田舎の田園と住宅の中にありながら、明治創業から120年以上が経過する温泉宿。島崎藤村さん縁の中棚荘さんは、かつては千曲川の傍らにあり、同人逗留時は部屋から川を眺めたり河原を散歩していたそうです。しかし、いつからか川床から山側へ移築したそうで、水害やら治水で川の流れが変わったのか・・・なので現在の藤村の間は再現築した物だそうです。
※記事の内容は宿泊した当時の内容となっていますのでご参考程度に。最新の情報は各々ご確認下さい。
旅情
上画像の看板があった所から、車一台が通れる小道を進み玄関に車を着けるとスタッフの方が駆け寄って来られました。
玄関には暖簾に仕立てた着物が掛けられてありました。中棚荘さんを発見した時からこの着物がとても印象的でした。ついに往訪。荷物をあずけて車は玄関棟裏にある駐車スペースへセルフ駐車です。
赤矢印の所から入ってきました。ロビーにはお酒類を含めたお土産や郷土の販売がある売店があります。中央奥はフロントで、横には季節である桃の節句の飾り付け。
反対側を振り返り赤矢印が玄関です。左手にはカウンターの喫茶スペースがあります。その奥にはラウンジの応接間、右奥廊下は新館の平成館と、1階?地下?にある貸会議室のようなスペースへの階段があります。
玄関隣のオープンテラスへの出入口には、ワイン・ジュース・ジャムなどを積極的販売です。中棚荘さんは、ぶどう畑とワイナリーを保有しておられます。ぶどう関連商品は売りの1つです。
こちらは館内図ではお酒もいただけるラウンジです。書庫、ピアノ、暖炉があります。チェックインの手続きはここで行いました。
暖炉は実際に火がくべられており、嗜好によってくべて下さいと案内がありました。
ラウンジから廊下に出るとお宿と周辺の案内のパンフレットがおいてあります。奥には平成館への上階段と、貸会議室のようなサロンへの下階段があります。
廊下には水槽が置いてありウーパーちゃんと金魚ちゃんのお出迎え。
下階の先には「こもれびサロン」と表札があります。訪れた時は団体客が貸会議室として使用していました。館内図ではBARとの表記もあり、ブライダルもしているようなので披露宴や二次会などの利用もできるのでしょう。
サロンを小会議室に利用されているベンチャーと思わしき企業さんが会議をされていました。
階段を戻り上階への階段を上がると渡り廊下がついています。何故に渡り廊下なのかというと・・・
廊下の窓から見下ろすと丁度玄関前の車寄せが見て取れます。到着した時に見た玄関前の渡り廊下です。
渡り廊下を過ぎるとすぐに新館の客室が現れます。
新館2階はこのように狭いながらも4部屋をとってあります。
新館1階は下階でありながらも上階4部屋に対して2部屋と倍の広さを有するお部屋です。本館は共同トイレなので、気になる方は平成館の宿泊がいいと思います。
最初の客室を過ぎてすぐに大浴場への出口?があります。
新館は鉄筋コンクリートのようですがこのような高低差があります。お風呂に行くにしてもバリアフリーではなく、エレベーターなどは無いのでお足元が不自由であれば直接お問い合わせした方がいいかと。
一度外に戻り先ほどの平成館と大浴場への渡り廊下の下を潜って中庭へ。
赤矢印の所が渡り廊下のある所です。ですので、目の前にある建物は新館の平成館です。青矢印のパイプは温泉の捨て湯のようで湯気が上がっていました。
捨て湯には池ができていました。この池には住人がいます・・・
池の住人さんは鴨でした。やはり寒い時期に温かいお湯に浸かるのは鴨でも気持ちのいい物なのでしょうねぇ。
中庭にはヤギがわらわらといました。相方がどうやら子ヤギのフワフワを狙っているようです。その背面にいるヤギからは不審者の目線が寄せられています。このあと、子ヤギを撫でるだけでなく、お母さんヤギの乳も揉む相方www
