは持たないほどのqualityの炭だと、毎度毎度の八ツ三館さんで火遊びをしている相方の言葉。
本間は羽目殺しの障子に何やら文字が一杯入って物が張り付けられています。
書院、床、違い棚があり・・・床脇に日本刀!?が飾ってありますが?
金さん、暴れる将軍よろしく、紐を解いてみましたがレプリカでしたwww
襖に張られた書は全く何が書いてあるか自分ごときには全く分かりません。下画像では「〇冊」とあるので書物の保存記録を示したものか。
違い棚には「茶香」が炊かれ、床の間には季節の生花が活けられています。八ツ三館さんよりもハイクラスのお宿でオールインクルーシブ、冷蔵庫フリー、おやつフリー、etcという物理的「サービス」はいくらでもあります。これは自分的な感覚ですが、日本らしい季節感を忘れない花や装飾など、古い建物故に不快感がないように香を焚くなど、いつ訪れても変わりのない「おもてなし」や気遣いという点では八ツ三館さんを超える宿はなく、6回訪れて館内全てにおいて、くたびれた生花や清掃の不備を見たことがないのは八ツ三館さんだけです。
天袋は豪華に金箔が張られ、八ツ三館さんのシンボルをあしらわれた瓢箪型の取っ手。八ツ三館さんの為に作られた取っ手なんでしょうなぁ・・・。他では使えませんもの。観月楼とは明らかに違うこしらえのレトロ感がたまらない。
螺鈿の文机?小物置き?いつ頃の物なのか。ここまで細かい装飾をする職人さんは今では存在するのか。現実的にはお金にならないと職人さんも頑張らないわけで・・・伝統文化って難しい。
張りには満面の笑みの「えべっさん」。関西人的に言うと、儲かってそうで宜しいなぁという笑顔。
欄間に掘られているのは清州城か郡上八幡城か。
襖の向こう側はお隣の「大黒」のお部屋です。といっても、襖一枚ではなく壁を増設してあり襖や欄間は演出の1つとなっています。もともとは、とても大きな続き間だったと想われます。
訪れた初冬の広縁は寒い!!木造旅館なので寒気が直に感じるので当然です。なので、石油ストーブが置いてありました。情景は最高潮。
窓からは夜になると、川を挟んだ本光寺さんのライトアップを臨みます。
飛騨漆器である丁度品の水屋棚。以前は緑茶とほうじ茶の香りの良い2種の茶葉が用意されていましたが、緑茶と粉末の昆布茶になっていました。流行り病の影響ですなぁ。冷水もあらかじめの用意です。
引き出しにはお裁縫道具と爪切り。
今は窓がはめられた広縁ですが、かつては濡縁でしょう。当時の資材としてはたらしくリフォームが成された欄干ですが味がある。
広縁からは赤矢印に洗面とトイレがあり、冷蔵庫も書院裏手に置いてあります。
冷蔵庫は空でお好きな物をどうぞというご案内。
水回りは、九谷焼の朱の洗面と最新式の洗浄トイレです。洗面台には抜かりのない備品。
鍵は2本で「心ばかり」と頂いたのは絵葉書でした。浴衣もこれまでと変わらず2枚、夕食中のお布団敷でお茶セットと冷水の入れ換えに、夕食時にトイレ清掃のサービスもあるのは八ツ三館さんと「おちあいろう」さんだけです。
朝刊の差し込みもあり、チェックイン時に銘柄を選ぶことができます。
飛騨市のクーポンに加え、館内利用券が付いたプランだったので、売店で最高級の八ツ三館さんの自家製米を買って帰りました。お米のトロですわ。
やけに立派なお札のようなクーポン券は発行日が昭和となっていました。昭和の時代から館内利用券が使われていたんですなぁ。しかも保存状態がやけにいい。
お風呂
八ツ三館さんでは「せせらぎの湯」の内湯のみ温泉で、宿泊日と出発日で男女入れ換えとなっています。公式HPでは流葉温泉からの運び湯となっており、温泉好きには少々物足りないかもしれません。しかし、完全循環型でありながらも、消毒臭は感じられずツルツルとした浴感はしっかりと残っています。泉質は低張性アルカリ性低温泉となっています。
浴場前には敷地内から湧く天然水のウォーターサーバーが置かれています。
内湯以外の浴槽は飲料水と同じく地下水を加温した天然水風呂です。
せせらぎの湯 その1
ジャグジーにより内湯は湯気がよくこもり、湯屋は湯気を逃がすため天井を高くとってあります。
入り口すぐ横にある季節の湯舟は檜が浮かべてありました。
奥にあるのが温泉が使われた湯舟で内側と循環湯の注ぎ口には温泉成分が付着しているのが分かります。2019年に訪れた時は、過去に往訪した中では最もツルツル成分が強かったが今回はややマイルドな感じです。 夜間はジャグジーが止まっていました。
露天風呂へ向かうと・・・
(*´ω`*) <八ツ三館さんの露天風呂には日本酒が置いてあるのも楽しみの1つ。
(°д°) <あれ!?酒がない!!
これまでの宿泊では露天風呂前にこのように酒が置いてあったのです。
(´・ω・`) <コロナ下で公式HPでも休止とあったので仕方なし・・・
切に早期の復活を願う・・・
岩風呂には豪快な打たせ湯があります。
岩風呂に溢れ出しはないのですが、身体を沈めるとお湯が溢れ出ていきます。そして、溢れ出た分だけ新たに沸かし湯が投入されるようです。
岩風呂から振り返ると釜風呂があるのですが、蓋が屋根の変わりを務めています。
これまでは釜風呂は酒粕を沈めた「どぶろく風呂」でしたが酒粕はなく。岩風呂と同じく満ちて湯が張られているので、入るとお湯が溢れ出し、溢れ出した分だけ新しく湯が投入されます。
脱衣所には綿棒、ドライヤー、化粧水、櫛などのアメニティの備えは完璧です。
浴場入り口にフェイスタオルとバスタオルが用意されているので、浴場へは手ぶらで行くことができます。
せせらぎの湯 その2
「その1」とは反対側にありますが若干構造が異なります。大きく高く取られた天井は変わらず湯気を逃がす構造です。
季節のお風呂はみかん風呂。柑橘の皮に含まれる油成分が被膜となって保温効果が高くなります。初冬の柚子風呂に入るのは、その効果を期待しての物だとどこかで見たか聞いたか。
温泉が使われた湯舟はジャグジーが可動していました。その日のお客さんの入りなどにも依るのか湯のへたりが少ないのかツルツル感は結構残っていました。
「その1」側にはないジェットバス。私的には温泉効果を楽しみたいが、昨今スーパー銭湯に出向くことが無くなったので、八ツ三館さんで腰と殿筋をほぐす。
「その2」の露天風呂は内湯から直結となっており、温泉で露天風呂を味わえます。
露天風呂の1つに五右衛門スタイルの釜風呂があります。
女性タイムであれば薔薇が浮いているそうです。
厳冬期の「睦月」「如月」に訪れた時は簀の子は雪と凍結でカチカチになっていました。「その1」の浴場よりもこちらは、「温泉」に入りながら露天を楽しめるとこともあり、こちらの浴場の方が私的には好きです。
湯舟からの景色もこちらの方が開けて気持ちがいい。浴場のお酒のサービスも往訪日の19時までだった?ような、男性もこちらの湯舟で一杯やりながら入浴したいものです。
おしどりの湯
招月楼の手前にある男女別の「おしどりの湯」は地下水の沸かし湯です。時間帯によって貸切風呂利用となります。
アメニティ類の備えは完璧です。
冷水の用意もあり、貸切利用の度に入れ換えしているようです。きめが細かいサービス・・・。
男女別のおしどりの湯は画像の御影石と檜の2種があります。
おしどりの湯は八ツ三館さんのかつての大浴場だったのか。天然地下水の完全な循環湯なので私的には貸切といっても、それなら「せせらぎの湯」へと足が向きます。大浴場が苦手な方や、カップルやファミリーでプライベートに利用したい向けかなと思います。
浴場と脱衣所を挟んだ所には箱庭があり、四季の花のステンドグラスがはめ込まれ、その意図に首がもたげてしまいます。流石の八ツ三館さんでも迷走時期があったのかなぁ・・・。
湯舟には檜が浮いています。香りはほとんどありませんが、殺菌・抗菌作用があるともいいます。流行り病があった宿泊時には、その思いも込めてあるのかもしれません。
お料理
朝夕共に招月楼手前にある貸切風呂前の青矢印の個室でいただきました。これまでにもここで食事をいただいたことがあります。自分の勝手な想像ですが、意図的にこちらへ誘導されたと想われます。その真相は後程。
献立は頂いたお品書きをもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