ヤギはかわいらしいですが、目が悪魔の申し子のような貯金箱なので馴染がないと少し不気味です。ただ、Hand to feedでエサやりができ、中棚荘さんのヤギさんはナデナデもできるので愛らしく。ただ、獣臭さはあるので覚悟が必要ですw
丁度、繁殖期だったのか、かわいらしい子ヤギがいっぱいでお母さんのお乳を一生懸命飲んでいました。中棚荘さんは宿泊以外の楽しみもいっぱいあります。
中庭を後にして敷地内の道路を玄関棟の裏手に回り散歩です。訪れた時は雨でしたが、テラス席のような物が数か所あります。流行り病により普段のサービス提供が出来ないのか、ランチやカフェを屋外でいただけたのかも。
敷地道路を下りきると見えていたのは有形文化財指定の直営レストランです。
有形文化財の「はりこし亭」は、島崎藤村さんの一節で「そば饅頭」を「はりこし」と呼んだことに由来するようです。ここではランチ、ディナー、軽食が楽しめるようです。訪れた時にはランチ利用が多いようでしたが、宿泊棟の夕食ではなく「はりこし亭」での夕食を楽しまれているお客さんもいたようです。文化財なので古民家の佇まいを堪能しながら食事を楽しめます。
駐車場は「はりこし亭」前にあります。車を駐車して館内へはすぐ隣にある裏手口から玄関棟に上がることができます。
桜の花が咲き始めた春の木々を見ながら飛び石を進むと、テラス席があった玄関棟の裏手、会議室利用されていた「こもれびサロン」への入り口が見えてきます。
裏手から入ると小会議室として利用されていた「こもれびサロン」を左手に見えます。
お宿は大きくはないのに終わらない館内散策。ブログ的には、しんどいのでもう終わりたい・・・。でも、昔の木造屋を堪能したい方はこれからが本番か。妥協はせず中棚荘さんの魅力は終わらない。玄関向かって左手にある宿泊棟へ向かいます。
玄関前の小道を進むと元館の「大正館」と呼ばれる玄関が見えてきます。
こちらは大正館を横手から見た景色ですが、「中棚荘」とガラスに印字された情緒のあるかつての玄関戸が見えます。
館内は当時のままではありませんが、木造ながらもしっかりと手入れされています。画像上部の赤矢印が現在の玄関です。建物前から見下ろしていた、「中棚温泉」と印字されたガラスは恐らく旧玄関。赤矢印が元々は勝手口だったのでしょうか。
旧玄関からの上がりはロビースペースがあり、夕食の時間になるとここから、お食事処へ案内して頂けました。
ロビー奥はお食事処となっています。
夕食の時間になるとお食事処に明かりが灯ります。二つの大広間のいずれかでいただきます。平成館のお客さんも恐らくこちらで食事をとっていたと思われます。
若菜・落梅は昔の風情が残り、たまらない情景を醸し出します。こちらは団体客が利用していました。
こちらは風花の広間で個人客のお食事処のようでした。自分らはこちらのでの案内でした。室内には段差があり舞台のようなあつらえです。
風花の入り口には季節装飾であるお雛段が飾ってありました。
お食事処前の廊下の先に大正館の客室があります。
廊下の分岐まで来ると下への階段と、右奥へは客室廊下が伸びています。廊下突き当りの部屋が「藤村の間」です。
とある、お部屋の扉が開いていたので覗かせて頂きました。踏み込みなどはなく、廊下の扉を開けるとすぐにお部屋があります。現代では好き嫌いが分かれそうではあるが、私的には嫌いではなく湯治の雰囲気が感じられるようでむしろ好きです。
大正館にはトイレのあるお部屋がありません。1階のお部屋に泊まる際は、お食事処前にあるトイレを使うことになるようです。建物は古風で昔のタイルの趣きを残してありますが、現代のシャワートイレなので安心です。
次は階段を下階に降りていきましょう。階段周りも小窓がたくさん付いていて、現代のsimple is bestではなく無駄があるのがむしろ新鮮です。