小部屋に入るとこれまでと、同じように飛騨古川の銘品である和ろうそくで出迎えて頂きました。八ツ三館さんは大旦那さんが育てた自家農園の当日収穫新鮮野菜が料理に使用され、飛騨牛は一頭買いという贅が詰まった物を、二手間、三手間加え食卓に配してくれます。12月の献立はこれまでの季節会席とは一線を画するクリスマス仕様でした。恥ずかしくも「料理長さんは、変わられたのですか?」と聞いてしまうほどに献立に変化がありました。料理長さんの奥の深さを感じます。
テーブルには先付と八寸が用意されていました。食前酒は中央に別盆に見た事もない白い実が付いた生け花と共に置かれています。
【食前酒】:日本酒のカクテル
席に着いてすぐに運ばれてきたのは食前酒です。これまでも日本酒を使った変わったカクテルを食前酒でいただきました。今回もとても変わっていて酢とリンゴを地酒で割ったものだそうです。程よい甘味と酸味の中間がリンゴ酢と日本酒のフルーティコラボで絶品に仕立てててあります。その時々の食前酒カクテルを提供してくれるのも八ツ三館さんならです。知見が広がります。
【先附】:飛騨ほうれん草の玉子豆腐 帆立 フカヒレゼリー掛 松の実 くこの実 柚子 チャービル
豆腐とありますが実際は濃厚卵の蒸しケーキのようです。しっかりとした地なのに口の中では泡のようにふわりと解けます。フカヒレは醤油と合わせて寒天でゼリーとしてあり、一度乾燥させて戻したようで柚子皮との相性がこれまた良い。歯応えと彩りのアクセントに松の実、くこの実が映えさせています。
ほんのりと甘味があり、緑が濃いほうれん草を練り込んであります。寄せの様にしてありますが、ほうれん草の青味と卵地の甘風味がそれぞれに独立しており不思議。ほうれん草を一度蒸しか茹でにして、しっかりとほうれん草の汁を搾って水気を完全に切ってあるのだろうか。
【八寸】:①飛騨牛時雨煮飯蒸し ②フォアグラ照焼 ③唐墨真薯 ⑤人参松風 ④赤蕪チーズ寄せ ⑥雪輪蓮根
毎度お楽しみの八ツ三館さんの八寸。初秋の彩はどうでしょうか。 ②フォアグラは中にまで味が入っておらず塗り焼いているのかもしれません。まったりとした感じではなく意外に後口を引かず食べ易い。緑の付け合わせは飛騨ほうれん草のお浸し。 ③カラスミを白身魚のすり身である真薯で纏め上げた物です。筒のように固めて輪切りにしてあるのか円になっています。カラスミ味は熟されているが、とろけそうな柔さも味に一興をさしています。2枚盛りの間にはラデッシュの種であるレディース大根を挟んであります。 ④飛騨の名品である赤カブですが、チーズで寄せてあるので洋風のピクルス風かと思ったら大間違い。ガチの和漬物でした。口に入れてみるとクリームチーズ風味とがっちりハグしており、酸味発酵物同士で仲がかなり良いみたいです。 ⑤ニンジンを松風にしたものです。濃いピンク色と甘さを呈しており、小麦粉を使っているのか口当たりは洋風なニンジンケーキでふわふわです。 ⑥雪輪蓮根は雪の結晶に見立てたお品です。あらかじめレンコンはお出汁や緩く醤油で煮て下味を付けてあるようです。そして、白い粉の正体は・・・何も入れず小麦だけで焼いたパンを砕いたパン粉ではないかと思います。儚いくちどけです。
①毬小鉢に入っているのは甘醤油で炊き、しぐれ煮との相性のよい葉山椒を添えた一口もち米牛丼です。前菜で手毬寿司等はありますが極少牛丼は初です。米が乾かないように出してくるところも流石です。
【お椀】:宿儺かぼちゃ豆乳仕立て 白玉団子 イタリアンパセリ
熱々で配された椀の蓋を開けると見た目は正にポタージュ。すくなカボチャは飛騨の伝統野菜の1つで、見た目は瓜のようだが中身はカボチャという変わった野菜です。
スプーンを入れてみると中には2つの白玉が入っており、白玉粉だけではなく米粉も一緒に練ってあるのか、食感は餅そのものだと言うのに、歯切れは白玉という何とも悩ましい。スープはカボチャの自然な甘香味を擦り流しにして強すぎず、豆乳で仕立てることでまろやかに包んであります。
【造り】:天然鰤 鮪 飛騨とらふぐ
7㎝ぐらいある高台の足のある盃様の器は八ツ三館さんでは初めて目にします。
旬の物、定番の旨い物、地物の3点盛りです。
海の無い岐阜でトラフグ?飛騨には陸地にトラフグの養殖場があり、塩分濃度を薄めた飛騨の天然水で育てているそうです。海の物に比べると白身味が強く甘味があり明らかに海の物とは違うのに歯応えは完全に「てっさ」。八ツ三館さんの定番フグ刺しは、酸味程よいやさしいジュレポン酢で。
天然ブリは旬始まりの寒ブリでしょうか。ゴリゴリとした歯応えがあり、焼きが強すぎないタタキにしてあります。旨味を閉じ込めて薬味は大根おろしに貝割れ、蓼でさっぱりと食します。 マグロは美麗なサシの入った中トロです。和牛と同様に口の中でしっかりと噛み進めると深みが増します。口に引っ掛かるものはなく究極と言いたいが一歩下がった極上の中トロです。醤油ははこってりてりの濃い口たまりを。
【焼物】:鰤柚子味噌田楽 朴葉焼き
まるで4枚の皿を斜めにずらした重ねたようなお皿に盛ってあるのは、やはり旬始の寒ブリがきました。青魚らしい少しクセのある特有の臭いは、ほとんど感じない良品新鮮。ブリらしいしっかりとした筋肉質ではなく、ふんわりとした緩さがありタンパクな落ち着いた品のある火加減仕上げで瑞々しさがないわけでもない。一度蒸して無駄な脂を落としてから朴葉でゆっくりと焼いてあるのでしょうか。柚子味噌は柑橘独特のエグさや酸味は全くありません。柚子の薫りだけを西京味噌に残してあり、丁寧に仕上げたブリを引き立てています。添え付けの滋賀県伝統野菜の日野菜かぶの微甘酢漬け、菊花大根は強甘酢漬けと、添え付け2品にしても味付を変えてくるという仕事ぶりです。
ここで唐突に大旦那さんの口上が始まりました。貸切浴場前で夕食を頂いた際には必ずと言っていいほどにあった大旦那さんによる八ツ三館さんにまつわる口上。これが中々に面白く聞き入ってしまう。が、他のお客さんにはハマりが悪かったようです・・・
前回の2019年に宿泊した際には、すでに大旦那さんの口上は無くなっていました。かつては旅の思い出であったイベントも、現代では受けも今一つと・・・。アンケートで大旦那さんの口上が無いのは寂しいと書くと、今回の宿泊では、意図してかどうかはわかりませんが、わざわざ我が家の部屋前で語り始めた新鮮野菜を育てている大旦那さん。八ツ三館さんの計らいだと私的に勝手に思う素晴らしいホスピタリティ。安く泊まれる時にしか行かないのに、リピーターを大事にしてくれているのには本当に頭が下がります。
口上の終わりに「流行り病で八ツ三館の経営が大変だから、どんどん泊まりに来て救って下さい(正確な語りではありません)」という件りがあり、失礼ながらも大笑いしてしまいました。
微力ながらも救いの手で翌年の2022年9月にも再訪したので、その時の記事はいづれ。
【強肴】:飛騨牛ミニステーキ クリスマス島の塩 山之村寒干大根 発芽にんにく
大旦那さんの口上も終わり、お腹がいいころ合いになってきた頃に、メインディッシュの飛騨牛が配されました。 発芽ニンニクは土を使わない水耕栽培で、根っこごとまるっと食せます。水耕にすることでニンニクの臭みを抑え、素揚げで火を入れてホッコリと仕上げニンニクの上品な風味だけが残ります。彩りには黄赤パプリカ、箸休めのロマネスコとベビーリーフ。
寒干し大根とは、冬の寒気によって軒先で一度干し冬大根の旨味を凝縮させた物です。それを醤油出汁で炊いて、大根の芯まで出汁を沁み込ませてあります。干されることで出汁の入りも良く濃縮され繊維質もしっかりとしているが、箸で軽くつかんでもゆるゆると沈み込む柔さ。
八ツ三館さんの飛騨牛に間違いはありません。赤身のしっかりとした噛み応えがあるかと思いきや溢れ出る牛脂は最強です。ヒレにも感じるしロース寄りとも言えるお味。八ツ三館さんでステーキをいただいた際は特製ソースでしたが、今回の味付は本山葵と塩です。クリスマスが近いということもあり、オーストラリアのクリスマス島で獲れるミネラル塩を使用しているそうです。