階段を降りると正面にはレトロタイルの洗面所があります。壁タイルは張り替えたのか、ステッカーのような物を貼ったのか、やけにかわいらしい鶏の親子のデザイン。何故にこのデザインになったのか・・・。室内に洗面所がないお部屋が多いので、こちらの共同洗面所を使います。
洗面所から左を向くと下階のトイレと談話室のようなお部屋があります。
トイレは木造建築なので春先や冬季はかなり冷えます。ただ、清掃はきっちりとなされ、便器もシャワートイレになっていました。この当たりが気になる方は、やはり平成館での宿泊がお勧めです。
トイレの隣にある談話室のような小部屋には多くはありませんが漫画なども置いてありました。不思議なスペースですが、かつては喫煙所とかだったのか。
下階の廊下は上階に比べると光の通りが弱く薄暗く、傾斜地に建つ木造建築の趣きです。山の傾斜地に建つお宿はおおよそジメジメと湿気が強いのですが、中棚荘さんは古い建物なのに古い木造の臭いがほとんどありません。これまで訪れた木造建築でも昔ながらの独特の空気が感じられました。
お部屋
案内して頂いたのは「藤村の間」真下のお部屋、「草枕」です。中棚荘さんのお部屋は島崎藤村さんの詩や小説由来の名前が付いています。
このお部屋も他のお部屋と同じく踏み込みなどはなく、扉を開けるとすぐに本間があります。感染予防に接触を避けるため、あらかじめお布団は敷いてありました。廊下奥の扉の向こうには貸切風呂があるようでしたが、訪れた時は使用されていませんでした。
間取りは本間6畳+和風テラス的変形3畳間です。
建築当時の面影を残す小さな床の間の梁や、鏡の上にある装飾は何という名前の造形なのか。
奥にある小さなテラス3畳は角部屋なので窓が大きくとられています。こたつが置いてあり、ちょっとした離れの隠居間のような落ちつきがあります。実際この記事の原文を打ち込んでいると、気が向けば庭に目を向けては若葉に癒され、小さな空間に入ってくる沢山の光は落ち着きをもたらし、作家さんが文をしたためる時は嗜好のある空間を求めたのが何となく分かります。藤村の間でなくてもこの3畳とても落ち着きます。
やはり木造建築らしく冷えが強く、本間の備えに電気湯たんぽや石油ストーブが置いてありました。
柱のお花にアルストロメリアの生花が活けてありました。
張り出した小部屋には小さなテレビや冷蔵庫の備えがあります。全てが手の届く範囲にあり完全に隠居部屋か、お篭り文人部屋です。
炬燵からの景色は中庭を見下ろします。春先であったため植木は殺風景ではある。花の咲く季節ではさぞかし良い景色が楽しめそうです。こりゃ、書き物も捗りますわ。
隠居間から入り口を振り返るとお部屋の構成が分かり易いかと思います。こじんまりとして無駄がない。前述したようにお部屋にはトイレはなく洗面所もないので、気になる方は平成館へ。
入り口の襖絵も味わいがあり、いつ頃のものなのか。
こちらは外から見たお部屋の様相です。1階部分がお世話になった「草枕」、2階が「藤村の間」になります。画像右手にある階段を降りたところにある建物が、かつての貸切風呂のようです。
冷倉庫には瓶ビールと天然水のペットボトルと、真ん中には源泉を冷やした冷水泉がありました。温泉好きにはとんでもなく有難い配慮です。
木造屋はとても冷えるので、何とモンベルのダウンの半纏が用意してありました。アメニティは足袋からヘアーブラシまであります。髭剃りはありませんでした。言えば用意してもらえると思うのですが、館内の水道はすべて温泉水のようなので、真水が欲しければ用意するか、お宿の方に尋ねておくほうがいいと思います。館内には自動販売機はなく、エントランスの売店でジュース・お酒類を買い求めることができます。徒歩圏内に商店らしいものはないので、必要な物があれば事前の用意がいいかと思います。
お風呂
露天風呂が併設された男女別の内湯が1カ所ずつあり、入れ替えはなく湯屋はほとんど同じ造りとなっています。無色透明の源泉はツルツルとした肌触りの後に、皮脂が落ちるとスベスベ触感に変化します。泉質はアルカリ性単純温泉ですが、匂いは微硫黄臭(硫化水素臭)でわずかなエグ味があります。湯使いは画像の通りで加温はあるが加水はなく源泉100%、露天風呂は源泉かけ流し、内湯は循環放流となっています。水槽に一度溜めてから消毒はしているようですが消毒臭は全く感じられませんでした。湯量は豊富でまろやかな湯を常に新鮮な状態を堪能することができます。
大浴場は平成館にあるため大正館に泊まるとかなり遠いです。ほんまに遠い。宿泊した「草枕」の部屋は最も遠いのではないかと思われます。大正館の最奥から、中棚荘表玄関まで戻りますが、ロビーから平成館方面へ向かい渡り廊下を渡った先に大浴場の入り口があります。そして、扉を開けると画像のような石の階段が現れます・・・。 ここから50段階段を上ります。
大分遠いな・・・。
階段を上がっていくと休憩スペースがありさらに階段があります。
休憩スペースには源泉地に最も近い飲泉場があります。口に含んでみると、硫黄(硫化水素)の匂いと炭酸成分のようなエグ味は、明らかに浴場の温泉よりも強く感じます。
シュワっとまではいかなくとも、ペットボトルに汲むと白い気泡は炭酸成分でしょうか。料理に使うもよし、焼酎で割るにしても美味です。
休憩スペースから少し上がった所にあるのは男湯の「樹林の湯」です。女性はここからさらに苦難が続きます・・・。
男湯から少し階段を上り石畳のスロープが見えます。正直なところを申し上げると足腰が元気なうちに行くべき温泉であることは間違いありませんw
石畳の末にようやく女湯である「観月の湯」に到着です。おつかれさまでした。
男湯「樹林の湯」
浴場に入るとモイスチャーで温かい。脱衣所から浴場内が見えるというのは前もって知っていたのですが、さすがに脱衣所と浴場には、ガラスなどの境があるだろうと思っていました。いわゆるロッカー的なものはなく、積んである籠に衣類を入れるという古風?なスタイルです。
脱衣所と浴室が同じ空間なので、湿気が高いのは分かります。しかし、篭るような湿気はなく、天井を見て納得がいきました。これだけ天井が高くとられ、湯気を逃がす楼があるからこもっている感じがない。
脱衣所と浴場の間には隔てる壁はありません。その気になれば脱衣場所から湯舟に直接ダイブできる(※やってはいけません)、脱衣所と内湯が完全に直結した開放感はこれまでにない仕様です。
臼のような湯口は真ん中から、音もなく湧き出す源泉に茶色の析出物は炭酸成分だろうか。内湯は季節によっては林檎風呂になるようです。湯舟の湯温は「あつ湯」なのに、臼に一度溜めてから注がれる源泉はぬるい。源泉は38度で内湯は循環とあるので加温循環による温度差でしょう。
あつ湯にしてあるのは季節が春先だということもあるのかもしれません。リンゴは視覚的要素で掛け流してあることもあり、湯への匂い移りはなく手に取るとリンゴの香りはします。
投入量は多く湯舟の端から溢れ出す湯量も気持ちがいい程です。温泉成分で床が黒く変色しています。頭を洗っていると硫黄の匂いが立ち込め、なんとシャワーも温泉でした。館内の水が温泉なので当然といえば当然か。
内湯から外へでると、石造りの2つの湯舟があり「あつ湯」と「ぬる湯」に分けられています。
左手前の「あつ湯」浴槽には岩の間から塩ビ管が2本出ています。浴槽へ直接噴出しており、加温された源泉と共に泡がぷくぷくと吹きあがっています。こちらは吸い込み口はなく、完全な加温かけ流しにしているようです。
あつ湯とぬる湯の間にはこのような隔たりがあり、あつ湯浴槽からぬる湯浴槽へお湯が流れる仕組みになっています。訪れた日のぬる湯浴槽は、かなりぬるく入っていると外気温が低いので上がれなくなります。ただ、ぬる湯好きにはたまらない温度であるのは、中棚荘さんの裁量でしょうか。
ぬる湯には竹筒から注がれるお湯がありこちらも源泉でしょうか。打たせ湯にしては頼りがない。温度を冷ます意味だと「ぬる湯」への温度調整か。