【揚物】:蟹玄米揚 のどぐろ馬鈴薯揚 海老芋唐揚 飛騨葱おから揚 ししとう
タコ焼きを包む竹皮のような折り目の入ったお皿。竹皮のような物で包んであった物を今まさに開いたと言わんばかりの様です。5種の揚げはすべて衣が異なるという何という手の込みようでしょう・・・
最近はどこもネギの品種改良が進んでいるのか、各地で色々なブランド葱を目にします。飛騨ネギはトロっとした甘味が強く、おからを衣にすることでコクに深みを増しています。 エビイモは六方剥きにして粘りはほとんど感じないホックホックの中身にサクサクの唐揚げです。 下にはクラッシュ玄米を衣で揚げた蟹足はとてもポン菓子のような香ばしさがある一品。このカニ足しっかりと揚げてあるので殻まで食べれました。ただ、歯が頑丈な方限定ですw ノドグロは一夜干しにしてあるのかジューシーというよりは旨さを濃熟してあり、ジャガイモを乾燥させたポテトフレークの衣はノドグロの脂と合わさるとちょっとジャンキーな感じで裏の顔が出て美味い。
味付は八丁味噌から作った味噌塩パウダー。最初はコクがあるが、紫蘇ゆかりも混ぜ込んであり後口がさっぱり。揚物単体に素晴らしい素材の味があるので、このパウダーは不要にも感じます。ただ、このパウダー単体でも美味しすぎるので、白米の配膳まで取り置きました。
【酢の物】:鮟肝ポン酢餡 ヤーコン梅酢漬 ディル
アン肝はよくあるコッテリまったりと口に残る物ではなく、さっぱりすっきりだがアン肝の味わいはしっかりと堪能できます。ポン酢餡は酸味の主張は控え、白菜は薄味お浸し、ヤーコンの梅酢も薄味で、酢の物らしくない酢の物です。しかし、器の中のお品を食べ合わせていると、なるほど・・・どれも主張が無さ過ぎて、サッパリ過ぎるアン肝の味がより引き立つように仕立ててあるんかと感じます。
【汁】:大根 みず菜
【ご飯】:飛騨ひとめぼれ 柿えのき山葵和え
【香の物】:飛騨漬物
留め椀の薫りは飛騨の味噌ですが、塩控えめで京赤味噌のように仕上げた滑らかな赤出汁です。大根はシャクシャク感を残してあり水菜は色を添える程度に具は少なく汁と味噌を楽しむ。八ツ三館さんで口にしたお米は自家製。今年も自家製と思わしき「ひとめぼれ」はキラキラ眩しいぐらいに光っていました。甘い・・・程よい硬さ・・・家で同じお米を使っても絶対に炊けない加減です。肉と造りの本山葵、揚げの味噌塩を取り置いて、おかわりして混ぜていただくと白米の味も最高潮でした。 柿えのきの和え物は八ツ三館さんのオリジナルのようで売店での販売もありました。日光に当てない白いエノキに対して、柿の木エノキは日光を当てることで茶色に。私的には白い物よりナメコのように粘性が高く薫り高い。結構なピリ辛で白米のお替りが止まりません。香の物は大根古漬け、名品赤蕪甘酢漬け、桜漬けと野沢菜。自家製?取り寄せても良い物が周辺にはたくさんありそうです。漬物も旨すぎて米が止まりません。
【水の物】:丸十チョコレート羊羹 リンゴのマリネ 苺
お品書きだけ見ていると丸十?のチョコ?なんだろうと思っていたら羊羹。さすがにサツマイモの品種まで分からないですが、ザラリとした舌触りにまってりとしたサツマイモと生チョコ?を練り寒天で羊羹に仕立てた物です。ねっとりはサツマイモ、まったりはチョコだが甘味は抑えて品よく。これだけで店頭に並ぶスィーツのお品。添えてある雪結晶はホワイトチョコです。八ツ三館さんは高山にフレンチレストランをお持ちなのでそちらの物でしょうか。 しゃきしゃきとしたリンゴには洋酒のような風味が滲んでいます。本来マリネは酢や酸味で漬け置いた物を言います。リンゴのマリネ・・・蜜煮でないし砂糖漬けでもない。旬の硬さがあるリンゴを浸して置くだけでは蜜は浸透はしない。味付は何だろう。リンゴを16等分して薄くして煮切った白ワインに浸して漬物石のような物で圧を掛けることで、歯応えを残しながら味をしみ込ませているのか。 イチゴは酸味がない甘味が強い上物ですが品種はなんでしょうか。それに掛けてあるのはアーモンドチュイールです。スライスアーモンドにオレンジの皮を合わせたスレートキャラメルです。イチゴ単体の甘さは強く、イチゴと一緒に食するかは好み次第。