配管が詰まらないように竹簾のろ過装置がついた捨て湯からは豪快にお湯が溢れ出ていきます。ダバダバに捨てられる温泉は、勿体ない程で凄まじい湯量です。
露天風呂からは小諸の山々と街並みが見えます。浸かってしまうと絶景は見られない・・・のでもどかしさもあるが、寒い時期は「あつ湯」に入りたくなるものです。
女湯「観月の湯」
女湯もほとんど同じ造りとなっていて、露天風呂だけ少し趣が異なるようでした。女湯の露天風呂では相方の産毛に泡付きがあったそうです。確かに炭酸のエグ味があるので、有りえない話ではないかも。
脱衣所からの景色はほとんど同じで湯舟の多きさなどもほとんど変わらず。
内湯はほとんど同じ構成のようです。
唯一違うのは女性側には湯舟の端に側溝のようなものがあり、そちらからお湯が捨てられていました。この湯量が常であれば相当量の注ぎがあります。
同じように見えて若干趣きがことなる露天風呂。構成は同じで手前があつ湯、奥がぬる湯です。同じようにぬる湯には竹筒の打たせ湯があります。
どうやら訪れた季節では、寒がりの相方は「ぬる湯」は寒すぎたようです。体温と同等程度の湯温。振り帰り内湯の出入口方面をみると男湯に比べると手狭な感じです。
あつ湯からぬる湯への流れはは男湯と同じ湯使いです。
画像を見て頂くと鮎でも獲るのかというほどに、男湯と同じように竹簾のろ過装置があります。訪れた時は雨が降っていたので露天を楽しむには今一つの天候でした。天気がよければ、硫黄の匂いを感じながら「ぬる湯」の長湯を味わってみたいです。
お料理
お食事処前にはオリジナルワインの宣伝、季節料理の説明、お米の原産は長野だと表記がありました。
朝夕共に大正館にあるお食事処である「風花」でいただきました。一席ごとの間隔はかなり広くとってありました。地物と言うと郷土周辺の物ですが、素材のほとんどが自家製をたっぷりと使い、派手さはありませんが新鮮豊かな創作会席に仕上げています。先人達の記録を見ているのと、時期により内容が異なり、正直なところ期待はしてませんでしたが、手作りの会席料理を満喫の一言です。2か月に1回献立が変わり年6回の季節会席を楽しめるそうです。
献立は頂いたお品書きをもとに書いてあります。内容に関しては説明して頂いたものと、実際口にした感想を交えて記してあります。個人的な感想なのでご参考程度に見ていただければ幸いです。
夕食
初の配膳は小鍋と釜飯、食前酒、前菜、造りです。中央の赤丸の食前酒にもしっかりと蓋がしてありました。これまでに見たことのない気遣いです。
席に着くとすぐに火が入る釜飯と小鍋。
【食前酒】:藤村のにごり酒
ぐぐいっと飲み干すと一番最初にほんのりとした甘さはどぶろくか?否!米ではなく純な日本酒の甘さで後から湧いてくるのは麹の風味。濁りだが飲み口は日本酒そのもの。地元の造り酒屋への特注品だそうです。そして、胸が軽く熱くなるぐらいの酒度がある酒好きの味です。お酒が苦手な方は避けたほうがいいかも?
【先付け】:黄身酢ジャム和え 帆立 長芋 椎茸 菜の花 紅芯大根
ハマグリの貝殻のような小鉢に盛られた黄身酢の彩りが映える先付けです。極わずかな酸味の黄身酢には刻みマーマレードのような柑橘が練り込んであります。それもあってか甘味は強くねっとりまったりとハチミツとかも入ってそうです。これに炙って味を締めた帆立と長芋、春の薫りをしっかりと残した菜の花に絡めていただきます。朱の長細いのはビーツとかでしょうか。
【お造り】;桜大松皮造り マグロ 花弁大根 大葉 大根けん 山葵
最初に用意されていた見事な九谷焼の箱重には、鮮やかな赤身の本マグロと、表皮に湯をかけて冷水で締めた松ぼっくりのように逆立たえたタイの造り。サッパリ醤油の味付けに、春らしい大根の桜花びらで春を添えます。2品と少なくシンプルながらも、関東寄りの熟成タイプのお刺身です。ここまでは先人の記録に準ずる内容と大きくは変わりなく。
【小鍋】:若竹柚子こしょう鍋 筍 若芽 白才 春菊 えのき 鶏つみれ
火が入る前のお出汁は塩が弱くカツオと昆布の合せでしょうか。ワカメが入っているめずらしいお鍋です。
沸き立つにつれて鶏とカツオの薫りが強くなってきます。思っているほどに柚子胡椒の風味はありませんが、汁を飲むと後から少しだけピリリと辛味を感じます。爽やかなお出汁は飲み干してしまいました。筍はコリコリではなくシャキシャキとした真正のタケノコ味が春を誘います。つみれはふわふわでお箸で容易に割けます。繋ぎは片栗粉とか卵でしょうか。これにネギ?を練り込んであります。白菜も早く火が通るように細切りにして食べやすくしてある一工夫。季節にもよるのか先人ブログでは単純な小鍋だったようですが・・・
【焼物】:鰆ふき味噌焼き 苺ジャム エシャレット あんず密煮
サワラは身が柔いイメージですが、旬物は脂が乗っていながら締まっています。一度火を入れてから蕗味噌を添えて炙ってあるようです。ふき味噌は白味噌にさらに砂糖甘味を持たせたほどに甘くしてあり、春の訪れフキノトウはエグ味がないように、ふわりと香る程度にのみに留めサワラを引き立て上品。付け添えのエシャレットはエシャロットではなく、玉葱種でも優しい種でラッキョのようで刺激なく、唯々たまねぎの旨さをあっさりした甘味だけを残して炙り焼いてあります。
このサワラに小諸産の苺ジャムを絡めてお召し上がりくださいという説明。フレンチのような一品になってきました。良い意味で主張をしないイチゴジャムはサワラとふき味噌をフルーティに包み込み意外と合う。何故、いちごジャムなのかというとイチゴジャムは小諸が発祥なんだそうです!!2021年で100周年になるんだとか。
【御凌ぎ】:大王岩魚葛叩き そばがき 法蓮草 生姜 桜花 べっ甲あん
信州サーモンに次ぐ淡水の新名物大王イワナです。川魚の独特の臭みが全くなく、イワナの旨味だけを取り出したように口にしやすいもの。
大王イワナに葛を打ち蒸しあげてから餡に浸してあるそうです。かなりしっかりした身の締まりは、高温で蒸しあげてあるのでしょうか。自家製のそばがきは、しっとりとした蕎麦風味は箸では切れないほどで、白玉団子のようなもっちり感を持たせてあります。青味の法蓮草も法蓮草をギュッと固めたような青さが濃い。べっこう餡はカツオ出汁かと。ショウガを溶きまわして爽やかに、リアル桜花はまだですが、春の飾りに桜花を添えてあります。こういうのは、あるとこにあるとお宿の方々は申します。
【おきもちのお品】:手打ち蕎麦
献立にはない、こしが入ったグモグモ食べれる自家製の手打ちそばをいただきました。とても蕎麦が香ばしく、麺つゆは蕎麦味を活かすための薄口です。こちらもカツオと昆布を使っているようで、みりんや砂糖の加糖は少なく濃口と薄口の醤油を両方使っているような味です。薬味は、わけぎとワサビ。グループによっては本山葵を別注で注文されていました。
【揚物】:佐久鯉桜揚げ こごみ 丸十 抹茶塩
さくさくのホクホク熱々で配してくれる天婦羅には、春の訪れ青味のこごみはヌルっと粘りがあり、丸十のサツマイモは地物ブランドなのか、下ごしらえしてからなのか、甘味が半端ないぐらい強く美味。
そしてメインのコイ。正直なところ献立にコイと記載がなければコイと分からないぐらいに臭みやエグ味がありません。どのあたりが桜揚げかというと、桜葉の塩漬けから塩を抜きコイに貼り付け揚げてあります。脂は強くなくほっくりとした身振りはたしかに淡水魚の味です。ですが、イワナですって出されても信じてしまいそうにコイだと脳が理解できなさそうです。清流で育てると生き物も浄化されて美味しくなるんですねぇ・・・。いやはや上品な下ごしらえです。
【食事】:釜炊きご飯
【汁物】:茄子 若芽 葱 しめじ
【香の物】:二種盛り