【夜食】:笹握り飯
お部屋に帰るとテーブルに置いてあるのはお夜食の一口握り飯。
前に泊まった時はカリカリ梅の混ぜご飯の笹飯。今回はひじきとゴマの混ぜ飯でした。 有ると何となく嬉しいおもてなし。
朝食
夕食と同じ個室での用意です。
個室前には水車の歯車があしらわれた小窓。袂にはクリスマスの飾りが細かい。
朝食はこれまでと同じく定番献立は、ちょっと変わっていたり無かったりです。
七輪にはすでに炭がいこっており、朴葉と鮎を焼きます。
・朴葉味噌
・鮎の一夜干し
旬外れではありますが、開きにした鮎の一夜干しを炙りで。鮎の盛りの季節は実は12月付近です。寒さにより飛騨地方では11月ぐらいなのかもしれませんが。朴葉味噌はネギを練り込んで塩抜きしたゼンマイかワラビを添えてあります。
・茶碗蒸し
茶碗蒸しは出汁が滲みださないぐらいに硬め絶妙な玉子地に具はワカメだけというシンプルさ。和出汁のプリンような玉子地に、嫌味のないワカメはとても上品。毎度変わらないお味です。
・馬鈴薯煮物
・椎茸と木耳の山葵佃煮
・牛蒡ピリ辛味噌
・紅白なます
・梅甘露
・さつまいもきんとん
・こも豆腐
・生ハムサラダ(レタス、ミニトマト、ブロッコリー、海藻クリスタル、イタリアンドレッシング)
・飛騨高山産納豆 なめ茸 葱
・タジン鍋蒸し野菜 ポン酢
・白米 味噌汁 香の物
・抹茶プリン
定番のメニューに加え季節によって小鉢が変わる朝食です。馬鈴薯煮物は寒干しのような締まり具合で変わっています。八ツ三館さんの梅甘露は何度食べても飽きません。自家製で売店にあったので、お土産処からクーポンでお持ち帰らせて頂きた程です。珍味が乗った盆の内容は泊まるごとに異なります。ネギと山菜がたっぷり盛った朴葉味噌は炭火で焼いた後に、鮎の一夜干しを続けて炙ります。鮎も味噌も塩を強めに打ってあり白米との相性は抜群です。八ツ三館さんでの納豆は初めての品で大粒タイプは自家製でしょうか。デザートの抹茶プリンは以前はもっと濃厚だったようなイメージがあり、これまでいただいた、白胡麻・黒胡麻プリンが極上だったので、そちらを定番化してもらえたらなぁと思いました。
まとめ
師走に八ツ三館さんに宿泊したのは初めてで、これまでの中では最も料理が美味しく至極でした。宿泊した招月楼の雰囲気は、やはりしっとりと静寂に満ちており、極楽な時間をゆっくりと過ごすことが出来ました。ただ、木造屋なので騒がしいお客さんに当たると気になる方もいると思います。クリスマスの時期だったので館内の装いもサンタにツリーの飾りがとても素敵に仕上がって館内の季節の情景も楽しみの1つとして最高の演出でした。料理は月替わりなので、違う月の料理を味わいに是非に再訪したいです。
宿泊料金
平日は楽天スーパーセールで観月楼宿泊で35000円~ぐらいから。休前日は45000円~程度からです。行楽シーズンなどは少し値段が上乗せされているようにです。極々稀に楽天のセールでクーポンが使用できたりしますが、通常宿泊であれば「じゃらん」のポイントUPとクーポンのセット等が最もお得に泊まれるのではないかと思います。今回は5000円クーポンと6000ポイントbackで実質11000円引きで泊まりました。
宿泊日:2021/初冬
旅行サイト:じゃらん
プラン:飛騨あんしんの旅☆個室料亭でゆっくりお食事&貸切風呂☆5000円分館内利用券付☆
部屋タイプ:国録有形文化財の招月楼(次の間付)禁煙室
合計料金:57200円(2人)
冬セールがさらにお得になるクーポン:5000円
支払い料金:52200円
加算ポイント:6292p