季節の釜飯は豆ごはんです。この当たりは好みもありそうです。が、信州は米と水がおいしく何を合せても美味い。
あらかじめ緩く塩を持たせてあり食べやすく。止椀は京仕立ての赤出汁です。焼きナスと炙りシメジがとても焦げ香ばしく、赤味噌と相性のいい粉山椒を一振り。香の物も自家製だそうで、ハクサイの浅漬けと野沢菜です。
【水菓子】:季節のデザート
中棚荘さんのところへ訪れる前に周辺の道の駅に寄ったら、旬のイチゴがたくさん販売されていました。品種は分かりませんが、かなり甘く香りがいい。後ろの黒い塊りは黒胡麻のわらび餅です。少々粗く当たった黒胡麻を、弾力のある生地に練り込んで、やさしく甘味を付けてあります。黒胡麻が口の中で踊るという表現が適切な程にすごい主張です。
朝食
夕食と同じお食事処でいただきました。朝食というよりは前菜もある、ちょっとしたランチ御膳のような献立となっています。
・小諸産のリンゴジュース
・温泉卵
地元の林檎を使った爽やかなリンゴジュースからいただきます。透明感を残した濃縮タイプです。酸味はなく甘い。 温泉卵の合わせ出汁にはカツオのショウガ餡と変わっています
左から
・切り干し大根
・海老 焼なす 若芽 酢味噌
・いちじくワイン煮
・サーモン南蛮漬け 南瓜
・林檎糟漬け 胡瓜鉄砲漬け
前菜のよな小鉢5種盛の器には少し風変りなしょう油が強め切り干し大根。 夕食とは変わって濃い酢の酢味噌にはプリプリの海老と焼き香ばしい茄子。 無花果のワイン煮はデザート感覚ではなくしょう油と合せているのかしっかりとしたおかず味です。 南蛮漬けはしっかり酢を持たせてある信州サーモンでしょうか?南瓜は別に炊かれたもので焼き目も入れて薫り高い。 香の物には、自家製と思われるリンゴの糟漬けの珍品と胡瓜の醤油漬け。
・カレイ西京漬け焼き
・サラダ(キャベツ、サニーレタス、紅白大根・人参、豆腐、紫キャベツ)
カレイの西京漬けは丁寧に漬けられて、麹がしっとりと滲み水気が抜けることなく、脂が良く乗りとんでもなくジューシーさはカラスカレイか。 サラダは結構な辛さのあるワサビドレッシングで。
・麦とろご飯
・味噌汁 信州味噌仕立て
・焼き海苔
食事は健康的な麦飯です。丁度、1人2膳盛れるように御櫃に入っており、1膳はおかずで、もう1膳はカツオ出汁で溶いたトロロでいただきました。
塩加減もよく追加の醤油は要らず、ゴマを散らせると香ばしさが増し美味。お味噌汁も丁寧に裏漉しされた信州味噌に、ナメコ、ワカメ、チーズのような豆腐を入れ込んであります。
まとめ
周辺は田園風景と田舎農村で、何故にこんなところに温泉宿があるのかと思う、キツネにつままれたような不思議な時間を過ごせます。周辺には何もなく時間が静止しており、思考を揺るがす物が何もない。繁盛期になるとまた違う様相があるのかもしれませんが、本を読みながら、庭をめでながら、記事を書いて時折庭を眺めたり、久々の「人生の息抜き」がそこにあったように思います。優しく香る硫黄の源泉は素晴らしく、お値段からすると創作性豊かなお料理は先人たちのそれではなく、次の休みにでもすぐに訪れたくなる空間と食を提供してくれます。
宿泊料金
先人たちの記録から宿泊料金に見合うのかという疑問が多く足が遠のいていました。通常からあまり割引をされないお宿であり、まず10%の割引はされない印象です。じゃらんから10%の割引が得られるクーポンの配布があったので迷わず予約しました。客室によりお値段は変わりますが、派手さはなく過度なサービスもない、普通の旅館ステイで旧館で30000円なら安すぎる内容かと思います。
宿泊日:2021/春
旅行サイト:じゃらん
プラン:【人気♪】信州☆健康長寿プラン 半蕎麦付の創作会席
部屋タイプ:島崎藤村ゆかりの館 大正館1階
合計料金:34320円(2人)
春セールがお得になるクーポン:3500円
支払い料金:30820円
加算ポイント:754p